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7

 家に帰った俺たちはそれぞれ適当に時間を潰していた。現在午後四時過ぎ。

 俺は用意されていた机の前だ。手に鉛筆を持ち、考える。


(これからユリを助ける……。何からすればいいんだろう)


 今が五才の三月四日。俺が飛んでからちょうど十三年と言うことになる。

うーん。


「スターティングの主人公はなにしてたっけなー」


 想像の世界とは言え、今の俺と状況がまったく同じなあの本は多分参考になるはずだ。

 まず過去に戻って時代や場所の把握をしていた。うん、ここはできてる。

 次は小学生の彼女に起きる災厄を防ぐ。


(彼女に起きる災厄か……あったかな?)


 ユリと話した内容にそんなものが……あ。思い出した俺はメモにすぐ書き込む。

 そしてそれに引っ張られて全部で四つ思い出した。


「夏、家が火事になりそうになる。冬、誘拐される。時期不明、転落事故、っと」


 そして……。


(親友で初恋の人が死ぬ……)


 始めの二つは夏と冬に気を張って置けばいいはずだ。

 転落事故については場所はごく限定的で、ユリから聞いたのはスミレらと遊びに行った時らしいから分かりやすいと思う。が……。

 親友で初恋の人については想像すらつかない……こともない。今のところ最有力はダイちゃんだ。

 どんな人なのか全くわからないけど、ユリの態度を見て初恋の人なのではないかと思う。

 そしてもう一つ。未来のユリからダイちゃんのことを一度も聞いたことがなかった。それはつまり彼女が忘れていたこと、その人が死んだショックで脳が消し去った部分なのではないだろうか。

 ダイちゃんが死んでしまい、ユリは忘れた。これなら辻褄があう。もしかするとダイちゃん以外の人かもしれないが今の俺にはわからない。


(それっぽい人がいたら細心の注意を払おう…)


 俺はとりあえずダイちゃんと書き込みメモを閉じた。


 ガチャ、ドンッ!


「うわぁっ!?」

「シャガお出掛けだよ! すぐ降りてきて!」


 突然ドアを開けてユリは満面の笑みを浮かべて言い放った。


「う、うん……」


 若干言葉をつまらせて俺は言う。返事を聞いたユリはじゃあね! とドアを開けたまま降りていった。

 えっと……なんていうか。


「ノックくらいしろ!!」

「はーい!」


 一階の方から返事が聞こえた。……じゃあ俺もいくか。




 買いに行ったのはスーパー。買ったのは食材だった。


「えーと?」


 人参、玉葱、じゃがいも豚肉……。なるほどこれは。


「肉じゃがか」

「カレーだよ!!」


 俺が呟くとユリはカレーのルーのパックを突き出して言った。

 冗談だ冗談。


「シャガはカレー好き?」


 まあ、そこそこには。


「そっか!」


 嬉しそうに笑い、ユリは食材の入った袋を引きずってキッチンへ行く。

 そこには既にエプロンを持ったスミレが立っており、彼が作るのは察せた。


(さすがにまだユリは作らないか)


 俺の知るユリは料理もできた。

 でもまあ、五才ではまだ作り始めてないよな。と、思っていると。


「作るのはユリだバカ」

「え? そうなの?」


 エプロン身につけたユリを見る。まあ……カレーくらいなら作れるか?


「シャガも一緒に作る?」


 うーん。


「じゃあ作らせてもらいます」


 あー! シャガ! ストップー!!! ダメダメダメ! まずはお野菜だよ!!

 もうシャガったら、そこはこうだよ! ご飯炊くの忘れてた! お願いね!

 どう? 美味しい?


 耳に残り続ける声。なんか今日で急にここのユリと近い関係になった気がする。

 カレーは美味かった。じゃがいもの皮を剥くのを失敗し、まず肉から煮込もうとしたり、ルーがタッパーから出せなかったり色々あったなぁ。


(まあミスは全部俺なんだけど)


 その度にユリの叫び声が響いた。上手く行かなくてへこんだけど、少しだけ楽しかった。少しだけ。

 ユリの満面の笑みを見てそう思った。


「さて、洗い物くらいは俺がやるよ」

「そう? じゃあスミレとお願いね!」


 お願いね! って口癖はこの時からかーって……。


「スミレと!?」

「ああ? うるせーぞ」


 口悪ッ!

 スミレと二人で片付けか! 微妙に間が持たなさそうだなぁ!


「クソガキと話すことなんて何もねーよ、さっさと片付ける」

「……ユリはお勉強でもしててくれ」

「? わかったー」


 汚い言葉使いの会話なんて聞かせられない。

 うん。

 キッチンにはカレーがたっぷり入った鍋があった。


「こりゃしばらくカレーだな……」


 スミレはそう言って苦笑いを浮かべた。

 それには激しく同意するよ……。


「さって洗うか」

「ん」


 ユリが普段使っているのだろう台に登り、俺はスポンジを持つ。スミレが渡す皿を水を流しながら洗う。

 泡を流し、タオルで拭いたら置く。またスミレが皿を渡す。

 受け取った俺はスポンジで洗い、水で流し、拭いて直す。渡された皿を洗って流して拭いて直して。

 また渡された皿を洗って……。


「おい」

「なんだ」


 俺が皿を拭いている間もスミレは次の皿を渡す準備をしていた。


「おかしくね?」

「……なにが」


 一瞬顔を逸らした後に返された。

 俺は次の皿を受け取って洗う。


「結構皿洗ってるつもりなんだけど、一人のペースと変わらない気がする」

「へぇ。これが最後の皿だ」

「サンキュ」


 それも洗って、置いた。そして俺は言った。


「さっきから俺しか「あ、コップもあるみたいだぞ、ほら」おっけい」


 渡されたコップを三ついっぺんに洗う。


「よし、よくやった」

「うん」


 褒められて悪い気はしないな。

 これならたまには手伝って……って。


「ほらスプーンで最後だ」

「お前一つでも洗ったのかよ!!!」


 スプーンをバッとふんだくって洗う。


「結局洗うんじゃねーか」

「それはお前が上手だからでしょー!?」


 手元のスポンジを置きながら叫ぶ。

 きれいになった食器はダイヤのように輝き、俺を祝福しているようだった。


「よーし、じゃあ風呂いれるか」

「お前! 絶対許さないからな!!」


リビングに行くとユリが顔を出す。


「あ、やってくれた!?」


 ああ俺がな! スミレは俺に渡すだけだったから!!


「シャガが全部やってくれたよ。優しいやつだ」


 え? なんか俺が良いこと言ってやったみたいじゃないか。

 そんな嘘でおだてて俺の機嫌なんか治らないからな!


「そうなの? ありがとねシャガ!」

「……いやぁどういたしまして」


 思い返してみたらものすごいニヤケてたと思う。

 だって。


「やっぱガキだ」


 ってスミレが笑ってたからな。

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