スキンシップ()☆バトル
るしの提案に従い、移動した後、全員で④の中へ入った。
その部屋は、全体のほとんどが水浸し。水が浸ってない部分には、別の扉がある。華桐はメモ帳に地図を描き加え、この先を⑦とした。
水中に何か気付く点はないか四人は意識を向けたが、光の関係からか、水の中はよく見えない。
何かあるはずだと目を凝らしていた華桐は、運よく水の底に扉があることに気付いた。だが、そこにあったのは扉だけではなく、底の辺りには骨がいくつか転がっている。完全に油断しきっていた華桐は、突然の非現実的な物で精神が削られた。
華桐はその扉の先を⑧とし、ひとまず皆にこれらのことを伝えた。
(図3)
「扉があるみたい。あと、あそこに骨があるよ」
「わお、トラップかもしれないな」
「ここらへん、調べてみてエ」
Lは機械のくせに何を言っているんだと他三人はツッコミたくなった。だが、そもそも水は、泳いで潜るには深すぎるようだった。
淵に梯子はあるが、深さからして息が続かなさそうだ。
「隣の部屋にスイッチとかあるかもしれない」
「こっちに行こう」
華桐が⑦への扉を指差した。
入る前の安全チェックとして、るしと華桐が聞き耳を立てた。
今度は、なにやら音が聞こえてくる。
「なんかいるっぽいよ」
「うごめいているみたいです」
華桐とるしの報告を聞いて、きりんせいじはいったん扉の脇に隠れ――ようとしたが、できなかった。
バキバキバキィッ!
きりんせいじが、水に足を滑らせ、扉を壊しながら、ドンガラガッシャンという文字が目に見えそうなくらいもの凄い音を立てながら部屋へ入っていった。
部屋の中から、物凄い腐臭が流れてきた。
「うげ」
華桐は思わず呟いた。
そして、全員の精神が削られることとなったが、それは何も、単純に臭いのせいだけではない。
きりんせいじが、転んだ勢いのまま、腐臭の源に抱きついたからだ。
きりんせいじが抱きついた正体はゾンビ。つまり、死体だ。しかも腐っていて動くやつ。
そのゾンビは、突然のスキンシップに驚いたのか、きりんせいじを振り払うと、殺意を振り撒き、戦闘モードに入った。
まさにバックアタック。ゾンビに先手を打たれることとなってしまった。
攻撃の矛先はもちろん、初対面でいきなりのハグという失礼極まりない行為をしてきたきりんせいじへ。
しかし、ゾンビと雖もやはり動揺していたからか、それとも単に体制が整う前に動いてしまったからか、ゾンビの攻撃は失敗に終わった。
るしが英雄のキセキを、Lが機械化を、華桐が地面に投げられるものがあることを確認し、それを投げつけようとしたが、こちらも全て失敗。
「うおおお! 俺が行くぜええ!」
きりんせいじが刀を抜き、ゾンビに斬りかかった。
この戦闘の初ダメージは、戦闘の原因となった本人によるものだった。
しかし、相手はゾンビ。その腐った肉体はスパッと斬れることはなく、効いたのは本来の半分ほどのダメージだった。
ゾンビは次にLに攻撃を仕掛けた。
「Lさん危ないッ!」
それを見たきりんせいじは助太刀をしようとしたが、あえなく失敗。代わりにきりんせいじがダメージを負うこととなった。
今度は、るしがキックを試みたがまたもや失敗。
華桐は、持っていた縄を取り出すと、石にくくりつけて投げつけた。お陰で命中しやすくなり、ゾンビへの攻撃は成功。おまけに、いちいち投げるものを探して拾う手間も省ける。
だが、ゾンビの特性により、あまりダメージが効いていないようだ。
「これ物理攻撃だめなやつじゃないの?」
華桐は皆にそう呼びかけながら、何か手はないか思考を巡らせた。
その間も戦闘は続く。きりんせいじの刀斬りで、ゾンビにダメージが決まり、Lはまたもや機械化に失敗していた。あとでL本人に聞いた話だが、機械化の成功率はたった五パーセントほどだそう。
それぞれの攻撃が続く中、ゾンビは様子を伺っていた。
「ねえ、スイカ持っていたでしょ! あれ貸して!」
華桐が何かを思いついたらしく、きりんせいじに声をかけ、作戦を伝えた。華桐はスイカを受け取ると、簡単にはすっぽ抜けないように、縄をしっかりと結びつけた。
その隙を狙ってゾンビが迫ってきたが、るしが華桐を見習って、近くにあった石を投げつけ、命中させた。
「るしナイス! 次は私がいくよ!」
華桐は、縄につけたスイカを、遠心力と共にゾンビへ命中させた。相変わらずダメージはあまり入っていないようだが、華桐の狙いはそれではない。
当然戦闘用ではないスイカは、ゾンビに当たるとパカッと割れて、ゾンビをびしょ濡れにさせた。
「次は俺だ! Lさん、お前の代え電池を借りるぞ!」
きりんせいじはLから電池を受け取ると、ゾンビに投げつけた。
電池は見事命中すると、ゾンビを感電させた。この攻撃はゾンビの特性が通用しなかったので、ばっちりダメージを与えることができた。
「よし! 倒した!」
ゾンビがゆっくりと倒れていき、動かなくなった。
感電が止めとなり、不慮の事故により始まったゾンビ戦も、勝利で納めることができた。
倒したゾンビから、紙が一枚ひらりと落ちてきた。
華桐が手袋をつけてから、紙を拾い上げた。
「こんなの出てきたー」
そして、他の三人に紙を見せた。内容を見ると、食べ物の名前が書かれてあるようだ。
「ええと、なになに? マスタード、ナス、ドーナッツ、ごま、ツナ、いちご、スイカ!」
「えっ! スイカ、バトルで使って割れちゃいましたよ?!」
「仕方ない。このまま持っていくしかなさそうだな」
「うん……そうするよ」
「この紙に書かれているのはなんだろウ?」
うーんと少し考えて、華桐が口を開いた。
「食べ物が七つ……あっ! これ、食糧庫の台座じゃん」
「早速、食糧庫に行くぞ!」
一行はメインルームに対して反対側にある②の先に繋がる、⑥の食糧庫へ行くことにした。
華桐は、ゾンビに触れたスイカを、縄をつけたまま引きずっていった。
甘い汁が滴った道に、あとで蟻がたかったりするんだろうな……。
華桐はそんなことを思っていた。