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なんて、世の中上手くは行かないわけで……。
「あー! やめたいときにコインが出てくるやつだー!!!」
六枚から奇跡のフィーバーを俺は起こしていた。
ユリはとっくに使いきり、俺のフィーバーを嬉々とした表情で覗いている。
周りの、多分中学年以上だろう子供たちも俺のを覗いていた。
「終わらねー! ユリ! 好きなだけ持っていって使いきれ!」
「いいの?! やったー!」
箱にいっぱいユリは持っていく。
その様子を指をくわえてみている子供達にも分け与え、消費させる。
そうこうしてしばらくすると、やっと全てなくなった。
ありがとー! またお礼するね! と笑って手を振った子供(今の俺よりは年上)が数人いたが、多分会うことはないだろう。
「ふー」
すっからかんになった箱をもって息を吐く。
やっとなくなった……。
「シャガー終わっちゃったー?」
「ああ、もうおしまい」
「そっかー、じゃあ外いこっか!」
実は五十枚ほど財布の中に隠してたりするが、まあ次来たときにすぐ遊べるようにな?
「どこにいくの?」
自転車を繋ぐチェーンを外すと、ユリは言った。
ちょっとお散歩だよ。
「ふーん」
よく見るとユリは少し頬を膨らませている。……まだコインで遊びたかった?
「別に良いもーん」
ふん、と向こうを向く。
可愛い。
「じゃあ行くぞー」
「むー!」
ユリを無視して進もうとすると慌てて彼女も飛び乗って付いてきた。可愛い。
「あー懐かしい道だな」
舗装されてない道路。古い広告や未来ではなくなってしまった店が心をくすぐった。
「どこにいくの?」
「俺にとって重要なところだよ。ついてきてくれ」
後ろから言うユリに告げる。
「シャガってこの辺りの子なんだね……」
静かに、誰に聞かせるでもない呟きが聞こえた。
……俺の、シャガの経歴ってどうなってるんだろうな。園長も俺のことを知らない雰囲気だったし。
「と、見えてきた……」
公園の向こうの俺の家。
一週間前には普通に生活していた場所なのに、なぜだか全然違う雰囲気を感じた。
自転車を停めて見てみる。
新築の新しい屋根の色、綺麗な扉。
ピカピカ輝くような家に懐かしさを感じる不思議な心情だった。
「あそこ、シャガの家?」
ボーとしていると訊ねられた。
「いや……違うよ」
「そうなの? ……あ、でもあの人シャガに似てるねー」
ユリが家のなかから出てきた人を指差す。
ああ、母さんだ。若いなぁ。
その後ろから小さな人影が……!!
「ユリ、帰ろう」
くるっとユリが俺の方へ首を向ける。
「なんで? 来たところだよ?」
ちら、と家の方を見てみる。
……やっぱりユリに見せちゃいけない。
「もういいんだよー。早くしないと先に帰るぞー?」
声のトーンを変えて言ってみる。
「えー! 待ってよー!」
よし、ユリは付いてきた。これで大丈夫だろう。
……帰ってスミレがいたら報告しよう。
「そうか、残念だったな」
スミレは目を伏せる俺に言った。
「俺はどうすれば良いかわからない。この先どうするか考えているか?」
ある程度、この時代の俺がいるのは知っていたから少し心は楽……だ。
「一番近い出来事で、夏場にここが火事に逢いそうはわかってる」
「今年の夏か?」
それはわからない。
ユリから聞いたのは夏とか冬ってだけで何歳ごろかなんかは知らないから。
「そうか……」
俺は頷いて返す。
「基本的に行き当たりばったりなんだ。俺もここを理解できてない」
「ああ、わかってる」
スミレが俺の頭を撫でる。
少し恥ずかしくなった俺は話を変えた。
「それよりスミレ、俺って皆にはどう伝わってるんだ?」
「???」
質問の意図が伝わらなかったらしい。
無理矢理話題を変えただけだから仕方ないと言えば仕方ない。
「例えばユリやスミレに初めて会ったのは三月三日だろ?」
「ああ」
「じゃあその前まで俺はどこに居たんだ?」
俺のこと。いや、むしろシャガのことだ。
シャガはいつから、どこで、何をしていたのか。
「俺が連れてきた。またいつか世話になるかも知れない施設からな」
「園長は知らないのか……?」
「あいつより俺の知り合いなんだよ、あそこは」
へえぇ……。
なんとなく辻褄が会う気がする。
「また連れてってくれるか?」
「しばらくは難しいな」
そうか……まあいいや。
「ありがとうスミレ」
「ん? ああ」
なんのことかわからなかったみたいだがスミレは礼を受け取ったらしかった。
「じゃあ仕事あるからな」
「わかった」
そうして、俺はスミレの部屋を出た。
……あ!
「スミレ! スターティング貸してくれ!」
「お、おう。持っていけ」




