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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【序幕】第二幕 『戦車と法王の奇想曲』
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9.再会そして (1)

 9.再会そして



 眼前を覆う、完全な漆黒の闇。

 それから思わず目を背け、反射的に両腕を頭上で交差させると、ノラリダは身を硬くした。

 次に響き渡ったのは、耳障りな音色だった。

 それに、彼女の視線が再びベルディアースの方に戻り、彼女を護るように横に構えた短めの剣で黒刃を受け止めた背中をとらえる。そこで揺れたのは、束ねられた赤髪の尻尾。

「あんたは……!」

 驚愕に目を見開くノラリダの手首が、有無を言わさず掴まれた。

「話は後回しだ! 今は逃げるぞ!」

 グイッ、と横に引かれ、彼女の身体が傾く。そのまま、繋がれた手に引きずられるように走り出す。

 最後に見たベルディアースの妖艶な唇が、美しい弧を描いたような気がした。

 木々の間を、いくつも駆け抜ける。土を踏みしめる音がやけに生々しく聞こえ、ノラリダはただひたすらに足を動かしていたが、ハッと自分の状況を理解し表情を強張らせた。

「は、放して!」

 手の拘束を、力いっぱい振り解く。予想以上に簡単に解けたそれに若干拍子抜けしながら、ノラリダはかぶりを振った。

「駄目。あたしは、行けない。村が、みんながどうなっているのかまだはっきりとわからないこんな状況で、あたしだけ逃げるなんて出来ないわ!」

「こんな状況だからこそ、逃げるんだよ! さっきの男が誰か、おまえにもわかっているだろう!? 無駄死にしたいのか!?」

 声を荒らげる彼に、ノラリダはムッとして更に言い返す。

「そんなわけないでしょ!? そもそもあんた誰よっ。あたしのお財布を奪った盗人のくせに、いちいち知ったような口をきかないでくれる!?」

「あ、あれは、おまえを足止めするために仕方なくだなぁ……」

 言葉を濁す彼に、ノラリダは、とにかく! と話を切った。

「逃げるなら、あんた一人で行きなさいよ! あたしは、村に戻る」

 彼女の宣言に、彼の人懐こそうな顔立ちにサッと険しさがかげる。

「今、イシュルの村に戻るのは危険だ。おまえも見ただろう、さっきの爆発を!」

「自分の目で確かめるまで、あたしは信じない。信じたくない。だけど……!」

 脳裏に蘇る、先ほどの光景。

 ギュッ、とノラリダの唇が噛みしめられた。

「……村の、みんなの仇を取るわ。目の前に仇がいるんですもの、おめおめと引き下がれるわけない!」

 握り締めた拳で中空をブン、と薙ぐ彼女に目を側めると、彼はどこか遠くを見つめながらその鳶色とびいろを揺らした。

「おまえの気持ちは、痛いほどわかる。おれだって……、同じような経験があるからさ。けど、丸腰のままどうするつもりだよ。そんな簡単に倒せる相手じゃないのは、おまえもよく知っているはずだろ」

 淡々と語られる内容に、ノラリダはグッと次の言葉を押し込まれる。

 悔しげに肩を震わす彼女に、彼は静かに告げた。

「――勇気と無謀は違うんだ。それにおれは、おまえを連れて行く義務がある。彼女にそう頼まれたんだ」

「彼女? それ、どういう――っ」

 初耳の単語を訊ねようとしたノラリダの表情が、ハッと固まる。

 向き合っている彼の背後に、突如として舞い上がる黒衣とそれを覆う同色の外套。その中で燦然さんぜんときらめく、一対の翠玉。

「逃がすと思うてか、虫けらども」

「ちいっ」

 振り返りざま腰から引き抜いた剣で、彼が斬りかかる。

 宙に揺蕩たゆとう長い黒髪を何本かあやめた剣刃は、すぐさま縦から横へと軌跡を変えた。

「クククッ。そのような稚拙な剣技で、この俺に挑むつもりか? 身の程をわきまえろ」

 繰り出された斬撃をいとも容易くかわすと、ベルディアースの掌が彼へと突き出される。瞬間、宿る赤光。

「危ない、避けて!」

「エフォード」

 ノラリダの叫びに弾かれたように背中を折り曲げる彼の動きと、ベルディアースの詠唱が重なった。燃えさかる火炎が虚空をなぎ払い、その場を紅蓮に染める。

 間髪容れずノラリダもバッと手をかざすと、彼を援護するため氷の精霊魔法メアイムデリアを放った。出現した巨大な氷塊がエフォードの炎を撃ち貫き、ベルディアースに迫る。黒衣から差し出された指先が氷塊を受け止め、瞬間――パリン。乾いた音と共に、氷の残滓ざんしが舞った。

 夕日を浴び、幾筋ものきらめきが降り注ぐ中、懐に飛び込んだ彼の下段からの一撃、そして流れるような剣閃全てを難なくさばききると、ベルディアースの長身がわずかに飛び退った。その瞳が訝しげな光を灯し、スッと細められる。

「――しかし、面妖な。この剣の動き、どこかで覚えが……。――!」

 ハッとしたようなベルディアースの面立ちが、すぐさま険しさに満ちる。バサリ、と翻される黒の外套。翠の切っ先が横に流され、ノラリダも思わずそちらに目を向ける。鼓膜に響き始める足音に、彼女は拳を握り締めた。

(誰か、来る……! また別の敵……!?)

 身構える彼女の耳に、不安げな声が届けられた。

「――ルク、どこ?」

 鈴を転がしたような声音に、揺さぶられる過去の記憶。剣を交えた直後、差し出された手と戸惑い混じりの微笑が浮かぶ。

(この、声は……っ!)

「あ……」

 現れた闖入者ちんにゅうしゃは、一人の少女だった。

 膝上で切りそろえられた黒いドレスの裾と、みつあみに結った金色が揺れる。

 その場にいる全員の視線を受け止めた黄金の瞳が一望され、見る間に大きさを増した。

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