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一本の道  作者: ムぬぬ
1/1

始まり


(ここはどこだろう・・・)


座り込む体の下には鮮やかな青色の花が咲いている。

周りには、大の大人が5人いてやっと幹を腕で一周できる様な有り得ないほどの太さの大木が目の届かない所まで続き、日の届かない暗闇を生み出している。


(森・・・?)


いづれにしてもこんな大木が乱立する様なものではないだろう。

こんな所にいることも普通ではないが、私は私自身が何者かも分からなかった。・・・覚えていないといった方が確実だろうか。


(私は・・・何者?ケガとか頭を打ったとかではないみたいだけど)


目立った外傷はまったくない。

ふと、自分の手に何かがあることに気がついた。


(本?随分と汚いけれど・・・)


よく見ると、薄茶色に色あせてはいるが表紙には金の糸で細かい装飾がなされている。

中央には足元のものと似た花と空が描かれている。


(タイトルは・・・・空の道?)


どこか懐かしいような響きが頭に巡るがそれが何の記憶なのか検討がつかない。

まったく手がかりが見つからないが、ここでずっと考えているわけにもいかない。


(どこかに移動しなくちゃ・・・・村でも街道でもなんでもいいから見つかればいいんだけど)


辺りを見回す。足元の花はまるで寄り添い会っているかのように木漏れ日の僅かな光の中に群生している。

その花の甘い香りは体を包み込み、この場所だけ不思議と外から守られているような心地がした。しかし、自分を探している人がいるかどうかもわからないこの状況では動かざるを負えなかった。

その時、微かに水の音が聞こえた。


(川があるのかな?)


とりあえずその音を頼りに少女は歩き出した。



歩きながら少女は自分がどのような人物なのか考え始めた。

服装としては、かなりシンプルで薄茶色の粗末な布を1枚、体にまとったものだ。


(動きやすいからいいけど・・・)


森はどこまで行っても常に薄暗く、時々聞こえる物音に驚かされながら、水の音の聞こえる方へ向かった。


しばらく歩くと小さな川が現れた。川はあまり大きくはなく、少女1人だけでも渡っていけそうだ。


(水が手に入っただけでもよかった。でも、人の気配はないみたい・・・)


川の底が見えるほど透明な水は、完全な安全を保証してくれるものではなかったが、それだけでひと安心する。


(少しここで休んでいこう。手がかりは何も無いけど。)




足を少し冷たい川に沈め、一息つく。


(こういう時ほど焦っちゃダメだ・・って誰かに言われたような気がする。)


少女は自分自身の過去について考えてみるが、記憶は遠い暗闇の中にあるようで手が届かない。


「バキバキッ!」


木々の枝をへし折るような音が聞こえた。反射的に体が飛び上がったように震える。

音の方へに振り向いた。


(・・・!!!)


まるで蜘蛛のような生物の8つの目がこちらを見つめていた。いや、蜘蛛と呼べるものなのだろうか。

6本の脚はそこらの大木の太さと同じくらいで先には鋭利な爪は紫色に怪しく光る。目は顔と思われる部分の中央に大きなものが4つ、側面に二つの小さな目がある。

体長は10mほどでこちらを見つめている複眼は少女の頭ほどある。口からは黄緑色の涎のような液体が滴っている。


少女は跳ね起きて、倒れるように走り出した!


(ありえないありえないありえない・・・!!)


記憶喪失ではあるものの、あのような怪物がこの世にいる訳が無いことくらいは分かる。


「ギョギャァァァァァ!!!!」


言葉にならないような声を上げ、その怪物は追いかけてくる!

口の牙がカチカチと音を鳴らしながら、その巨体に似合わないスピードで巨木の間をすり抜ける!

6本の足の爪を突き刺す度、ぬかるんだ地面は大きく揺れ、バランスを崩した少女は木の根に引っ掛かって少女は地面に倒れ込んだ。

恐ろしくて振り向くことも出来ない。

背後ではその怪物の生臭い匂いがすぐ側まで迫っている。涎が足元の落ち葉に落ちて赤黒い煙をあげる。

酸のような匂いが辺りに満ちて、思わず吐きそうになる。


(もうダメだ・・・!)


全てを諦め、目を閉じた。


その時、背後で何かを弾くような金属音がした。






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