表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/58

4

 また俺は頭を抱える。新聞も読み、カレンダーも確認した。

 日にちは何を見ても2002年3月3日だった。


(どうなってんだ……)


 他にスミレに聞いてわかったことがある。

 俺は赤子の頃に孤児院に捨てられて、あったのは誕生日を記した手帳だけだと言う。それから育てられ、2002年3月2日に、つまり昨日俺は紀野百合の家で暮らすことになったらしい。

 ちなみにスミレはその孤児院で働いていて、ユリのことは産湯につけたときから一緒だと。絶対オーバーに言ってる、うん。

 そして今の俺はシャガという名前でユリと初対面、というかスミレと園長だけしか俺を知らないらしい。


「うーん」


 単純に考えて。

 アニメとかゲームとかにあるタイムスリップと言うことがまず思い付いてしまう。服が小さくならずにそのまま来てたし……。けれどそれは創作の中での話だからあり得ない。

 うーん……。


 コンコン


 と、突然部屋の扉がノックされる。

 バターン! と大きく開き、開けた主が大声でこう言った。


「シャガ!! 何食べたい!!!」


 ノックから扉を開き、叫ぶまでの間わずか二秒。考え事をしていた俺はビクッ! と体を跳ねさせた。


「え、な、なんのこと??」

「ご飯だよ! 食べに行くの!!」


 なるほど。大方俺の入居祝いとかだろうと想像はつく。

 けど、一応聞いておくことにする。


「何かあるの?」

「ユリの誕生日なの!」


 え……と?


「3月3日?」

「3月3日!」


 ソウイエバソウダッタ。2015年なら覚えてなかったことを怒られるかも知れなかった。でも今日は何が何だかわからないことばかりだから気が回らなかった……いや、こんな言い訳じゃ怒られるな。

 ……そもそも。


(俺のいた時間じゃユリは死んだじゃないか……)


 ズキッと胸になにかトゲが刺さった気分になった。どうしようもなく悲しくて、そして苦しい。呼吸こそ乱れたりしなかったが、息はしにくくなった。


「シャガ大丈夫?」


 俺が黙って下を向いていたのを心配してくれたのだう。ユリのちびっこに心配されるだけで少し前のことを思い出して嬉しくなってしまった。


「大丈夫。で、外食かぁ。ユリは何がいい?」

「焼き肉!!」


 マジか!!


(多分今の俺じゃ全然食えない!!)

「それがダメならぁ……しゃぶしゃぶ!!」


 マジか!!!

 つーかお肉好きなんですねユリちゃん!


「うんだーいすき」


 嬉しそうに頬をあげ、目を細めた。

 笑顔は子供の頃から変わってなかったんだな。すべてを包んでくれそうな柔らかなその笑みに俺はいつも心を奪われていた。


(と、視界が滲んできた)


 俺はスミレが置いたであろうサイズぴったりの服の裾で目を擦った。


「ん?」

「なんでもない!」


 嫌がらせのようにダサいこの服。クローゼット覗いたらなかにもっといいの見えたぞスミレ。


「とりあえずお肉食べようか」

「うん! スミレに言ってくる!」


 トタトタと階段に向かって走るユリを追いかけて俺もリビングへ行った。




「誕生日おめでとう、ユリ」

「おめでとう」

「これからよろしくね! シャガ!」


 スミレ、俺、ユリの3人は結局焼き肉を食べに来た。

 匂いだけでお腹いっぱいになりそうだ。


「体が小さくなけりゃスミレを泣かすくらい食えるのに……」

「え? なんて?」


 小さく呟いたけどユリには聞こえなかったらしい。その代わりスミレが。


「やれるもんならやってみろ」


 と、鼻で笑った。くそぉ……。


「ささー早く食べよー!」


 ユリは嬉しそうに箸を割った。

 焼くのは俺かスミレなんだろ?




「くぅ……」

「寝たか」


 スミレの車で家へ帰る。


「つーか」

「ユリか? ユリは後部座席を占領して寝るのが好きなんだよ。だからお前が俺の横……ケッ」


 口悪ッ!!!


「文句あんのかよ」

「文句しかねえよ。しかもこんなに口の悪い子供じゃ……」


 あ。

 いつの間にか完全にタメ口だった。まあいいかスミレだし。


「あんたも相当だ。俺は5才なんだろ」

「俺には5才に見えないがなぁ」


 ………。本当のこと、言ってみようかな。


「スミレ、俺本当は」

「……ん」


 大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。

 よし。


「体はこんなだけど中身は高校生なんだ」

「…………」


 スミレはなにも言わず、表情も変えず運転を続ける。

 赤信号で止まった時に奴は口を開いた。


「ふーん」


(そんだけ!?)


 信じてないだろ!!! ふぅ、なんてため息までついてるよ!!


「子供の妄想なんてのはよくあるだろ。俺は正義のヒーローだー、とか。お前がどこぞの探偵を知ってんのかどうか知らねえけどなかなか面白いんじゃねーの」


 信じてない!!!! くっそ……!


「4!=24!ほら!」

「階乗か。基礎の基礎じゃねえか」


 こんなん知ってる五才いないだろー!!!


「じゃあスターティングって小説知ってるか!」

「あ?」


 スターティング。俺の好きな小説の名前。

 これで普通じゃないことを証明してやる!


「それはまだ出てないだろ! 俺は全部覚えてるぞ! 未来から来たからな!」


 どうだ!


「スターティングなら10年も前に出版されてるって。世界地図みたいなもんで好きだから見続けて全部覚えたーみたいな。未来から来た? スターティングに影響され過ぎだ」


 くっ流石大人……めちゃめちゃ流してくる!


「俺はいろんな漢字読めるぞ! ほらあれは木下歯科!」

「すげー天才少年だな。テレビ出るか?」


 くそー!!!! 全然響かねえ……。


「……はぁ」

「ん? 次は何だ?」


 決めた。俺もう。


「あんたを説得するのやめる」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ