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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.2 予兆』
84/87

1.蒼と紫の残影 (2) ※

※R15(?)らしい表現が含まれていますので、

苦手な方は、適当に斜め読みでよろしくお願いします。

「……どこへ行く?」

 紡がれたのは、低く擦れた声音。それに混じった吐息が、銀細工の施されたダークレッドのピアスごと、スゼルナの右耳を掠めていく。直に感じるベルディアースの熱に、彼女の頬が薔薇色を強めた。

「どこって、すぐそこなんだけど……」

「……行かせぬ」

「服を拾うだけだよ?」

「……必要ない」

「で、でもね、ディアルク。私、ずっとこのままなのは、さすがにちょっと……恥ずかしい、な」

 尻すぼみになるスゼルナの言葉に、わずかに面積を増した翠目が愉悦に揺れ、口元からは微笑が零れ落ちる。長い指先が、彼女の顎をとらえた。交わる、視線。

「ならば、その姿でも差し障りのないようにすれば良いのだな……?」

「え? それって、どういう意味……あ、ちょっと待って! だ、誰か来たよ……!」

 やおら響き出した一定の間隔を伴わない靴の音にスゼルナがビクッと身体を震わせ、慌てたようにベルディアースから身を離そうとするが、させまいと働く彼の手に阻まれる。

 後方から銀のカーテンレース越しに近づく足音と、不機嫌さを醸し始めた彼とを交互に見やりながら、スゼルナは困り果てた末、しがみつくように黒衣へ裸身を密着させるという、一つしか思い浮かばなかった選択肢に身を委ねた。

「お邪魔しますよ~主殿あるじどの。ってあらま、お楽しみの最中でした? ハハハッ、タイミング良……悪すぎじゃん、オレってば」

 印象的な韓紅(からくれない)の長い前髪と、銀の装飾品たちが揺れる。韓紅色に半ば近くを隠したボルドーの瞳が、悪びれた風もなく楽しげにきらめく。つり上げられた口元から、ひっきりなしに落とされる下卑た笑みに、冷たい眼光が向けられた。

「……何の用だ、ロンディス」

 眼差しだけで射殺せそうなほどに凄絶な表情を浮かべた主君に、ロンディスと呼ばれた男はひょい、と両肩を竦めると視線を逸らす。両手を頭の後ろで組み、飄々とした態度のまま、再び口を開いた。

「まあ、貴方にとってはンな大したことじゃないかもしれませんけど、一応はご報告をね。この前の希望神の村に続いて、正義神のも見つかったそうですよ」

「ほお……」

「どうします? 勅命があるようなら、側近であるこのオレが頂戴しますけど?」

「側近、だと? フッ、笑わせるな。随分長いこと、この俺の前に顔すらも見せなかった奴が、何をほざくか」

「そりゃ仕方ないでしょう? オレだって、好き好んであんな辺鄙へんぴなところに飛ばされたくなんかなかったっつーの。しかも散々こき使われた挙句、アナサの族長とその取り巻き数人くれえしか始末できなかったとか、ケッ、暴れたりねぇわ、ムシャクシャするわでマジやってらんねぇぜ、ったく!」

 吐き捨てるように言い放つロンディス。

 それを背中越しに聞いていたスゼルナは、不意に胸元に落とされた口付けに身を捩った。驚愕に満ちた黄金の瞳に広がる、艶やかな濡れ羽色の波。こぼれそうになる声を必死に堪えながら、スゼルナは戸惑いの表情を覗かせた。

(ちょっと待って……! こんな、人がいる前で何をする気なの……!?)

 熱を帯びた呼気が彼女の肌に湿り気を与え、あわ立たせていく。それに流されまい、と金糸が緩やかに否定を示し、キュッと回した腕に力を籠めると隙間を埋める。

 彼女のそのささやかな抵抗に、翠目がスッと鋭さを増した。

「フン。所詮は、その程度か。……小者よな」

「あ~はいはい、仰せの通りでございますよ、邪王神(じゃおうしん)閣下」

 バサバサと後ろ髪をかきむしりながら、ロンディスは大きく歎息し腕を組む。

「で、今回の軍の構成なんですけど、この前のオルトのときのように主殿が直々に指揮を執られるおつもりで? ま、結局は途中から違う誰かさんが、代理を務めてたみたいですけどね~。それなら、最初からやる気っぽいもの、見せなきゃよかったんじゃ?」

 皮肉を含んだその物言いに特に気にした様子もなく、(いと)うスゼルナの柔肌を蹂躙していたベルディアースの翠玉が睥睨され、ボソリとした嘯きがそれに続く。

「……興味ない。貴様に任せる」

「ああ、そう仰るだろうと、もう既に筆頭殿たちが動き始めていますよ。じゃ、今回の指揮は筆頭殿ってことで勅命出しときますけど?」

「好きにしろ」

「へいへい。で、そのことに関してなんですけど――」

 ロンディスの報告が続く中、死角になる位置から伸ばされた指先が悪戯を始める。

 慌てて黒衣から身を離したスゼルナは、自分を翻弄する相手をうかがい見た。

 代わり映えのしない、冷徹な美貌。未だ、まとう雰囲気は機嫌の良さそうなものではなかったが、その口唇は不敵に歪んでいた。

 スゼルナの面立ちが、サッと蒼白を滲ませた。

「だめ、だめだよ……っ」

 かすれた声と黒衣を掴んだ手が、制止を訴える。

 それに返されたのは、翠目の一瞥と変わらない笑み。そして、黙れと言わんばかりに更に強引に絡んでくる傍若無人な侵入者。

 スゼルナの細身がビクンと跳ね、黒衣に顔を押し付けた端から抑えきれないくぐもった呻きが漏れ落ちた。

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