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END


「じゃあな、母さん達によろしく」

「うん、また来てくれ。えーと、ユズだっけ。スミレさんの娘の顔も見たいしな」


 随分久し振りに視るような気がする実家の前でミズキ杜話す。俺が最後に見た日から三年しか経っていないから当たり前か。


「ユリのこともしっかり頼むぞ」


 言って、俺は手を差し出す。この手をしっかり握らない男にユリはやらん。

 ミズキは俺の意図を察し、しっかりと握り返した。


「ああ、わかってる。ありがイデデデデデデデ!! 爪! 爪食い込んでる!!!」


 仕方ないだろう。握力がないからこうするしか方法はない。


「そもそも攻撃しようとするのが間違いじゃないの!?」


 育ての親としてのせめてもの意地だ。受けとれ。


「いってー……。しっかり痕付けてるんだもんなぁ」

「じゃあ、達者でな」

「はいはいまた来てね」


 ミズキはやれやれと手を振りながら見送った。車の中から様子を伺っていたシャガも苦笑を浮かべている。

 なんだこいつら。本人同士だろ、気持ちはわかるだろうよ。


「……なんでもいいよ。さっさと車出すからシートベルトしてくれ」

「おう」


 まあとにかく。退院した俺はシャガの運転の元、大阪の色樹園へと帰り始めた。


 数時間後。色樹園の門が見えてくると同時に、外に人が多く並んでいるのが見えてきた。


「……あれは」

「皆待ってたんだよ。特に園長さんなんかすっげー寂しそうだったしな」


 ……そうか。

 門の前で車を停め、俺は降りる。とりあえず俺から一言皆に言わなきゃな。






「ただいま」








-------------------------------------------



 かくして、俺の長い長い物語は終わった。いつかミズキに書いた手紙じゃないが、やはり人に全てを話すのは骨が折れる。

 え? 所々話が飛びすぎ? 仕方ないだろ昔のことだし。それにその時重要だと思ったことでないと中々記憶には残らないのさ。


「それにしてもフユカお姉ちゃんのは酷くないー?」

「うるせーよ。他のことに俺は忙しかったんだ」


 ソファの肘置きに腰掛けてユズは足をブラブラとしている。いたずらっ子のような笑みを浮かべるのは小さい頃からいたフユカの影響か。


「けど信じらんないなー。父さんがタイムトラベルなんて。しかもシャガ兄とミズキさんが同一人物ってのもー」


 事実だっての。二人に加えて俺も同一人物だからな? 年齢が違いすぎるからそんな感じはまるでないだろうが。

 あとタイムトラベルじゃねえ。どちらかと言うとタイムスリップだ。


「シャガ兄は眼鏡外したらそっくりだったから信じられるけど……。はいはいタイムスリップね、細かくてどっちでもいいよ」


 ………………。


「それよりお前、今度の誕生日は何がほしいんだよ」

「そうそう!! 高校最後の誕生日だからね! 良いもの買ってもらわないとー」


 まだ考えてないから思い付いたら頼むね、とユズは笑う。甘えた顔や上目遣いはどことなくユイに似ている。


「ねね、それよりもっと面白い不思議な話ないの? 別に中二病とか笑わないからさ!」

「んー……そうだな。いつか北川さんから聞いた話とかどうだ?」

「どんなのどんなの?」


 創作の話ではよくある異世界トリップな話だ。ただ一つ違うのは彼の話してくれた物語はフィクションなんかじゃないってことだが。

 そう、彼自身が若い頃に体験した話。


「ほうほう。父さんの話を例えば……【リスターティング】と名付けるとすると、北川さんの話はなんて題名になるの?」

「それは北川さんがもう名付けてたよ。【クーマホーク】ってな」






-------------------------------------------



「で、ユズ姉。ホントにこんなとこ忍び込んで良かったのかよ?」

「いいのいいの。父さんがケチなのが悪いんだから。大事にしてる金庫からすこーしお金を頂くだけだよ」

「あはは……スミレおじさんも大変だね」


 私は二人のいとこの後に続く。いとこなのかどうか私にもよく説明できないけど、お父さんたちがいとこのようなものだって言ってたから多分それでいいんだと思う。


「にしても……図書室か。すごい本の量だな」

「父さんだけじゃなくて、ひい祖父さんとかが頑張って集めたんだって。キョウは違うけどサヤにとってもひい祖父さんの人ね」

「あっ、あの銅像の小さいおじいちゃんか! 私のひい祖父さんなんだ……」

「そ。どんだけ好きなんだよってね。あの像作ったの父さんなの」


 ユズ姉はいたずらっぽい笑みを浮かべる。なんだかんだ言ってもお父さんのスミレさんのことが大好きなのに、どうしてこんなにいたずらをしちゃうんだろ……。もう18歳なのに。


「今なんか考えたでしょ、サヤ」

「か、考えてないよ! 早く金庫のとこまでいこうよっ!」

「じー……」


 あはは……。ユズ姉の視線に耐えきれなくて目を逸らす。

 と、キョウちゃんが一冊の本を手に取っているのが目に入った。


「ね、お姉ちゃん」

「ん? あ、キョウ本なんか読むのー? 似合わないねー」

「うるせー」


 私とお姉ちゃんはキョウちゃんの元へ行く。手に取ったのは少し分厚い小説のようだった。


「……? これがどうしたのキョウちゃん?」

「いや、なんか気になってさ。なんか無性に取りたくなったんだ」

「中二病? いい加減卒業しなよー? もう10歳なんだからさー。ん? 中二病はまだか。中二は14歳のサヤだね」


 ユズ姉はとぼけて笑う。そして三人で表紙を覗き込む。


「……【ラーフル】?」


 誰かがポツリと呟いた。



 それからの記憶は、私にはない。


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