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王子と秘密  作者: まろん
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第十二話

 

 ひとまずロンガルトが座ると、自分もテーブル前の椅子に腰を降ろす。

 まだ不安はあったが、前に進むしかないだろう。どんな話をすればいいかは分かる。けれどうまく話をできる自信はあまりない。

 いままでここにいなかった分、王家の人間として振る舞うのは難しいだろう。

 それでもセントグルトもいるからきっと何とかなるはずだ。

 ロンガルトは訝しげにこちらを見る。


「君がこの国の王子だと? この国の王子は十年前に死んだと聞いていた。本当に王子なのか?」

「……本当だけど、俺は……」


 言いかけたもののその先の言葉は浮かばず冷や汗が出てくる。

 この後どう話せばいいのかいまいち分からない。

 下手にボロを出せば面倒なことになるかもしれないし、実際何を話せばいいのかは聞いていない。

 内心焦っていると、それに気づいたらしいセントグルトが口を開く。


「紛れもなく、本当にこの国の王子ですよ。よく見ると、セレスティーナ姫とも似ていませんか?」

「…………」


 ロンガルとは黙り込む。

 それに構わず、セントグルトはさらに話を続ける。


「この国では、王位継承権は基本的に男子に優先されます。もちろん本人に王位を継承する意思があればですが。陛下のご子息が姫様だけであれば、継承権は姫様ご本人、もしくは姫様と結婚したその夫に渡るわけですが……王子がここにいるのだから話は別です」

「つまり、そこの王子がこの国の王位を継ぐと?」

「そういうことになりますね。そうでしょう?」


 セントグルトがこちらを見て尋ねてくる。

 正直、実際に王位を継ぐかと言われたら自信はないし首を横に振りたいところだがひとまず国王の弟が見つかるまでは場を繋いでロンガルトに王位を渡さないようにキープしなければならない。

 頷いて、口を開いた。


「そのつもりだ。お前がここに来たのは、結婚してこの国に王位を継ぐためだろ? でも王位の継承権はこちらに優先される。だからセレスティーナと結婚したとしても王位は得られない」

「なるほど……」


 ロンガルトは不満そうに話を聞いていた。

 恐らく反論できるような余地はないと思う。

 王家の男がいれば、他の国から来た者が王位につくのは難しい。

 目的が達成できないことは明らかだ。

 ならばこれ以上この場にいても仕方ないだろうから大人しく退いてくれれば楽なのだがそう簡単に納得するのだろうか。

 次はどうするべきか迷っていると、ドアが開く音が耳に響く。

 アルタイアが入って来て、テーブルの傍まで来る。

 そしてロンガルトに向かって言い放つ。


「つまり、あなたの目的は達成できませんから、大人しくお帰りください」


 はっきりと、そう告げられロンガルトはぐっと怒りを堪えていたようだったがついに我慢できなくなったらしく、立ち上がるとばんとテーブルを叩く。

 こちらを睨みつけた後、大声を張り上げる。


「さっきから聞いていれば! わざわざここまで来てやったというのにこの僕を侮辱する気か! ふざけるな、ただで済むと思うなよ!」


 ロンガルトはやはり納得がいかないようだった。いや、納得がいかないわけではなく単純に自分がここに来たことが無駄になって腹が立っているだけなのかもしれない。

 こうも逆上されると、少し困ってしまう。

 何とかなだめるほかない。相手は皇子だから手荒な真似はあまりできない。

 

「別に侮辱するつもりなんてありませんよ。ただ、もうこの国に用はないでしょう? だから早くお帰りくださいって言ってるんですよ」

「くっ……、この……」

 

 アルタイアの言葉に、ロンガルトはさらに怒りを露わにする。

 むしろ彼女はなだめるどころか、余計怒らせているようなものだ。

 これ以上下手に怒らせるのはまずいんじゃないかと思い、立ち上がると二人の間に割って入る。

 そうして彼女の方に顔を向ける。


「もういいだろ。下手に余計なこと言うと……」

「そうですか?」

「皇子、落ち着いてください。ここは大人しく引き上げましょう」


 いつの間にその場にいたのか、先日会った魔導師がその場にいて、ロンガルトをなだめる。

 警戒しながらその魔導師をじっと見る。

 かつて自分を殺そうとした相手、本来ならどうするべきなのかいまいち分からずにいた。

 倒すべきなのか、でもこうして自分は生きている。

 あえて倒す必要はあるのだろうか。それは自分のためなのか。

 けれど、いまはそんなことを考えている場合ではないとその考えを振り払う。

 魔導師に言われても、ロンガルトの怒りは収まらない様子だった。


「ミラド、ちょうどいいところに来た! こいつらを殺せ! 僕を侮辱しておいてただで済むと思うなよ。こいつら……いや、もうこの国ごと消してしまえ! お前の魔力ならそれくらい簡単にできるだろう!?」


 とんでもない発言だったが、ミラドと呼ばれた魔導師は困ったような顔になる。

 

「無茶を言わないでください、皇子。国一つ消すなんてほいほいできるほど簡単じゃないんですから。何より、陛下の命令もないのに勝手に消したらあなたも僕もただでは済みませんよ。それに……」


 ミラドは一旦言葉を区切る。 

 そしてにっこりと笑顔を浮かべて告げる。


「僕が仕えている相手は、あなたではなく皇帝陛下です。ですから、陛下に命令されたこと以外の命令は聞くことができない。あなたが僕に命令する資格はない」

「お、お前……父上に気に入られているからと言って、調子に乗るな!」

「調子になんて乗ってませんよ。僕はただ事実を言っているだけです。それに、あまり勝手な真似ばかりしたら、皇子と言えど……」

「…………。くっ、大人しく帰ればいいんだろう!」


 ようやくロンガルトは退いてくれるようでひとまずほっとした。

 ミラドは一度こちらを見た後、ロンガルトの方に向き直った。


「では帰りましょうか、皇子」

 

 

 ★


 

 ロンガルトたちが帰った後、廊下を歩いていた。

 空は少しずつ暗くなっていて星がちらほらと煌きを放っている。

 窓の向こうに広がる空を眺めながら、前を歩いていたアルタイアに声をかける。


「それにしても何とかなって良かったな」

「ま、そうですね。最も、帝国がこの程度で諦めるとは思えませんけど」

「……そうなのか?」

「ええ、王家に伝わる剣はとんでもない力がありますから、そう簡単に諦めたりはしないでしょう。あの魔導師だって、本来ならあなたを眠らせるだけじゃなく殺すことだってできたはずです。絶対に成功させたいなら、眠らせるより殺してしまった方が確実だったでしょうし……」

「はあ……無事に済んで良かったって言うべきか?」

「ですね。けど、きっと失敗してもさほど問題はなかったんじゃないですか? 皇子がこの国の王になる以外にもいくつかまだ方法があるんだと思いますよ。王家を乗っ取れば正式な持ち主として剣を手に入れることができますが、実際強行突破で奪い取っても手に入れることは可能ですから」

「…………」


 言われてみれば、王家を乗っ取らなくてもその気になれば兵士や魔導師を城内に侵入させて無理矢理奪うことも不可能とは言い切れない。

 

「まあまあ、そんな深刻な顔をしないでくださいよ」

「そんなこと言ったって……」

「単純な人は単純にいまうまくいったことを喜べばいいじゃないですか」


 単純と言われてむっとする。

 

「誰が単純だよ。俺はもっと複雑な人間だからな」

「でも頭は残念みたいですし……」

「誰が残念だ! 勉強ができなくても、剣の腕なんかがあれば働いたりもできるんだから何も問題ないだろ」

「まあ、できなくても生きていけますしね。それより、早く行きません? セルスさんのつまらない何かに付き合うのはちょっと……あんまり嬉しくもないですから」

「お、お前な……喧嘩売るのもほどほどにしろよ」


 不満に思いつつも、早く行かなければと思い歩を進める。

 セレスティーナのことも気になるところだったが、それよりも倒れたという父はもうあと何日もつか分からないと聞いたからすぐに会って話をした方がいいだろう。


 

 ★



「じゃあ、私はこの辺で。どうぞゆっくり話して来てください」

 

 そう言うアルタイアに対し、頷く。


「ああ、ありがとな」

「別にお礼を言われることはしてませんよ。じゃあ、早く会って来た方がいいですよね」


 それだけ言って、アルタイアは踵を返してその場を立ち去る。

 大きな扉の前に立つと、深呼吸をして心を落ち着ける。

 どんな顔をして会えばいいのか分からない。けれど迷ってる時間もなく、覚悟を決めると扉を開けようと思ったところで扉が開き、部屋のなかからセントグルトとイアルクが出て来た。


「セン、会って来たのか」

「ああ。父上に頼まれていたからね。一時はどうなることかと思ったが、ちゃんと会うことができて良かったよ」

「そうか」

「セルスも早く会って来るといい。大事な話があるんだろう?」

「ああ」

「じゃあ、私は詰所の方に行っておくよ」

「失礼します」


 セントグルトの後に続き、イアルクもこちらに頭を下げると二人とも早々に廊下を歩いて行ってしまい、一人その場に残される。

 改めて、部屋の入口に向き直り覚悟を決めて一歩踏み出す。

 


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