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「……ついたぞ」

「あ」


 気付けば家についていた。俺は車から降りようと扉に手をかけると、鍵が掛かっていた。

 扉の鍵を開ける。

 ガチャッと音が鳴り、鍵がかかる。

 扉の鍵を開ける。

 ガチャッと音が鳴り、鍵がかかる。


「スミレ」

「早く降りろ」


 扉の鍵を開ける。

 ガチャッと音が鳴り、鍵がかかる。


「スミレェェェェエエエエ!!! 」

「うるさいぞユリが寝てるだろ」

(くっ……)


 扉の鍵を開ける。

 今度は閉まらなかった。


「ふぁああ」


 人のことを弄り倒したスミレが。大きく伸びをする。忌々しさと恨みを込めた視線を向けながら家の扉に手を掛ける。


(……閉まってる)


「配水管の裏だ」


 あれ? それは俺のいた時間でもそこに隠してたぞ?

 配水管の裏から磁石のついた鍵を取る。


「ただいまー」


 おかえり、なんて声が中から聞こえたら普通に怖い。


「ほら、早くはいれ。風呂もあるぞ」

「あ、マジで? わかった!」


 ユリを抱えたスミレが後ろから言う。俺は走って風呂場まで行った。


(今すぐ入れる!)


「スミレ! 先に入っていいか!」

「勝手にしろー」


 リビングにいるであろう彼が返事をした。よし。


「よーし」


 まずはシャワーだ。風呂に入る前に体を洗う。

 洗い終わったら足から湯につかる。


「ふぅぅ」


 外は冷たかったから身体にじんじんと温かいのが染みてくる。

 あぁぁ……。


「ぁぁぁぁぁああっちぃ!!!!」


 ザバァ! と風呂から飛び出て扉を開く。


「スミレ!!!!」

「なんだ騒がしい」

「うぉっ」


 扉を開けてすぐそこにスミレがいた。

 ……正直びっくりした。


「なんでいるんだよ」

「お前の着替えだバカ。服も脱ぎ散らかしやがって」


 すまない。五才らしくていいじゃないか。


「で、なんだよ」

「え、あ。風呂が熱いんだけど…」

「んー」


 スミレが靴下を脱いで浴室に入る。手を湯のなかに突っ込んで言った。


「40度くらいだろこれ」

「へー」


 ……え? 低くね?


「自称高校生のお前に教えてやる。五才児だろ」

 

 あ、そうか。


(体の感覚も子供なのか……)


 胃袋の大きさも、体力も感覚も。全部五才の体なんだ。


「ほら、さっさと入れ。熱いなら水でも入れろ」

「……うん」


 静かに扉を閉め、浴槽に体を浸ける。


「くっ……」


 とても熱い。けど、俺はその熱さに耐えて風呂に入り続けた。認めたくなかった。

 俺のこの感覚は、長い夢を見ているせいに違いないんだと。




 明日は出掛けるぞ。

 スミレが寝る前に俺に言った。土の壁みたいな模様のダサいパジャマに身を包んだ俺はゆっくりとベッドに倒れる。

 今日は色々ありすぎた。俺が過去の世界にいるとか、体が小さくなってるとか。思考はとっくの昔に放り投げられていて、落ち着いた今やっと考えることを再開した。


「明日は……来るのかな」


 寝て、起きたら元の時代に戻っていたとしたら俺はなにも不思議に思わない。夢だった方がよっぽどいい。ミズキじゃなくシャガと言う名前なのは俺が俺でない証拠だ。先の見えない不安は一日だけで十分。

 もう、俺は帰りたい。

 俺が十八歳でユリが死んでしまった……あの……。


(あれ?)


 今は五才でユリは生きている。今から十三年後に彼女は死んでしまうのかもしれない。

 それなら。

 それなら……!


(今から十三年このまま生きてユリを助ければいいのか!)


 そうだ! そうしよう!

 よーし。


「そうと決まればまた明日だ! おやすみ!!」


 誰に言うわけでもなく俺は布団に潜った。




 次の日、俺は未来へ戻らなかった。とりあえず良かったのか悪かったのかよくわからない心理状態で俺はここで生きることを決めた。

 朝から俺はスミレの車に乗ってどこかに向かっている。ユリのわくわくした表情を見るに見知った場所らしいが……。


「……ん」


 駐車場に車を止めてスミレは鍵を抜いた。車の背には大きくて綺麗な建物が建っている。

 ……どこだ?


「シャガ降りるよ!」

「え、ああ、わかった」


 既に降りたスミレを追いかけてユリが降りるのを追いかけて俺が降りた。


「ここはどこ?」


 コンクリートの道を歩く。白い建物はなんとなく保育園や幼稚園を連想させる。砂の匂いがするし、多分間違ってない。

 ユリに聞くと嬉しそうな笑顔で教えてくれた。


「えっとね! 園長さんのところ!」

「へぇ~」


 わかんねえや。


「園長ー来たぞー」


 スミレが扉を開けてそう呼んだ。


「紀野園長ー」


 紀野……紀野……?


「ユリ、ユリの名字ってなに?」

「??? 紀野百合だよ?」


 紀野!!! つーことはここの園長はユリの親戚か!!!


「あ、スミレ! ちょうどよかった! 早く中に来てくれ! やーユリー! 今日も皆とお勉強か? お、君がシャガかー!」


 早口に喋るテンションの高い女性が、スミレの呼ぶ方からやってきた。


「よう紀野。今日は何だ?」

「雨どいがぶっ壊れたから治してくれ!」

「……はぁ」


 園長の娘とかかな? 紀野だし。

 つーか忙しい人だな!! あのスミレが本気でため息つかされたぞ!


「ささ、なかに入って入って! ユリはシャガを連れていってあげてね」

「はーい!」


 俺はユリに連れられ、中に入る。スミレは女の人と違う部屋へ行った。

 ユリが入った部屋には子供と、それより多い本があった。


「ユリ、ここは?」

「おべんきょう部屋だよー。みんなおべんきょう中なの!」


 へぇ……。周りを見渡すと図書室も兼ねているらしかった。なるほど勉強にはもってこいなわけだ。

 図鑑に教科書はもちろんのこと小説も数多くあるようで、結構俺のテンションは上がってきていた。


「シャガはおべんきょうする?」

「いや、俺は本を読んでる」


 読みたいのもあるしな。


「そう? じゃあユリはあっちにいるからね! あとこれ!」


 そう言ってユリは俺にボールペンを渡した。何に使うんだ?


「えっとね、わからない言葉とかあったらじしょをつかいなさいって園長さんが言うから! これでピーって線ひいたらしらべるの!」

「へぇ……」


 適当に本を取って開くとそこは線だらけだった。なるほど、こうやって漢字や意味を勉強するのか……。

 例えば……つり革。つり革調べたのかよ。逆にどんなこと辞書に書いてるのか気になる。


「あ、でも赤いシールの本はそれしちゃダメだよ! すっっっごくおこられるんだから!!」


 あーあるあるそんな本。貸し出し禁止とかな。

 貸し出し禁止な理由がイマイチわからないまま学校の図書室で見てたよ。


「わかった。気を付ける」

「じゃあね! えっと短い針が……3になったら帰るからね!」


 今から五時間か……昔からユリの勉強時間は長いんだなぁ。と、考えているとすでにユリは椅子によじ登って机の前に構えていた。

 じゃあ、俺も適当に本探そうっと。

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