表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【序幕】第二幕 『戦車と法王の奇想曲』
80/87

9.再会そして (2)

「スゼ……、スゼルナなの?」

「……え」

 ノラリダが震える声で訊ねれば、黄金の瞳と視線が交差する。

「スゼルナ? スゼルナだって……!?」

 その名前に、彼からも頓狂な声が上がった。

 胸の前で手を握り締めた少女の細身が、一歩また一歩と後退あとすさる。

「どうして、私の名前を……」

「忘れちゃったの、あたしのこと……!」

 恐怖を揺らめかせた少女の瞳に、ノラリダは愕然がくぜんとなった。

「嘘でしょ……? あの時、また会おうって三人で約束したじゃない! もう一度、手合わせしようって! あたしは――!」

 言い募るノラリダの前で、バサリ――少女を覆い隠すように闇色の外套が広がった。

 ハッ、とノラリダの表情が引き締まる。

「無駄なしゃべりはここまでだ。この俺を前に随分と余裕そうだな、蒼髪の女? フッ、そろそろ幕引きといこうか。まとめて死出の道へ誘ってやる」

 立ち塞がる、黒のシルエット。その手に瞬時に宿った黒炎が、一際燃えさかる。

 ベルディアースの身体が宙に浮かび上がり、掌が突き出された。

「スゼルナ、逃げて!」

「シェザルラード」

 ノラリダの必死の叫びと、冷徹な低音が重なる。

 右の手首を掴まれ、それに先導されながら走り出すノラリダ。瞬間、その場を轟音がつんざいた。



 木々と木々の間を駆け抜け、足を動かし続ける。

 途中、隣を走る彼の手が複雑に絡み、後方を指差す様を一瞥いちべつしながらしばらく走ったところで、ノラリダたちは立ち止まった。

 すぐさま、ノラリダは元来た道を振り返る。その蒼目が変わらない風景をとらえ、揺らいだ。

「追手は、今のところないみたいだな」

 背後からの声に、ノラリダは沈黙したまま小さく首肯した。

「だけど、油断は禁物だ。あの男は、時空を操る。さっきみたいに、突然の襲撃も頭に入れておかないと」

「……」

「そんなに心配すんなって。あいつなら、大丈夫だ」

「……なんで言いきれるのよ」

 横目でにらみながら、ノラリダは彼へと身体を向き戻した。

「この辺りには、おれの仲間が何人か潜んでいる。さっき合図を送っておいたから、上手く逃げれるよう加勢してくれると思う。それにあいつは――」

 一区切り置くと、彼は微笑した。

「スゼルナは、おれの弟子なんだ。なんでこんなところにいたのかわからないけど、あいつにはいろいろと教え込んである。だから、大丈夫」

「弟子、ですって? あんた、スゼルナを知っているの?」

 意表をつかれたような面立ちのノラリダに彼は、ああ、と短く応えると思案顔を作った。

「あれは、何年前だったか――。オルトの村に立ち寄ったときに、成り行きであいつに剣の扱い方を教えることになったんだ。オルトの一族にしては珍しく、全く剣を使えなかったからな、あいつは」

「さっきから気になってたんだけど、なんであんたがイシュルやオルトのことを知っているのよ。まさかあんたも、情報屋兼盗人とか言うんじゃないでしょうね?」

「も?」

 不思議そうに、彼は首を傾げる。

 “情報屋兼王子”――不意に浮かんだ職業名に、ノラリダはボッと頬が熱くなるのを感じた。

(あんたは、呼んでないわよっ!)

 にわかにブンブンと首を振り始めた彼女に、疑問を浮かべた鳶色の瞳が瞬かれる。ああ、そういえば、と彼が続けた。

「名乗るのが遅くなったけど、おれはカシェン。ミドルーアから――いや、オルト正義イシュル、そして希望アナサ。おれは、アナサの村から族長の頼みでおまえを迎えに来たんだ」

「アナサから? じゃあ、あんたは希望の女神アナスタシア様の――。そうだわ、あの子は――、トルレアは元気に……」

「ノラリダ!」

 聞き慣れた声に名前を呼ばれ、ノラリダは口にしていた問いかけを中断すると、そちらへ蒼目をめぐらせた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ