表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

愛の狭間

作者: 杏子

手がかじかむ。

嫌なんだ。   


かじかむ手を暖めようとか

傷んだ心を優しく包み込もうとか。



「ほら、サキちゃん。お手て出してみぃ。」


「あい。」


お婆ちゃんが、私の片手を両手で

交互包む。



「ほれ、暖まったじゃろう?」


「うん!あったかっ!」


そうしてお婆ちゃんは笑っていた。



当時の私は、恐らくその行為に

喜んでいた。 単純に寒さもしのげて

嬉しかったはずだ。 

そしてその行為そのものに安心をしていた。



「お前の手っていつも冷てーのな。」


拓真が言う。

「出してみ、暖めてやるよ」



「ううん、大丈夫。

私、静電気ひどくって。」


「ふ〜ん。可愛くねーの。」




今日は拓真から連絡が来ない。


いつもの事だ。

私も気にはかけない。



どうして付き合っているのか。

どうして会うのか。


そんな事、どうだってイイ。



カチカチカチ。

いつものように、音がする。



「あー‥。  きっともうすぐなんだ。

またか‥。」



窓際に人影を見る。




「おう。 彩香またな!」


知らないところで私の知らぬ名を呼ぶ。

だって、私の名前はサキだから。


「うん!拓ちゃんまたね♡」


知らない声が、拓真の名前を

甘えたるい声で呼ぶ。


バイクに片足をかけ、いつものように

風を切りながら家路を急いでいた。


「おーさみぃ‥」



秒だった。  

トラックの光を浴びながら

最後の言葉は音にかき消され、

拓真の姿はこの世から追放された。




そしてまた、窓際の人影も

スーッと消えた。



私の手は   

気付いたら、嘘のように 

暖かいのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ