act1:復讐宣言
東京。いつの時代になってもここは日本の中心で多くの技術が集中し、活気があふれている。
高層ビルに設置された大型モニターの中では女性アナウンサーが今日のニュースを述べていた。田舎で起きた殺人事件のことを伝えたあと、画面にテロップが入り、別の話題に切り替わる。
『次は現在日本でテロ活動を行っている武装勢力クリフォトについて、セフィロト機関が開いた記者会見の映像です』
すっかり悪役だな。
男は心中でつぶやいた。黒いサングラスで目元を隠し、黒いロングコートを身にまとう。ざんばらに伸ばしていた髪はばっさり切った。未練や何もかもと共に。
記者会見には自衛隊が武装勢力に対し攻撃を行うこと、それに対しセフィロト機関が物資援助を行うことなどが発表されていた。だが、きっとそんなものは隠れ蓑に過ぎないだろう。何から何まですべてをセフィロトが行うはずだ。それを正当化するためにそんなことをほざいているのだろう。
記者会見の映像が終わり、別のニュースになると男は興味を失ったように再び歩き出した。
○
轟っ!
大気を震わせ、一体の巨大な鋼がビルの隙間を舞った。大きさは8メートル程度、全身を薄いグレーに塗装されたその機動兵器はビルの合間で滞空するとくるりと背後に向き直った。ヴン、と双眸が翠に煌く。セフィロトの第一世代と呼ばれるPBM、PBM-05Aホーンアウルである。
それに続き、数体のPBMがビルの合間を舞う。青い単眼が特徴的なPBM、レイヴンである。レイヴンは手にしたレーザーライフルをホーンアウルに向けるとその引き金を引く。
バシュン、と重厚が唸りとともに光弾を打ち出す。ホーンアウルはブーストを吹かすと、くるんと横方向に回転し、機体を射線上からそらす。そのままブーストの推進力を利用し先頭のレイヴンに肉迫、ビームライフルの弾をレイヴンの胸部――ちょうどコックピットのある位置――へと放つ。光弾は胸部に大穴を穿ち、機体が爆散する。
「ちっ、これだけ数がいるとやっかいだな」
ホーンアウルのコックピット内、レーダーに映る多くの所属不明の熱源反応を睨みつつ綾媛は呟いた。レーザーライフルの残弾数は20発、対して敵機の数は十体弱というところだ。一体につき二発が限度というところか。
ホーンアウルのブースターが火を噴き、機体が舞い上がる。上空からレーザーライフルを立て続けに三発撃つ。光弾は二体のレイヴンに穴を穿つ。爆散。レイヴンたちが散開する。
「くそっ、ばらけられたか」
忌々しそうに綾媛が吐き捨てる。刹那――。
「安心しろ、俺が来たらもう安心だぁっ!」
レイヴンの一体が道路に叩きつけられる。そして、その上に立っているのは青いPBMだった。背部からは翼のような大型スラスターが伸び、両手には高電圧発生装置のついたナックルカバー。その単眼はホーンアウルをじっと見つめていた。まるでアイコンタクトでもするかのように。
「大滝ガイ、ゲームクック参上っ!」
無線越しに暑苦しい声が響いてくる。セフィロトの研究所で知り合い、今では背を預ける仲間となった男である。
「行くぞっ、悪のセフィロト機関!」
スラスターが火を噴き、PBMゲームクックがビルの合間を駆ける。そしてレイヴンの一体に肉迫し、紫電を帯びた拳を叩きつける。一瞬、びくりと機体が硬直し、がくりと崩れ落ちる。高電圧により、内部メカがショートしたのだ。
「綾媛っ!二機そっちにむかった!」
「了解だ」
上昇する二機のレイヴンをレーザーライフルで打ち抜く。爆発し、破片を撒き散らす。周囲の民間人は避難しているようなので被害は出ないだろう。
「これで最後だぁっ!」
下方でガイの声が響く。見ると、ゲームクックの拳が最後の一機を貫いていた。爆散。次の瞬間――。
「見つけたぜぇっ!」
ゲームクック前方に突如熱源が現れる。ゲームクックがブースターを吹かし、後ろに飛びのく。刹那、先ほどまでゲームクックがいた虚空を赤い光刃が薙ぐ。
「ふははっ、今日が年貢の納め時だっ!」
赤い光刃の主、突如として虚空に現れたPBM。両腕に設置されたブレード発生装置、両肩に設置されたリニアカノン。セフィロトの量産型PBMの中でも高性能な機体、ウッドペッカーである。
「くっ、懺か……」
ガイが呟く。高麗学園から拉致されたPSI能力者の一人であり、反乱軍討伐部隊の隊長である。
「はっはぁ、ここで貴様らを切り刻めば晴れて俺も九未知会の仲間入りだぁ」
両腕から光刃を生み出し、ゲームクックに肉迫する。一撃目は右から。ゲームクックは振るわれる左腕をくぐり、懐にもぐりこむ。が、ウッドペッカーは急上昇しそれを避ける。
しかしその次の瞬間、ウッドペッカーの背部で光が迸った。そして機体が地面に叩きつけられる。
「だっ、誰だぁっ!」
懺が吼える。そしてビル街の上空が歪み、漆黒のPBMが顕れる。
夜闇を切り抜いたかのような黒き装甲、鋭角で構成されたスラリとした肢体。全身のランプは毒々しい赤を放っている。漆黒のPBM、怨霊。その鋭い双眸がウッドペッカーを睨む。
「懺、ケテルに伝えろ。今ここで俺が貴様らに復讐を宣言する」
それは冷淡で、抑揚のない声だった。感情の篭らない憎悪を孕んだ言の葉。
「きっ、貴様誰だっ!」
「復讐鬼、それが俺の名だ」
レムレースが両腕から真紅の光刃を出し、ウッドペッカーに肉迫する。赤刃一閃。ウッドペッカーの両腕部がごとりと地面に落ちた。
「くっ、くそぅ」
懺は吐き捨てると、機体ごとテレポーテーションで消え去った。
レムレースはウッドペッカーが撤退するのを確認すると、ブースターを吹かし去ろうとする。
「待て、お前は――俺たちの敵か?」
綾媛の問いかけにレムレースが止まる。そして――。
「お前たちがセフィロトを憎む限り、敵になることはないだろう」
そう、言い残しレムレースの姿は虚空に消えた。
「リタリエイター……復讐鬼か」
綾媛の呟きは虚空に霧散した。
お待たせしました第一話です。
前回からだいぶ間が空きましたが楽しみに待っていた皆さん申し訳ありません。
次回はもっと早いと思います、うん。
誤字脱字訂正、要望等あればご連絡ください。
ではノシ