七つの台座の謎
ゾンビの居た⑦部屋にから、隣接する④の部屋に出たときだった。先頭を歩いていた華桐が、突然足を止めたのだ。
「わ! どうしました?」
「あ、ごめん。水が……引いている」
華桐の言った通りだった。先ほどは水がいっぱいで通ることのできなかった場所から、水がなくなっていた。ちなみに、先ほどあった骨は、流れてしまったらしく見当たらない。
「どうする? 先にこっちから行く?」
「いや、食糧庫に行ってからで」
「食糧庫~!」
きりんせいじとLが口々に食糧庫を推したので、目的は変えずに⑥へ移動した。
「さあ、紙に書いてある食糧を探そう」
⑥に到着すると、華桐が全体に呼び掛けた。
「いえっサー」
「了解です」
探すのは、マスタード、ナス、ドーナッツ、ごま、ツナ、いちご、スイカの七つの食糧。
手分けしているので、案外ぽんぽんと見つかった。
「お、ドーナッツ見つけた。ごまがついているぞ。新しい!」
最初に見つけたのはきりんせいじだ。
「ごまを剥がそう。ここにスイカはないから、さっきのを使うしかないみたい」
「ツナ缶にマスタードがついていて、中にいちごが入っていル!」
「なんで?」
「ツナはどこ?」
Lの発見した謎の缶に対し、女子勢がツッコミを入れた。
ツナを求めて、きりんせいじと華桐とるしは、他の缶を持ってきて中を確認していった。お目当てのツナは、るしが持ってきた別の缶に入っていた。
「あった! あとはナスですね」
「あ、ナスがあったよー」
今度はきりんせいじが見つけてきた。
「台座に乗っけてみましょう!」
「まず、紙に書いている順に載せてみようか」
七つ並んだ直線状の台座に、華桐の提案の通りの順で載せてみた。
手前から、マスタード、ナス、ドーナッツ、ごま、ツナ、いちご、スイカの順。しかし、反応はなかった。
「おっかしいなあ」
「今度は逆向きで」
きりんせいじが言った通り、スイカ、いちご、ツナ、ごま、ドーナッツ、ナス、マスタードの順に並べ直してみたが、反応なし。
「情報を集めよう」
「ごまから載っけてみましょう」
華桐の提案は一蹴され、今度はるしが当てずっぽうに並べ始めた。
ごま、ドーナッツ、ツナ、ナス、いちご、マスタード、スイカの順。
「頭文字になにか意味があるのかも?」
華桐の思いつきの通りに考えると、ごどつな、います……?
「なんかの言葉になったような……?」
「うーん。やっぱり違う気がする」
るしはそう言っているが、華桐は即座に自分の意見を否定した。
「あいうえお順?」
Lの意見の通りに並べた。いちご、ごま、すいか、ツナ、ドーナツ、なす、マスタードの順だ。しかし、案の定何も起こらない……。
そのとき、きりんせいじが、台座の奥に数字が書かれていることに気が付いた。
「おい、あそこに数字が書かれているぞ! 三だって。なんのことだ?」
「さっきはそんなのありましたっけ?」
「もしかしてこれ、三カ所合っているってこと? あっ! これさあ、しりとりじゃないかな?!」
「いちご、ごま、マスタード、ドーナッツ、ツナ、ナス、スイカ!」
「ほんとだ!」
華桐の言ったとおりに考えてみると、見事成り立った。
手分けして、その通りに設置すると、
カチッ
何かが噛み合う音がした。
全員で調べてみると、ケースが取れて中に入っていた鍵が現れた。
「これは私が持っておくね。これ、なんの鍵だろう?」
「分からないナ。次はどこ行ク?」
「水びたしだったところから行こう」
きりんせいじの意見に反対はなかったので、④へ向かうことにした。
メインルームへ着いたときだった。
そこには、見覚えのない一人の男がいた。
「お前は誰だ?」
「組織から遣わされてきた案内人です。寝坊して遅れてきました」
きりんせいじかひそひそ声で、怪しいなあ、と呟いた。
一方、Lは露骨に疑ってかかる。
「そんな情報ありましタ?」
「待て待て、あまり刺激しないほうがいい」
「怪しいです!」
きりんせいじが、堂々と怪しい人物に話しかけた。
「君の名前は? 何処支部の方かね?」
「ニールです。支部って、なんでしたっけ?」
まさかのすっとぼけに、きりんせいじはチッと舌打ちした。そもそも支部なんてものはないので、ここで適当なことを言ってきたら、十分怪しいことに確証を得られたのだが。
代わって華桐が話を進めた。
「まあいいや。案内って、何を案内するんですか?」
「罠を避けるお手伝いなどをします」
「じゃあさっそくだけど、罠のあるところに連れて行ってもらおうか」
「わかりました」
ニールは爽やかな笑顔で答えた。
この人マジで怪しいなあ。
るしは、心の中でそう思っていた。
行先は変わらず、水びたしの④へ。
先頭は、当然ながらニール、後に華桐、L、るし、しんがりはきりんせいじだ。
④へ到着すると、一行は絶望的な光景を目にした。
なんと、せっかく引いていたはずの水が、元に戻っているのだ。
「さっき調査していればよかった!」
華桐が、さっきは先に調べようなんて言ってなかったのに、後悔を口にした。
「これはどういうことなんだ、水が戻っているぞ?」
「えー。またゾンビ倒すの?」
「その心配は要らない。扉を開ければ水が引く仕組みなのでは?」
るしの不平の言葉に、ニールが返した。
「おお!」
「あやつが壊した扉ダ」
Lがきりんせいじの方に目を向け、向けられた本人は視線を逸らした。
「ってことは、誰かが扉を閉めたってこと? 誰か閉めた?」
「誰かこの中にいるのでしょうか?」
「……ただ単に扉を動かしてからの時間じゃないですか?」
不穏な空気を作り始めた華桐に対し、ニールが的確な情報を言った。
代表して、きりんせいじが扉を動かした。
全員で見守っているうちに、みるみる水位が減っていく。
水はすっかり流れていき、底に降りられそうだ。
「おれが残ル」
「電子機器は残るそうです」
「一人で大丈夫ですか?」
「チェーンソーあるかラ!」
Lは得意気に、チェーンソーをギュルンギュルンと動かした。
Lを扉の前に残し、他の四人は梯子を降りて扉の前へ対峙した。
華桐が早速入ろうとすると、ニールが手で皆を制した。
「待ってください。ここにはトラップがあります」
「じゃあ、さっき調べなくてよかったんだ」
華桐がまた意見を一転させた。
ニールが一人先に進み、扉を開けて重めの石を投げた。
重しを乗せた地面の底が抜けた。パカッと口を開けたようなそれは、落とし穴のようだ。
「もう大丈夫です。行きましょう」
「まだトラップあるんじゃないですか?」
「構造的に無理でしょう。安全ですよ。心配なら僕が前を歩きますので、僕に付いてきてください」
「なかなかやってくれるじゃねぇか。疑いにくい……」
相変わらず爽やかに対応するニールに、後ろできりんせいじが溜息をついた。