6.太陽の祈り死神の願い (4)
※R15(?)らしい表現が含まれていますので、
苦手な方は、適当に斜め読みでよろしくお願いします。
触れるだけの口付けが、徐々に深く激しいものへと変わる。
交わる角度が傾き、その隙間を縫うようにお互いを欲する証が、スゼルナの顎を、喉を伝い落ちていく。
描かれた透明な轍にベルディアースの口唇が寄せられ、その瞳が自ずと映しこむ、白磁に刻まれたままの蹂躙の跡。
スッと不機嫌さを醸し出す彼に、黒衣を掴む彼女の指先がピクと反応を示し、沸き起こる熱に潤み始めていた表情が逸らされる。
「ディアルク……」
呟いた声音は、微かに震えを帯びていた。
瞬間、疾る鋭い痛みに引き戻された彼女の視界を、濡れ羽の色が埋め尽くす。覆い被さるように身を沈めてくる彼を受け止めきれず、彼女の背が柱の根元に凭れかかった。
「あ……っ」
波打つ華奢な身体に次々と刻まれる、紅の花弁。肌に残されていた痕跡を拭い去るように一つ一つ的確に舞い散らされていくそれらに、困惑を浮かべていた黄金の瞳が次第に翻弄され始め、伸ばされた両の腕がギュッと彼にしがみ付く。
チラ、と一瞥される翠の瞳に労わるような微かな光を見止め、スゼルナから微笑が漏れる。金糸が、ゆっくりと縦に振られた。
先ほどの一方的なものとは違う、充足感にも似た温かさ――。それに包まれ、スゼルナは瞳を閉じた。
「――あなたを感じる。こんなに近くで、こんなに傍で、あなたに触れて繋がっている……」
幸せだよ、縋りつくように耳元で告げられた言の葉。
そんな彼女を強く抱き寄せた彼から漏れ落ちたのは、擦れた一言だった。
――俺の傍にいろ、永久に。
薄れいく朦朧とした意識の中でスゼルナは優美に輝く翠玉を捉えると、小さく笑みを浮かべながら首を縦にそっと動かした。
「……ねえ、ディアルク」
「なんだ?」
「ちょっと教えて欲しいんだけど、昨日の誕生日で何歳になったの?」
全てを脱力させ、微睡んでいた腕の中でスゼルナは身じろぎしながら、思いついたように視線を上向かせた。
不思議そうに見上げてくる黄金の眼差しに、ベルディアースは訝しげに眉根を寄せる。
「――何故、そのようなことを訊く?」
「別に、深い意味はないよ。私、あなたの年齢って聴いたことなかったし、せっかくだから今までの分もお祝いしてあげられたらなぁって、ふとそう思っただけだから」
「ほお――、おまえの目には、どのくらいに映る?」
ベルディアースの問いかけに、スゼルナはう~んと小首を傾げた。
艶のある黒髪がサラリと揺れ、翠の双眸が彼女を見据えながら細められる。
そんな彼をジッと凝視していた彼女の金色の髪が、コク、と首肯された。
「見た目だけだと、20歳くらいかな。でも、神様って見た目と年齢が比例しないらしいし……。上乗せして、80歳とか? ふふっ。そうなると、年齢的には私のおじいちゃんだね」
楽しそうに肩を弾ませるスゼルナに、ベルディアースはフッと息を漏らした。
「80、か……。随分と幼く見られたものだな」
「え……?」
「正確に覚えているわけではないが――その10倍は優に超えていると思っておけ」
「ええっ」
驚愕に、黄金の瞳がこれ以上ないほどにまで見開かれた。
(10倍? 80歳の10倍って――800歳!? え、でもそれ以上ってことは――ええっ!?)
おじいちゃんのおじいちゃんの、そのまたおじいちゃんの――と、あまりの衝撃に固まるスゼルナの頤を、しなやかな指先が絡めとった。
一気に近づく距離に、硬直したままのトパーズと不敵に輝くエメラルドが交差する。
「さあ、今までの分を祝ってくれるのであろう?」
「え、あれはその、言葉のあやってやつで……っ」
「クククッ、1歳を1回と数えると――さて、何回分になるのやら?」
困惑に揺れる黄玉の中で、凄艶な笑みが満面に描かれた。
その美しい口唇が、ユルリと開かれる。
「――全て終えるまでは、逃さぬ」
「ま、待って……! そんな、さすがに無理……、んんっ」
制止に伸ばされたスゼルナの手首は捕らえられ、制止に開かれた口はすぐに塞がれ、解放された途端その場からは艶めいた囀りだけが奏でられ始める。
残り998回。恋人たちの甘い夜は、未だその帳が下りたばかり――。
998回とか。どんだけやねん(笑)
【Episode.1】これにて終幕となります。
ここまでご覧頂き、本当にありがとうございました。
次回からようやく第二幕が開幕となります。またお付き合い頂ければ、嬉しい限りです。
2011/2/10 鈴華・拝