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「つーかお前幸野さんって名前の家に行ったんだな」


 新幹線に乗ってやっと落ち着いた。割りとギリギリの電車を予約した為にバタバタしてしまった。


「知らなかったの? あ、お姉ちゃんが管理してるのか」

「まあな」


 幸野さん。ゆきのさん。前は紀野だから一文字増えただけだな。笑える。


「バカみたい」


 言って幸野フユカは溜め息を吐く。俺もわかってるわ。


「女装の理由はユリにバレないためだ。訳あってな」

「ああ、昔お姉ちゃんと話してたやつ? ユリを助けるーって」


 だから怖ぇよ。どこまで知ってんだ。


「まあそこしか知らないんだけどね。試しに言ってみたらスミレさん凄く面白い反応だったから、なんか大変なことがあるんだろうなって思ってたよ」

「そ、そうか……」


 深くまで知らなくてよかった。ユリを死なせないこともそうだけど、俺が未来から来たとか説明したくねーよ。説明がそもそも面倒だし、追及されんのも面倒だし。

 女装についてはほとんど話すことはなかった為話は終わりだ。フユカが車内で、んー、と伸びをする。

 名古屋ですらまだまだだろうと感じさせる景色を眺め、俺もあくびをした。


「そう言えば引っ越しするお金なんてよく有ったね。おじいちゃんが口癖のように、うちは貧乏じゃー! って言ってたから一生引っ越しなんてないと思ってたよ」


 ああ、ほとんどは俺が出した。つってもまあ俺の収入は全部園に入れてるから園の金なんだけど。


「え、そんなに稼ぎあるのスミレさん」

「あるから出来たんだろうよ」


 スターティングは大ヒットしたからなあ。


「ええ!? スターティング書いたのスミレさんなの!?」

「おう」

「----」


 絶句するフユカ。ミズキとこんな顔するんだろうなあ、なんて思った。俺も自分がこうなると思ってなかったよ。


「お前の方はどうなんだよ?」

「な、なにが?」


 仕事だよ、仕事。いや、先に幸野家の話が気になる。そっち話せ。


「パパとママは凄くいい人だよ。始めの頃は緊張して落ち着かなかったけど、パパは変な人だしママは面倒臭がりだし。すぐ馴染めたよ」

「どうなんだそれ」


 変な人って……まさか変態じゃなかろうな。


「そのまさか。変態も変態。パンツ一丁でブリッジしたり、片方の袖を切り落とした変な服着てたり、テープを顔中に貼って顔の形変えてたり」

「お、おう……やばいな」


 マジでやばいじゃねーか。面談したのはユイだったはずだ。見抜けなかったか、ユイ。

 なんて心配していたらフユカは、けどね、と続けた。


「私があまりにも笑わないから何とか笑わせよう、ってパパは頑張ってくれてたんだ。」


 そんなことがあってフユカの緊張は解れたらしい。フユカのパパは変な人でも、良い変な人だったようだ。

 つーかパパって。そんな甘えた呼び方お前がするなんて意外だ。


「う、うるさい。初めはお父さんって呼んでたよ。けど、時間が経って家族だ、って思えるようになって、ほら……甘えたくなっちゃって」

「へええ」


 可愛いところあるじゃん。なんてニヤニヤしたら肩を叩かれた。


「でもパパかー。けどフユカくらいなら俺のことを少しは父親みたいに思ってくれてるんじゃないかー?」


 こいつが小学生のときから俺は紀野園にいたわけだし、多少は世話したはずだ。じゃあそういう意識も……。


「ない」


 即答且つ断言。


「昔告白したの覚えてないの? 年上の異性として私は見てたし、良くても頼りない兄だよ」

「そ、そうだったな」

「まだいるのかわからないけどダイなら父親のように思ってくれてるんじゃないの? スミレさん結構かまってたし」


 そうだな……。頼られてるとは思うのだが、どうにもユイの方が決定権を握ってるだけにあいつの方が父親みたいなんだよなあ。

 …………そういやユリも俺のこと母親みたいとか言ってたか。


「せめてユズにはお父さんって呼ばれたい……」

「ユズ?」


 ああ、フユカに説明してなかったか。俺とユイの娘だよ。


「え!!?」

「なんだよ、そんな驚くこともないだろ」

「そ、そっか。結婚したんだもんね……そりゃそうか……」


 なんか複雑な顔してやがる。俺とユイに子供ができたのがショックだったのか。失礼なやつだ。

 新幹線がグラッと揺れた。


「……はぁ、私も結婚したい」

「…………」


 フユカの溜め息が気まずくて俺は顔を背けた。






「お姉ちゃん久し振りー!!!」

「わ、わ! もしかしてフユカ!? 綺麗になったねー!!」

「お姉ちゃんも良いおばさまよー!」

「なんですって!?」


 女子が三人いればかしましいと言うが、二人でも相当うるせーよ。


「なにこれおじいちゃん!? すっごく似てるし、アハハハッ!! ハゲがツルピカになってる!」


 フユカは新幹線での落ち込みはどこへやら、ハイテンションで色樹園に駆け込んでいった。

 俺とユイは門の前でポツンと取り残される。


「え、えと。どうだった? ユリとミズキくん」

「途中から確信してたけど、ちゃんと付き合ってたよ。っていうか」


 俺が変装した金髪外人、会ったことあるの覚えてるんだよな。


「え! ホントに!?」

「うん……」


 でも、会うと言う未来を変えるわけにもいかないから神社に行ったんだけどさ……。


「それで、安心できた?」

「ああ。ありがとうな」

「うん。よかったよかった」


 そう言ってユイは微笑んだ。

 中に入るとダイとフユカが話していた。フユカは勿論、ダイもフユカのことを覚えていたらしく現在の自分達の状態を報告しあってるらしい。ダイとフユカ。年齢差は七歳だったか。

 結婚してもギリギリ違和感がないか……いや、あるか?


「そういえばユリも見掛けたよー」


 フユカが言った。その辺りは少しややこしいので話さないでもらえると有り難いのだが。

 と、釘を刺しに行こうとしたとき。


「あ、そうなの? 僕もこの間ユリと会ったんだー」

「……は?」


 俺の思考が完全停止してしまいそうになるほどの衝撃発言を、ダイはしやがった。

 え? ユリに会った?? い、いつ???


「あれ? スミレさん会わなかったの? この間のコンサートの日にユリもいたんだよー」


(い、いや見掛けたよ! 俺やシャガやミズキと話すときのような楽しそうな笑顔を浮かべてたユリを……ハッ!)


 思い返して思い付く。思い当たる節があった! まさか……まさか!!


「あの碧天(あおい)のブレザー着てた男子生徒はダイか!?」

「あ、見てたんだ。そう、あまりに寒いから借りてたんだー」


 僕の学ランは楽屋に置いてきてたからね、とダイは付け加えた。

 辻褄があった。合点がいってしまった。ついでに俺は早合点をしたらしかった。見覚えのない後ろ姿なのはダイがブレザーを着ていたから。ユリが楽しげに笑っていたのは共に育った、言わば兄弟のダイと話していたからだ。


(お、おいおい……じゃあ俺が心配して見に行ったのは完全に勘違いの無駄足かよ……)


 しかもその勘違いと無駄足をスミレは今まで何度も繰り返しているのだ。あー! つくづく運命を変えれてねーなー!


「はぁぁ……」

「??」


 溜め息を吐く俺にフユカとダイは首を傾げる。事情を知るユイだけは苦笑いをして俺を見ていたが。

 いや、いいんだ……こんな運命を変えるより俺は、ユリを助けることに全力を掛けるんだから。こんな運命を変えることに力を使ってしまうと勿体無い。うん。


「それと、私これからもたまにこの園に来るね」

「え、そうなの? 仕事は?」


 フユカがユイに言う。俺も聞いてなかったぞそんなこと。


「言ってないからね。仕事は大丈夫だよ。スミレさんと同じような自由業だからスケジュールは自分で決められるし」


 俺は自由業じゃねーよ。この園が本職だっての。


「だから私もたまに見に来るよ! やることあったら手伝うし!」

「助かるわフユカ。ありがとね!」

「せめてもの恩返しですよお姉ちゃんー!」


 そのあと二人はキャーキャー言ってどこかへ行ってしまった。ダイもピアノを弾きに行って、残された俺は窓にもたれて空を眺める。

 一月の綺麗な空だ。はあ、空気が冷たくて気持ちが良い。


「は、は……ハックション!!」


 とりあえず心配事もなくなったし、諸々備えるだけ備えて、俺も俺の日常を謳歌しよう。

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