日記の謎
七つの台座で入手した鍵を使い、①の部屋へ入った。
中を見ると、本がずらりと並んでいる。
「あれ、玉座はないノ?」
「本を調べたら、何かあるかもしれません」
「そういえばニールさん、ここに立ち寄ったことありますか?」
きりんせいじが尋ねた。
「来るのは初めてですが、様々な調査記録があるので、どこになにがあるかだいたい分かりますよ」
「この中に怪しい本はありますか? あと刀を蘇らせるためのものも」
どうやら、きりんせいじはまだ、刀のことを諦めてはいないようだ。
「すみません、本の内容には詳しくないんです」
「じゃあ本を調べよう」
「ここについての本はないのでしょうか?」
るしはそう言うと、本棚を見て回り、お目当てのものを見つけた。
それは日記帳のようだった。中をぺらぺらと捲ってみたが、あまり書いてはいなさそうだ。
「おーい、また日記帳がありました!」
別の場所で探していた仲間を集め、今度はきりんせいじが代表して読み上げた。
『この部屋以外に他に調べられそうなものはなさそうだ。
この部屋にどこか隠し扉があるのだろうか?』
「刀についても探そうか」
今度は華桐がそれらしい本を見つけ、きりんせいじが我先にと読み上げた。
『ここの空間は歪んでいるので、ここで壊れたものはあなたが最初に来た場所で直せるかもしれません。』
「メインルームですか?」
「そこのワープゾーンかな」
るしと華桐の言った通り、メインルームに一旦戻った。
研ぐアイテムを取り出し、成功率を上げてから、きりんせいじが残った刀の刀身を捧げた。が、刀を壊した張本人だからか、その願いは届かない。
「おれがやってみル」
きりんせいじの想いを継いで、Lが代わりに捧げた。
すると、今度は運命の女神様が微笑んだようで、刀は幻想的な光に包まれ、映像の逆再生のように刀の破片が刀身の上部に集まり――
「刀が直ったー!!」
きりんせいじが歓喜の声を上げた。
「Lさん、ありがとう!」
そして、Lとがっちり握手をした。
「大事にするんだよ。①に戻ろう」
本当に嬉しそうにしているきりんせいじに、華桐が言った。
場所は戻って①の本部屋。
「本棚に仕掛けがあるのかな?」
刀と元気を取り戻し、完全復活のきりんせいじが言った。
今まで通り、まずは部屋に何か気になるところはないかチェック。
「本には別に仕掛けはないみたい」
「だが、壁の本棚に少し隙間が……」
華桐ときりんせいじが何か気付いたようだ。
その隙間をコンコンと叩くと、音が反響した。
「空間がありますなあ」
「ところで、何か忘れてないかな……」
「四季がうんぬんかんぬんとか、金曜日からとか……」
「それそれ。どういうことなんだろう?」
きりんせいじと華桐が、まだ解いてない謎について思い出した。
華桐が、内容をメモしていた手帳を見返した。
『その場所では、秋、春、夏、冬、の順で季節が訪れ、一週間は金曜日から始まる。』
「うーん?」
るしにはなんの見当もつかなかった。
一方、きりんせいじは、思いついたことがあった。
「母国語だけでは解けないのかもしれない」
「えーと、英語にして考えてみるね。季節はautumn、spring、summer、winter。一週間は金曜日始まりだと……Friday、Saturday、Sunday、Monday、Tuesday、Wednesday、Thursday。あすさう……ふささま……違うな、頭文字じゃない」
華桐は首を横に振った。
「日本語と英語以外だったら、全く分からないよ」
全員、うーん、と考えこんでしまった。
「やはりこれは、英語でないと解けないらしイ。なんとなく、そんな気がすル」
Lが断言した。
だが、それ以上思いつくことはなく、ただ時が過ぎていく……。
《秋はautumnではありません!!》
そんなとき、天井よりもずっと向こうから、そんな声が聞こえた気がした。空耳……とは、少し違う。
「まじか!」
とりあえず華桐は、素直にその言葉を信じることにした。
ちなみに、これを解き終わった華桐曰く、秋はどちらでもよかったとのこと。天の声さんも焦っていたのだろう。
もう暫く考えたのち、華桐がぽつりと言った。
「fall……F、SP、SU、W……アルファベット順? だから? ……辞書?」
「英和辞典!!」
きりんせいじがその答えのアイテムを叫んだ。
「それだ! 探そう!」
再び本を探して回り、華桐が英和辞典を見つけた。
「なんだこれ?!」
中を開いて見てみると、英和辞典だったのは外側だけで、中には謎の文字がずっしりと埋められていた。
このとき、一人だけ反応のおかしい人物がいた。
華桐が本を手に入れた時から、今までの爽やかさは何処へやら、ニールが苦々しい顔をしている。
本を持っていた華桐以外の三人は、運よくニールの様子に気づくことができた。
「怪しいのは本当だったのか……」
るしは小声で言った。
「どうしたんですか?」
「頭が痛いんですカ? ならば外に出てってくださイ」
ここでも、今までと変わらず、きりんせいじは堂々と訊くスタイル。
きりんせいじに続いて、Lは容赦ない。
「少々具合が悪くなってしまいまして」
ニールは依然として、しれっと答えた。
「誰か……治療を……」
るしがあたふたと演技をした。
それから、今一つ状況が呑み込めていない華桐に、ひそひそ声で説明した。
(あのー華桐さん、ニールさんが苦虫を噛み潰したような顔をしているんですけど……)
(本当? やっぱり怪しかったからなあ)
(どうします?)
(手錠あるじゃん)
きりんせいじも話に加わり、万が一のことがあっても、何とかなりそうだということになった。
「とりあえず玉座を目指そう」
「隠し扉……あそこの壁が怪しかったですね」
華桐とるしが声の大きさを普通に戻し、移動を促した。
ニール、L、るし、華桐、きりんせいじの順で、壁の前に移動した。
「ニールさん、この辞書読めますか?」
華桐が、奪われて燃やされたりされては困るので、渡さずに見せた。
「……すみません、読めませんね」
「そっかー、みんな読めないのかー」
華桐が、当たり障りのないような返しをした。
「さて、どうやって入るかだな」
「スイッチでもあるんじゃないですか?」
華桐がピンと閃いた。
「この壁、ふつうに攻撃すれば壊せるんじゃない?」
「俺の出番だー」
「任せた!」
「おりゃあああ!」
きりんせいじが、復活の名刀で斬りかかった。
壁にヒビが入り、かなりのいいダメージが入ったことが分かった。
「次はわたしが!」
るしがこぶしで壁に殴りかかると、壁は音を立てて崩れた。
「これで中に入れるぞ!」
(図4)
まさかの天の声登場です(笑)
カットしても成り立ちますが、おもしろかったので残しました(*‘ω‘ *)