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王の妃  作者: s
10/12

余談

9話目終了後すぐです。




「珠嬰」

 天幕に戻る途中、氷旺に名を呼ばれて振り向いた。

 するっと髪を一房掴まれ、口づけられる。

 内心、心臓が張り裂けそうになりながらも、何とか平静を装う。

「どうしました?」

 小首を傾げて尋ねると、ふっと微笑まれた。

 そうやって、氷旺に微笑まれる度にドキドキ言う心臓を何とかして欲しい。

 その内、脈拍異常で死ぬ気がする。

「やはり、新しいのを買ってやろう」

「? 何をですか?」

 言われた意味が分からず、再び首を傾げる。

 と、腕を掴まれ強引に引き寄せられる。

「だから、失くした髪留めの代わりを、だ」

 氷旺の胸の中にすっぽりと収まった珠嬰の髪を撫でながら、ふっと耳の奥に言葉と吐息を放り込まれた。

 瞬間、心臓が息の根を止める。

 死んだわけではない。

 が、死んだ方が良かったかもしれない、とは思った。

「か、髪留め、ですか?」

「ああ。そうだ」

 直接耳元で囁かれる声に、体中が総毛立つ程の甘い痺れを感じたが、同時に、囁かれている言葉の内容に戦々恐々として全身に震えが走った。

「お前には何色が似合うだろうな?」


 まずい。まずいことになった。

 どうする?

 どうすれば……。

 ど、どうすれば!?


 必死に取り繕うべき言葉を探していると、氷旺と珠嬰の姿に気がついた悧達と采凛がこちらへ駆け寄って来るのが見えた。

「珠嬰様!」

 帰ったら即、屑籠を片付けなければ!

 と、意気込んでいた珠嬰に、悧達が声をかける。

「あ。珠嬰様とお呼びしても?」

「え? ええ。構いません」

 特に何も気にせず頷いたが、悧達は、目を輝かせて喜んだ。

「ありがとうございます、珠嬰様」

 そうやって微笑む様は本当に爽やかで、仮に禁軍の将でなくとも女人にモテるだろうなぁ、などと考えていた。

「……解せんな」

 と、低い低いドスの聞いた声が真上から振って来た。

 顔を上げようとしたら、スッと温もりが身体から離れる。

「……悧達」

 どうしたのだろうと思っていると、氷旺が悧達の頭をワシッと掴んだ。

「お前、名を呼ぶ許可は既にもらっていたのでは? 今の会話は何だ!?」

 怒気を孕ませて氷旺が睨み上げたが、悧達は意に介した様子もなく、頭を掴まれたまま、肩を竦めて緩く頭を振ってみせた。

「陛下、器の小さい男は嫌われますよ?」

「貴様! おい、そこに直れ! 剣を抜け!」

「やだなあ」

「悧達!」

 わなわなと震えながら剣を抜く氷旺とは対照的に、利達は明後日の方向を見ながら盛大に溜息を吐いた。

 そんな二人を眺めながら、珠嬰は、二人は本当に仲が良いのだな、と少し、羨ましく感じた。

「珠嬰様」

 と、采凛に呼ばれて振り向く。

 そっと、袖の中に隠したものをちらりと見せられた。

 はっと驚いて見つめると、采凛はにっこりと微笑んだ。

「捨てるのであれば、誰にも気づかれぬよう捨ててまいりますが、どうなさいますか?」

 采凛が袖の中に隠し持っていたのは、あの時、捨てたとばかり思い込んでいた、例の簪であった。

「陛下や他の者に見つからぬよう取っておきました」

 にっこりと微笑む采凛に敬服した。


 お前には何色が似合うだろうな?


 ふと、先ほどの氷旺の言葉と笑みが思い出されて逡巡する。

「それは……あなたが預かっていて、采凛」

「よろしいのですか?」

 軽く剣を合わせ始めた二人を見つめながら、ふっと息を吐く。

「ええ。頃合を見計らって二つつけるわ」


 桐と庚の和平を願って。






読了下さいましてありがとうございました。

余談と銘打ちましたが、この話がこの物語の完結話かな~とも思っています。今後は、余談という形で、更新出来ればな、と思っています。

お付き合い下さいまして、ありがとうございました。



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