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「……ん」


 眩しい朝日と小鳥のさえずりで目を覚ます。

 頭は嫌にスッキリして生まれ変わったように清々しかった。


(まる1日寝てたのか……)


 肩へ目をやると服は気を失ったときと同じ服だった。

 また天井へ目をやる。真っ白な天井は俺の部屋のじゃないようだった。


(いや、本当に違う……ユリの家に運ばれたのか)


 可能性は低くない。近所の人は皆ユリに親切で、彼氏が出来たことも彼女の家の周辺じゃ有名だからだ。 見つけた誰かが鍵を取って俺を運んでくれた……?


(わからないな)


 とりあえず体を起こそうと布団をどけ、ベッドを掴もうとしたとき俺は自分の体の異変に気付いた。


「はっ……?」


 このベッドは前に眠ったことがある。サイズ感は知っている。

 しかし俺の腕はベッドの端に届かなかった。


(腕が縮んだ!?)


 動揺のままに体を起こし、ベッドから転がるように降りる。


 ドタッ!ゴン!


「いてぇぇぇええええ!!」


 起きた状況を説明する。

 まずベッドから降ろした足が床につかなかった。そしてバランスを崩した俺は足のあと頭を打ち付け、体はゆっくりと床に倒れた。

 今は後頭部とくるぶし辺りが物凄く痛い!


「……はぁ」


 ジンジンと痛む体を少しばかり休め、俺は体を起こす。

 立ち上がった俺の服がずり落ちたのはその瞬間だった。


「え、あ」


 締めていたベルトはその形のままにズボンごと俺の足元に。ユリに見繕ってもらったお気に入りの服は肩から膝までぶら下がっていた。


(服が大きく……? い、いやこれは)


「体が縮んでるぅ~~!?!?」


 甲高い声に耳が痛い。

 声変わりするずっと前のときの声のようじゃないか! いや、そんなことより!


「か、鏡!」


 部屋にはそんなものはない。下の洗面所に行くために走って階段を降りる。


「あ、シャガおはよー!」

「……きたか」

「!?」


 階段を降りてリビングで体を固めた俺。 いるはずのないこの誰か達は誰だ!?

 朝食の準備をする20代の男が一人、その男が用意したパンをもってこっちに笑顔を向けている幼女が一人。

 俺に向かってシャガ……? シャガとは俺のことか……?

 男の方は小さくて聞こえなかったけど、起きたかと言ったと思う。


(こ、ここ、この人達は俺を知ってるのか!?)


 俺は城井瑞樹であってシャガではない。何をいっているのかさっぱりわからない。


「ぁ……ぇ……」


 呆けていると幼女が笑顔を引っ込めて不思議そうな顔でこちらをみる。


「どうしたの? シャガ、まだ寝ぼけてるのー?」

「ユリ、シャガは初めましてなんだ。そんなに大声だとびっくりするだろ」

「あ、ごめーん!!」


 ユリ……?

 イスから飛び降りてドタドタと走ってくるこの幼女が、ユリ?


「シャガ、顔洗おー! お手て洗うところに連れてってあげる!」


 ジャムでベトベトの手で俺の手首を掴んで、幼女は洗面所に俺を連れていく。


「はい、台!」


 少し低めのイスを指して笑顔で言う。言われるがままイスに登り鏡に向かい合う。


(……小さい)


 さっき驚いたため今度は静かに息を呑んだ。

 鏡に写る俺は小学校に上がる前くらいの容姿だった。


「ッ!!」


 動揺を誤魔化すため、見間違いだと決定付けるため俺は顔を洗う。顔を洗い、鏡をみて、また顔を洗う。

 ……何度洗って見ても俺は小さな子供だった。


「シャガ?」


 下から俺に向かって言う幼女。この子、どこかユリに似て……。


「ユリ、シャガ。早く朝御飯を食べなさい」

「はーい!!行こっシャガ!」


 男が俺の体を抱え、イスから降ろす。ユリのような子供にまた手を引かれてリビングへ連れていかれた。

 置いてあったのは焼きたてのパンとサラダ。トマトとレタスだけの簡素なものだ。パンの横には俺の好きなメーカーのピーナッツクリームがある。見慣れたロゴなのになんとなく昔の絵柄のような気がした。


「シャガ食べないの?」

「え、ああ……食べるか」


 俺は着替えもせず、ピーナッツクリームをパンに塗り、もそもそと食べ始めた。




(ヤバい……腹がいっぱいだ)


 パン1枚と少しのサラダ。それだけで俺の腹はパンパンにふくれてしまった。……小さい頃はあまり食べれなかったのを思い出した。


「食べ終わったらシャガに話があるから俺の部屋に来い」

「………」

「シャガ?」


 スミレと呼ばれる男が俺をじっと見つめる。

 俺も見つめ返すとユリ(?) に顔を覗き込まれた。


「ユリは少しお勉強だ。算数がここまで出来たら俺を呼ぶんだぞ」

「はーい!」


 片付けた机の上に算数ドリルを置いた男は、俺を呼びながらリビングの横の部屋へ入った。

 ユリの家のままならあそこは客間だったはず。

 ……とにかく着替えてから行こう。男が用意したと言う服が起きた部屋のベッドの脇に、今の俺のサイズに合う物が置いてあった。タンスも覗くと他にもあるのを見かけたが、とりあえずそれに着替える。

 着替え終えたらまた下の階に降りた。


「さて」


 入った部屋はやはり和室だった。そこに座布団を引き、正座する。スミレは胡座のまま俺に話す。


「シャガ、今日からここで暮らすけど大丈夫だな? ユリは元気で人懐っこいからすぐ馴れるだろう」

「ユリ……やっぱりユリか。なら……」


 ユリは俺の知るユリなのだろう。それならば、ここにいるこの人は。


「あなたはスミレか?」

「ん? 俺はスミレだが」


 俺が静かに呟くとスミレは首をかしげて俺を見る。スミレがなにか聞くより俺の体が小さいことの方が重大だ。


「えとスミレ、さん?ここは……俺の夢か?」

「は?」


 さっきから色々考えたけど、これでしか理由がつかないと思う。服がそのままだったのが少しあれだけど……。


「だってユリは小さいし俺も同じくらい小さいし、なにより噂のスミレさんがいるから」

「バカか、何言ってんだお前」


 口悪ッ!


「お前は昨日施設からここに来て疲れたからユリにも会わずに寝ただろ。俺がいる? 当たり前だ。お前の体が小さい? それも当たり前だろ」

「当たり前なのか!?」

「1996年7月13日生まれのお前が2002年3月3日に5才で体が小さいことにおかしな点はあるか?」

「!?!?」


 俺の誕生日は間違っていない。で、でも今日がなんだって!?


「2002年3月3日。バカかお前」


 口悪ッ!!


「スミレー! ここわかんなーい!!」

「わかったー! ちょっと待ってろー!」


 今までのドスの聞いた声から一転。優しげなパパの声になったスミレは部屋を出る前に振り返り、俺に言った。


「もしユリと喧嘩したり何かあったら叩き潰すから覚えておけよクソガキ」

「ひっ!」


 ギロッ、と一瞬睨んだら彼は和室を出ていった。


「…………」


 あの子はやっぱりユリなのか……。今が2002年なのは本当なのか?

 っていうか……。


「スミレって男かよ!!」

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