1-(1) 笑顔、それは恐怖
ガンズ・デッド・オンライン。
それは魔術というオカルト的な技術を使う魔術師と科学という現代に根付いた技術を使う戦闘員たちの相容れない二つの技術を使う者達の永遠に終わらない戦いのゲーム。
そして今、その終わらない戦いは俺の視界の中で繰り広げられていた。
ダダダダダ!!と火花と共に銃口から弾丸が射出される音が鳴り響く。
ハンター側の連中が無闇に銃を乱射しているのだろう。
鳴り止まない発砲音の中で巨大な炎の塊が投げられ爆発した。爆音が鳴り響きハンター達が爆風に巻き込まれ数々のハンター達が脱落しウィザード側が有利な戦況となった。
ウィザードは魔力が消えない限り魔術を発動し続ける。それに対してハンターは現代の武器を使用しているが簡単にウィザード側に破壊され稀にしか勝利はない。
「撃ち続けろ!道化如きに負けてはハンターの名が泣くぞ!!」
ハンター側のリーダーだと思われる男が叫ぶ。
それに釣られて他のハンター達も叫ぶ、意味のない行為をよくもまぁやるものだ。
『ザザザー・・・こちらア』
太古に昔に使われていた魔術は科学によって打ち消されたが魔法という形で現代の技術に蘇った。
そんな太古の異物が何故、再び現代に戻ってきたのか。
その現象は二二世紀、日本のとある小さな村で確認された。
一〇月一日、村民全員が殺される事件が発生した。現場で警察はまず最初に調べたのが犯人の発見の手掛かりを探すのではなく『なぜこんなことができたのか』を調べた。そう、まだ五歳にも満たない子供が『たった一人』で異様に輝く紅い液体のようなもので全員殺したのだ。
それが過去最初の魔法が確認された記録だ。
当初の技術や情報からして政府、情報当局、評論家ましてや世界最高の科学者と呼ばれた男でさえ『異常現象』としか説明できなかった。
幾ら現代の技術が進歩したところでその『異常現象』が解明されることはなかった。その『異常現象』を使用した少年に聞いてもその使用していた時だけ記憶がなく観察と危険因子保護という目的で施設に保護されることになった(だが保護というより監禁という言葉が合っていたかもしれない)。
そして『異常現象』は『超能力』や『特殊な生物』と呼ばれその『異常現象』はだた謎だけを残した。
どんなに研究や実験を重ねてもその『異常現象』の再現は不可能とされ、別に現代の技術に役に立つこともなく恐怖だけを残してその謎は世界の隅っこに忘れ去れた。
だが、数々の有力国家が研究を重ねていくにつれその『異常現象』を使用する宗教組織がこの現代の表舞台に登場し始めた。
そして人を殺し尽くし謎と恐怖だけを残し忘れ去れた『異常現象』は『魔法』によって再現が可能となった。
『異常現象』は『魔法』とかわり現代の様々な技術に絶大な影響を与えた。
そして人々は旧式術式を『魔術』と呼び新式術式を『魔法』と呼んだ。
そして今、魔法を使う者『魔法士ウィザード』『超能力者サイキッカー』を育てることに様々な国家は競争となっている。
だが、人は気を付けなければならないその『魔法』という技術で人は時に弱者を喰らう獣になり、時に神になろうとする魔法使いは一歩間違えば核兵器以上の兵器になりかねない。人々の油断と優越感は自らを堕落へと導く小さな悪の灯火なのだから。
そして『魔法士ウィザード』としての証を魔法専門学校に通い手に入れるべく生徒たちの戦いも続いている。
国家魔法士資格。
『魔法士ウィザード』であることを証明する証であり、『魔法士ウィザード』にとって誇りにも値する物になる。国家魔法士資格試験は『魔法士ウィザード』になるために通らなければならないもので特に厳しい試験で筆記・精神鑑定・実技など様々な試験を合格しなければ得られない超難関の資格である。
だがそれらの試験を終え合格して『魔法士ウィザード』になろうとそこでゴールというわけではない。
合格しても一年毎の査定がある、研究成果のレポートと実技。軍や研究所に所属するものは日々の業績・実績などを評価に合格しなければ資格を剥奪されるという厳しい内容である。
魔法専門学校で通おうとも必ず合格するとは限らない。
だが国家試験に落ちても、もう一つの道がある。
それは『超能力者サイキッカー』というものだ。
『魔法士ウィザード』を育成していく過程でもう一つの能力者『超能力者サイキッカー』が生まれた。
『魔法士ウィザード』と違って多彩に魔法が使えるわけではなく、一つの魔法しか使えない。だが、同時にその一つの魔法を脳に直接定着させ特化させることで技術面で劣るところもあるが戦闘力では『魔法士ウィザード』より上になる。
『魔法士ウィザード』は科学者で、『超能力者サイキッカー』は軍人といえるだろう。
『超能力者サイキッカー』は、簡単に魔法が使用できるようになるが対価として一度魔法を脳に定着させるともう二度と他の魔法、魔術でさえ使用できなくなる。
分かれ道があるだけでどちらか両方を選んでも結局競争、戦いは終わらない。
これが魔法の世界、これが才能の戦い。
最早、平等な教育などはもう存在しない。
実力、才能、それがなければただの無能だ。
この場所では無能は落ちこぼれでしかない。
だが、そんな無能な化物が世界の脅威になるとは誰も知る由もない。
◇ ◇ ◇
埃が蔓延する廃墟と化した予備校のビル。
殆どの人が眠り込んでる深夜四時。
雲に隠れ微かに漏れる月の光がこのビルでの唯一の明かり。
そんな予備校として機能していないこの廃墟ビルで不意に後から鬼柳雁也にとって忌わしい三〇代前半と思われる男の声が耳に入ってきた。
「久しぶりだね。『大魔王』君」
月の光が届かない教室の奥で影に隠れながら男の声が教室で響いた。
だが、雁也は声の根源である後の影に隠れている男の方へ向くことは無くただ、黒板だけを見つめていた。
「何が大魔王だ。別に俺はそんな化物になったつもりはない」
「だって君の中で大きな大魔王を飼っているじゃないか」
少し肌寒い夜の風が雁也の黒いコートを捲り上げる。コートの下には何処かの学校の制服だろうか、白をベースに緑、黒、青といった明るいイメージのある制服である。
「やっぱり王光にしたんだね、雁夜くん」
「そんなことをお前に言われるようなことじゃない」
気軽な口調で話す影に隠れる男をよそに雁也は静かな怒りのある生真面目な口調で答える。
「いつもは普通にしゃべるのにね~、やっぱ俺嫌われてんのかな?」
雁也は別に答える様子もなくただポケットに手を突っ込み月の光に当たりながら静かに目を閉じた。
再び開かれた眼には黒と白に染まった普通の人間の眼というものが一切なかった。雁也の眼には紅い丸とそれを包むように白があり獣の眼に近かった。
すると影に隠れた男は背中だけを向けている雁也の眼をまるで見たかのように口を開いた。
「やっぱり目的はそれかい、“神の子の血を受けた槍”と“全ての願いを叶える杯”を手に入れるためだけに入学するのかい?」
「あたり前だ。俺の中で蠢く寄生虫を一刻も早く駆除するためだ」
「たとえ鵺ぬえ・・・いや『十尾』を殺せたところで六割を『十尾』の肉体で補っている君の体じゃ、元の体に戻れたと言っても死ぬだけだよ。あぁでも今の医療技術で生きられるけど薬漬けにされて臓器機能の代わり機械付くしの体になるのが落ちだよ?」
「そのための『聖杯』だ」
雁也が『聖杯』と口にするとそれを聞いた影に隠れる男は急に黙り込み腹を抱えて笑い始めた。
「ハハハハ!!まさか君、『聖杯の代償』を忘れたのかい?幾らすべての願いを叶える万能の願望杯でも無料ただで叶えるってわけじゃないんだよ?」
だが、雁也は影に隠れる男のことなど気にとめる事もなく顔色一つ変えず淡々と呟いた。
「そんなこと百も承知だ。『聖杯』の特質など一族じゃ、子供だって知っている」
「願うものによって対価は変わる。物だったらそれそうの物を出すだけのことだけど。命といっちゃ、最低でも人三人ぐらいの命は必要だよ?」
そして、ようやく雁也は顔色を変え口元を大きく広げ不気味な笑みを浮かべた。
狂喜に満ちたその笑み陽気に喋っていた影に隠れた男でさえ恐怖を覚えた。
「今となっちゃ、俺にとって人の命なんてどうでもいい。魔法を使う殺し屋で魔術師殺しと呼ばれてきたんだぜ?今更、命だとどうこう言ってられるか」
生真面目な口調が崩れいつも通りの普通の高校生が喋る口調へと変わった。
いくら一割も満たない開放状態で『十尾』の狂気が雁也の精神に大きく影響を与える。
「施設内じゃいい子だったのにねぇ、虫さえ殺すのに躊躇う優男だったのに、雁也くん。いったいこの脱走の十年間で何があったんだい?」
影に隠れる男の質問など無視して、ようやく後に目を向けた。
禍々しく輝く紅い眼を影に隠れる男に向ける。
「目が覚めたんだよ」
それだけを呟くとその後何も言わず出て行った。
取り残された男は影から出て、ポケットにしまっていた煙草を口にくわえ火を着けた。
「それ、堕落への引き金だよ。雁也くん」
月の光から外れた教室の影からツンツンの銀色の髪を揺らし独特なアロハシャツを着ながら男の声が誰もいない古びた教室でまるで山彦のように響いた。
◇ ◇ ◇
デウス・エクス・マキナ
本来、機械仕掛けの神という意味だが聖杯を使用するに値する者かと選定するために聖杯によって召喚された吸血鬼、いわば機械仕掛けの選定する吸血鬼という言葉があっているかもしれない。大地に自然に存在する精霊である村を守り続けそして悪名を受けた吸血鬼。悪であり善である存在。
宝具
『不浄たる混濁の血』
『』
『死を与える魔剣』
自らの血液、黒血で形成した魔剣。あらゆる魔剣の逸話が終結し生成された究極の魔剣。死を関連したもの、天使、悪魔、現象、語源などのモノが融合された死を体現された魔剣とも言える。一度使えば対象者を殺すまでその剣は消えることない。月の光を凝縮しロジャー=ベーコンが残した「月光を不用意に浴びたために生命を失った者が少なからずいる」という語源から吸血鬼の黒い血に染まった月の光を放ち全てに死を与える。
とある男の話をしよう。
男は人を殺すことに長けていた。
誰よりも強さを求め、誰よりも皆の救いを願った呪われし一族の長だった。
自分の幸せを憎み、ただ人の幸せを奪ってきた。
そして、男は考えた。
人を苦しませずに殺す化物を作ることを。
生命力、魔力に反応し相手を殺すことを本能に殺すことを学習する生きた機械を作り出そうと八倒した。
村に住む異形の物を捕まえ実験を重ね、ある化物を作り出した。
それが鵺ぬえまたの名を雷獣。
厄病を運び毎晩、黒煙とともに不気味な鳴き声を放つ妖怪。
日本の合成獣キメラと言ってもいいだろう。
平家物語などに登場しサルの顔、タヌキの胴体、トラの手足を持ち、尾はヘビで文献によっては胴体については何も書かれなかったり、胴が虎で描かれることもある。
源頼政によって葬られた鵺は鵺塚に肉体を封じられた。
だが、その男は長年封印されていた肉体を掘り起こし、葬られた鵺の魂の代わりに十の人工霊魂を入れた。
それが後、雁也の中に封印される『十尾』だ。
十の尾が生えた鵺。
それが『十尾』だ。
人間を殺すためだけに造られた合成獣キメラ。
不幸を呼び、死へと誘う究極の化物。
後に男は後悔することになる村人の幸せを願って造り出した化物に幸せを喰われる運命を辿るのだから。
◇ ◇ ◇
入学式まで約二時間を切った。
夜中、予備校の廃墟ビルの中で男と話した後、別に家に帰ることなくやることもなかったので王光の近くの公園で携帯端末を使ってネット小説を読んでいたり王光の情報をただ見ていた。
私立大学付属王光高校。
数多い魔法科専門学校の中で日本最大の魔術家系・大神氏族おおみわしぞくの五本の指に入るほどの有名で知られる高等学校だ。
毎年、多くの魔法科大学の卒業者を出し様々な歴史がある。
そしかも王光は他の魔法科高校より少し変わった高校でもある。
普通なら魔法が使えるエリートだけが魔法科学校に入るわけだが、王光は魔法を学ぶことを望む者ならば誰でも受け入れる高等学校なのだ、と書いてあるYohuuの知恵袋を携帯端末で黙読する雁也。
ピピィ、と一時間たったことを知らせる音が端末から出て携帯画面から目を離す。
やっと二時間前か・・・と疲れきった背筋を伸ばす。
王光の門が開かれ校門で待っていた在校生が入っていった。雁也もそれに続いて入る。
二時間前ということでまだ多くの人はいない。
雁也は適当に座れる場所を探すため校内を歩き回っていた。
学生寮、売店、その他の学校施設を見てもはや学園都市と呼んでも間違いはいないだろう。
「あら、私以外にも新入生がいるなんて」
すると雁也の後から女性の声が聞こえた。
振り向くと雁也とは大違いな希望に満ちた笑顔が待っていた。
肩まで伸びている綺麗な黒髪に整った顔立ち、少々子供っぽいが美人の類に入るだろう。
雁也のような平凡すぎるといってもいい様なこの容姿でこの様な美少女に話しかけられることはよっぽどの事がない限りありえないだろう。
だが、雁也は照れるどころか顔色一つ変えず、小さな作り笑みを浮かべ返事をする。
「楽しみで早く起きちゃいましてね、時間も見ずに来ちゃったんですよ」
ハハハ・・・と雁也は苦笑いを出すが目の前の美少女は、嘘偽りもなく笑っている。
「私も入学が楽しみで早く起きちゃって、私達似た者どうしですね」
「いや、共通点一つでそこまでいかないでしょう」と雁也はツッコミを入れ美少女の笑みに続いて苦笑いを浮かべる。
「ハァハァハァ・・・お嬢様!!」
すると息を切らしながら美少年の単語が似合う同じ新入生と思われる男が近づいてきた。
お嬢様と呼ばれた美少女の近くに止まるとハァハァハァと荒かった息をふぅーと深呼吸だけで通常の呼吸へと戻した美少年。
「お嬢様、捜しましたよ!!勝手にいなくならないでください!!」
「ごめんなさい、近衛」
近衛と呼ばれた美少年は美少女に注意した後、雁也の方に目を向けた。
「其方の方は?」
「鬼柳雁也です」と雁也は自己紹介も可ね一礼する。
すると近衛は鬼柳という言葉を聞いたとき眉を顰めた。
「私の名前は土御門夜織、こっちは蘆屋近衛です。今後よろしくお願いします」
手を差し伸べた夜織。雁也も握手をしようと手を差し伸べたと同時。
パチィン!と近衛に手を弾かれた。
「そんな毛皮らしい手でお嬢様に触れるな!!」
両方、刹那の間、硬直し夜織が口を開いた。
「近衛、何をするのです!!」
「お嬢様、こいつは鬼柳家の者です。術者殺しの咎人に触れられてはお嬢様が穢れます。」
「そんなことで手を弾くことはないでしょう!!」
「いえいえ、いいんです。嫌われるのは慣れっこですから」
「ですが!」
「いや、いいんです」と夜織が反論する言葉を無視して雁也は口を動かす「じゃぁ、自分はこれで」と付け加え二人から逃げるように立ち去ろうとする。
「あっまって!」
夜織の言葉を無視して雁也は足を動かす。
大分、離れた時、雁也は後を向いて二人の姿が見えないことを確認して近衛に言われたことを不快に思うわけでもなくただ普通に思考を働かせる。
(土御門家も入学するのか・・・・やはり、聖遺物の情報が漏れているとしか考えられない・・・・土御門家だけじゃない・・・他の組織、まして国外の人間までもが入学する可能性があるな・・・・・)
思考を働かす、不意にさっき聞いたことのある声が後から聞こえた。
「鬼柳さん!!」
後ろを向くと走っていても気品を感じる女性がいた。土御門夜織だ。
近衛の目を盗んで抜けてきたのだろう。
「土御門さん。どうかしましたか?」
「さっきは近衛が失礼なことをしました!」
美少女相手に顔色一つ変えなかった雁也の中に驚きを感じた。普通、こんな男に頭を下げることない女性が普通に礼をしている姿があったのだ。
「いっいえいえ!全然気にしていませんから、そんな貴方みたいのが俺なんかに頭を下げることはないですよ!」
「いえ、近衛の失言を私が見過ごすわけにはいきません。土御門家の時期頭首として心から謝罪を」
「だから、大丈夫ですって。蘆屋さんのことは、気にしていませんから。しかも鬼柳家は何年も嫌われてきた一族ですし」
嘘の無い笑みを浮かべるが一向に頭を上げる気配がしない。
本当に気を悪くしていないことを証明するように手を差し伸べる。
「だから改めて今後、宜しくお願いします。土御門さん」
すると夜織は、顔を上げ不安気な顔から笑みに変わり差し伸べた手をぎゅっと握り口を開く。
「こちらこそ」
そう答えると、手を離したぶん近衛が待っていると思われる場所へと戻っていった。
ふぅ・・と体が開放された感覚になり、疲れが圧し掛かる。
夜織の笑顔、態度、このまま話し続けていたら、入学式どころではなかった。
そして雁也自身はどこかに恐怖を感じていた。
その恐怖は何回かあった。
悪意ない無邪気な声、嘘偽りの無い笑顔。そんな普通の存在が雁也自身にとって恐怖だった。
悪に生きた罪人にそんな物は飾りでしかない。
それなのに自覚しているはずの恐怖が雁也を蝕んでいく、『十尾』という呪いを抱えながら善意と悪意が雁也の中で渦巻いていく。