別行動
ここはとある街はずれ。廃屋と化した家の前に、四人の男女が集まった。彼らは全員初対面であったが、同じ組織に所属していた。その組織の指令により、集まった次第である。
その組織からの指令は、
『廃屋化した家の調査をし、問題があればその原因を排除せよ。』
というものだった。
「私は、星宮華桐というものだ。探偵をしている。よろしく」
「おれはL5-S5。見ての通りの機械人間ダ」
「名前、長いなあ……Lさんって呼んでいい?」
「いいヨ」
「俺はきりんせいじ。刀使い。以上」
「わたしの名前はるしです。英雄です」
自己紹介を済ませると、四人はワープゾーンに移動し、建物の中に入った。
着いたところは、広い部屋――便宜上、メインルームと呼ぶことにした――の隅だった。部屋の壁にはそれぞれ一つずつ通路が隣接しており、新たな部屋が続いているようだった。
「さあ、何処から行く?」
「俺はあっちから」
きりんが一番手前の通路を示した。
「じゃあおれこっチー」
Lがその奥の通路を示した。
「えっ?」
「みんなで行かないの?」
せっかく四人が集まったのに、すぐさま単独行動をしたがる男子二人。どんな危険があるか分からないし、集団行動をしようと言う女子二人と、いきなり意見が分かれた。
「ま、まあ、どっちにしろ、どこから行くか決めるために、ちょっと調べてみようか」
華桐は、それぞれの通路に対して意識を向けた。このとき華桐の感覚は、素晴らしく研ぎ澄まされており、中の音や様子さえも感じ取ることができた。
「あっちこっちって言っても、分かりづらいよね」
そう言って華桐は、手帳にさらさらと地図を書き込んだ(図1参照)。
(図1)
「私たちがいるのがここね。まず、①だけど、特殊な鍵がかかっている。鍵開けもできないみたい。②は多分食堂、③はなんか分からないけど嫌な予感がする、④からは水音が聞こえてくる……うん。食堂希望」
「俺は別行動で」
「ちょ、みんなも一緒に行くよね? って聞こうとしたのに……」
結局、華桐・L・るしが食堂に、きりんせいじが一人で嫌な予感のする部屋へと向かった。
「きりんさん、大丈夫でしょうか……?」
「なんでわざわざ、嫌な予感がするっていった所に行くんだろう……」
②の食堂に入ると、机と椅子が並べられ、奥にはさらに扉があるのが見てとれた。
三人はまず机を調べようとしたが、きりんせいじの単独行動が心配だったためか、何も見つけることはできなかった。
一方そのころ。きりんせいじが入ったのは、ピチョンピチョンと水の滴る音が不気味に響く、薄暗い部屋だった。こちらも奥にはさらに扉がある。
きりんせいじは部屋について分かることがないか、注意深く様子を伺った。
ヒタッ……ヒタッ……
何もいない。だが、怪しい音が――足音がするのだ。
きりんせいじは迷うことなく奥の扉を開け、次なる部屋(⑤とする)へ進む。
そこには、手錠をつけた少女がいた。小学校低学年くらいだろうか、見た目からして庇護欲を誘う少女だ。
少女の意識はあるようなので、きりんせいじは声をかけることにした。
「すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、怪我はありません」
「何故こんなところにいるのですか?」
「道に迷っていて、気が付いたらこんなところにいました」
「あなたを捕まえたやつに、心当たりはありますか?」
「意識を失っていたので分かりません」
「扉は開きそうですか?」
「鍵開けを使えば大丈夫です」
「中にはなにかありますか?」
「私だけです。あと、灯りを付けるスイッチがあります」
「では仲間を呼んできます」
宣言通りにきりんせいじが去ろうとすると、少女が引き留めた。
「どこに行くのですか?」
「仲間を呼んできます。あなたをここから出してあげます」
少女は納得したように黙った。
きりんせいじは仲間のいる食堂へ向かった。
その頃、三人は食堂の奥の部屋を調べようとしていた。
「この扉、鍵がかかっている!」
「中からなにか音は聞こえないでしょうか?」
るしは扉の前で聞き耳を立てたが、何も音は聞こえない。
「何もいないみたいです」
「それなら、大丈夫そうかな。私が鍵開けできないか試してみるよ」
華桐は針金でガチャガチャとやって、難なく扉の鍵を開けた。
「よし、開いた。さっそく入ろう――」
「おーいみんな! 向こうに捕らわれた人がいる。鍵開けが必要だから一緒に来てくれー!」
ちょうどそのとき、きりんせいじが合流し、声をかけた。
「きりんさん、無事だったんだね。鍵開けなら私に任せて。でも、今ここの鍵を開けたところだから、先に中を見てからでいいかな?」
「ああ、それで構わない」
今度は全員で、次の部屋に入った。
そこは、様々な食べ物があることから、食糧庫のようだと分かった。華桐の手帳の地図では、⑥とすることにした。
また、部屋の中央には、七つの台座が直線状に並んでいる。その隣にはケースに入った鍵がある。
「これなんの鍵だろう」
「あやしいなあ」
華桐ときりんせいじは、まず目の前のケースについて感想を漏らした。ケースは開かないみたいだ。
「この食べ物、叩き割って食べられるか確かめたイ!」
一方Lは、食糧庫の食べ物が気になるようだ。Lは食べ物を軽く見て回ったが、腐っている様子はない。
「アルコールはあるかなあ」
きりんせいじがそう言った途端、足元に転がっているボトルを蹴飛ばした。ラベルからして、中はアルコールであることは間違いない。
「おっ、あったぞ。ラッキー」
「持って行こう。何かに使えるかもね! ところで、この台座はなんだろう?」
きりんせいじがアルコールを所持する横で、華桐は次に台座に意識を向けていた。
「あれは調理台でしょうか?」
「うーん、調理器具がないから違うんじゃないかな」
四人全員で、この台について何か気付くことはないか考えたが、なにも思いつかなかった。
精々、大きさはあまり大きくなくて、上に物を載せられそうだという、見たままのことが確認できただけだった。
「豚肉を載せてみよウ」
そう言ってLは豚肉を置いたが、なにも起こらない。
四人の間を、微妙な沈黙が支配した。
その状況に業を煮やしたきりんせいじが、唐突に叫んだ。
「時間の無駄だッ! 君は人助けをしようと思わないのか?!」
その言葉に三人はハッとして、捕らわれている人の存在をようやく思い出した。
この⑥の部屋でできることは行き詰っていることもあり、一行は先程きりんせいじが一人で行った、嫌な予感のする所の奥にある⑤の部屋へ行くことにした。
(図2)
一日1話の更新で行きたいと思います。
また明日!