3.大国アルバオ (1)
活動報告にも記しました通り、ストーリー改変のため、3以降の話を全ていったん削除→内容をちょこちょこ使いまわしつつ、大幅に執筆しなおした内容を再投稿という形に落ち着きました。
読んで頂いていた方々にはご迷惑をおかけして、本当に申しわけありません。が、自分の納得のいく作品でもっともっと楽しんで頂けるよう努力していきますので、変わらぬお付き合いを賜りますよう、よろしくお願い致します。
3.大国アルバオ
大国アルバオ。
国力の高さ、人民の数、そして器の大きい国王達の統制の下築き上げてこられた、長い歴史。総合的に見ても、この世界の中心と言える国家だった。
悠然とそびえ立つ巨大な城を中心に、周りを囲むように六ブロックの城下町が形成されており、商業施設が並ぶ区域、住宅が密集する区域、大きな図書館を有し学問に秀でた区域、と街ごとに様々な特色があった。
その中の第一ブロック“清”のエリア、入り口付近。一帯を青色で統一されたその場所は、侵しがたい神聖な雰囲気と安らぎに包まれており、首をめぐらした先には荘厳華麗な神殿がひっそりと、だが確かな存在感をもって佇んでいた。そこに、吸い込まれるように消えていく黒い衣服を纏った人の流れを目にしながら、セルムは感嘆の声を漏らした。
「すげぇ……! ここが、アルバオかぁ……!!」
ひろがる見慣れない光景に、彼は灰白色の瞳を輝かせてそれらを見つめる。その横で同じような感情を浮かべたミハロスもまた、せわしなく視線をさまよわせ――そして、ふとノラリダで目を留めた。どことなくボンヤリとした彼女に声をかければ、ハッと我に返ったように瞳を瞬かせ、その蒼色を向けてくる。
「あ、ごめん、ミハロス。なに? どうしたの?」
「どうしたの、じゃありませんよ。セルムと僕にとってはここが目的地ですが、貴女はここが出発地点みたいなものなんですよ。そんなにぼうっとしていて大丈夫ですか?」
「あたし、そんなにぼうっとしてた?」
「ええ、まるで心あらずといった具合でしたよ」
ミハロスのよどみない答えに、ノラリダは憮然としてため息をついた。
そんな彼女に、ミハロスは口角を緩める。
「何を考えていたんです?」
「――別に、何も」
「男性に優しくされて、舞い上がってしまいましたか?」
「……なっ」
予想外の質問に、ノラリダの左右の頬がボッと火のつく勢いで真っ赤に染まる。
口をパクパクと開閉させながら人差し指を向けてくる彼女を尻目に、訳知り顔でミハロスが何度も首を縦に振った。
「村には、あんなに素直な男性はいませんからねえ。慣れないことをされて、戸惑う中にも嬉しさがこみあげたというところでしょうか? やはり貴女も、根本的には女――むぐっ」
「いいかげん黙んなさいよっ、あんた!」
掌底を打ち込むように、ノラリダはミハロスの口を塞ぐ。
オーキッドの瞳が一瞬だけ揺らぎ、ミハロスは小さく自嘲めいた笑みを刻むと、彼女の戒めを解いた。
「そんなに怒らないでくださいよ。そういう態度をとられると余計……いえ、何でもありません。とりあえず、今夜はここで――セルム?」
もう一人の少年の視線が、ある一点に注がれたまま釘付けにされていることに気づき、つられてミハロスも彼と同じ方向へと目をやり、そのまま意識を奪われたように固まる。
どうしたの、と尋ねる前に彼女の蒼玉にもその光景が飛び込んできた。
金糸で縁取られた赤い絨毯の上を、きらびやかな一団が静々と通り過ぎていく。その中に、瑠璃紺色を高々と結い上げ、淡いベビーブルーのドレスに身を包んだ、華やかな少女の姿があった。
嬉々とした面立ちに薄らと頬を染め、その双眸は猫のように鋭く、高慢そうな色を滲ませていた。格式高い一つ一つの動作、全てが相まって高貴な印象を受ける。
「お姫、様……?」
セルムの呟きが、その場にいる全員の耳を掠めた。
イシュルの村から、数えるほどしか外の世界に触れたことのない三人。
噂と人伝にしか――それこそ、御伽噺の住人だと思い込んでいた、架空の人物が目の前に存在していて、しかも歩いている。衝撃的、だった。
きらびやかな一行が、神殿の中へと消えていく様子を最後まで見送ってから、三人は、誰からともなく顔を見合わせた。
「あれが王族、てやつか? すげぇ! 初めて生で見たぜ」
「ええ。綺麗な女性……、でしたね」
「話で聞くのと全然違ったわ。もっと穏やかでこう――、包容力のある感じだと思っていたんだけど」
「そうか?」
「そうですか?」
少年二人の素っ気無い反応に、ノラリダは吐息をついた。
そびえ立つ巨大な城を視界にとらえながら、先ほどの光景を呼び起こす。
(それにしても、立派なお城だわ。さっきの王女様が住んでいるってこと? え、でもアルバオには王子様が一人ってあいつが……)
物思いに耽ろうとした、その瞬間。
ドンッ! 横からの突然の衝撃に、ノラリダはグラリとバランスを崩した。