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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
44/87

6.太陽の祈り死神の願い (2) ※

※R15(?)らしいダークな表現が含まれていますので、

苦手な方は、適当に斜め読みでよろしくお願いします。

「……放せ」

 発せられた抑揚のない低音に、スゼルナの身体が小さく跳ねた。

 無言で纏わりつく負のオーラに身を縮めるが、その両の手は彼を捉えたまま、何度も首が横へと振られる。

 翠の眼差しが、苛立ちに鋭さを帯びた。

「放せ、と言っている」

 応える代わりに彼女の腕に力が籠められ、衣越しに感じる熱が否応にも増した。後方へと視線を流し、ベルディアースは端に捉えた金糸へ吐き捨てるように継ぐ。

「解らぬのか? おまえに触れられるなど……、不愉快にすぎぬ」

「……!」

 トパーズの瞳が見開かれ、大きな波紋が浮かんだ。

 次第にそれが、悲痛な色へと変貌する。

「――何故、俺を追ってきた?」

「このままだと、あなたを失ってしまう。そう、思ったから……」

「失う、だと? おまえに、俺を留める権利があるとでも? フン、この俺に働いた不義――忘れたとは言わせぬぞ」

「あれは――私の意志じゃ、ないよ……!」

 記憶の淵から鎌首をもたげるように蘇る悪夢に、スゼルナは全身を強張らせた。

 肌という肌が嫌悪に粟立ち、次の台詞を喉の奥へと封じ込める。カクカク、と彼女の膝が揺れ始めた。

 細かい振動が背中越しに伝わり、ベルディアースはギリッと奥歯を噛みしめた。

「ほお? おまえがあの低俗な輩を引きつれ、あの場へ赴いたと聴いたが?」

「違う……、違うの……」

 懸命に否定を示す感触を受けながら、ベルディアースの拳がきつく握り締められた。

「何が違うと言うのだ? 下衆どもに囲まれ、あのような……っ!!」

 脳裏を掠める、彼女の露になった両肩、胸元、両の脚、そして――。

 爆発しそうになる何かを呼吸一つで押さえ込むと、ベルディアースは面から全ての感情を削ぎ落とす。

 彼女を跳ね除けるように、彼の右手が一閃された。

「放せ」

「……っ。ごめん、なさい……っ」

 再び耳を撃った冷たいその一言と一蹴の行為に、スゼルナは震える唇を引き結ぶと、今にも溢れそうな黄金色を必死に堪えながら、緩々と彼から身を離した。

「…………」

 遠のいていく温もりに、彼の翠目が閉じられる。

 彼女の拒絶、砕けた花、食い違う情報、鎖の拘束、先刻の断末魔の宴。描いたパズルを完成させるには、まだピースが足りない。

 再び浮かぶあの時の彼女に、彼の冷静さが一気に失われていく。スッと灯された眼光に、燻り始める情炎。

 一歩、二歩、と後退していく彼女の微かな足音――瞬間。闇夜が舞い、黒円が宙に描かれた。

「ディ……っ、んぅ……!」

 振り向き、伸ばされたベルディアースの指先がスゼルナを手繰り寄せ、驚きに薄く開かれた紅唇が同じ柔らかさに強引に塞がれる。

 噛みつくような激しいそれに、彼女の瞳が切なげに揺れた。

 思わず顔を逸らし彼の接吻から逃れると、くらい感情に濁る翠目を黄金の双眸が捉えた。

「止め、て……。お願い、お願いだから、今は……っ」

「この唇で、強請ねだったのか?」

「な、にを……んっ」

 後ろ髪に爪を立てられ、引き寄せられた先で再び言葉を遮られる。

 首を捩ろうにも金糸に巻きついた五本の指が、強力にそれを阻む。

 一方的に攻められ、蹂躙され、霞む声も吐息も唾液も貪りつくされる。

「……ふっん……! ……っ、ぅん……うぅ、うっ……ん、んん……っ!!」

 二つの重なり合った唇の間を縫うように、幾筋もの銀糸が後を引いては滴り落ちていく。

 襲う息苦しさにスゼルナの眉が寄せられ、苦悶を滲ませた表情が蒼白になりかけた頃、突然に解放される。

 喉に充満する空気に過敏な反応が起き、激しく咽る彼女の髪から耳元、そして頬をベルディアースの爪が辿り、彼女を包む布地越しに二つの膨らみの片方を鷲掴む。

 か細い悲鳴が彼の聴覚を刺激した瞬間、翠目が憎悪に揺れ、口元には酷薄な笑みが浮かぶ。

「この声で、啼いたのか?」

「そん、な……っや、駄目……!」

 愕然とする彼女の前で、纏っていたドレスの切れ端たちが取り払われ、虚空を滑るように舞った。

 必死に胸元を覆う彼女の手首を力任せに攫い、晒された白磁に刻まれていたのは無数の痕。捉えた眼光が、険しさに満ちる。

 ひやりとした外気に触れ、無意識にピクンと反応を示す彼女に、彼の美しい面が凄艶に歪んだ。

「ディアルク……、お願い。これ以上は、もう……!」

 何度も否定に首を振りながら、後退するスゼルナ。激昂を露にしながら動きを止めない彼に、トパーズの潤みが増す。

 トン……。むき出しの背中に当たる、冷たい石柱。鎖される、逃げ道。

 それを待っていたかのように両足を抱えられ、申しわけ程度に残されていたドレスの残骸が落下する。

 全てをベルディアースの目に晒され、決壊を起こした透明な輝石たちがスゼルナの頬を伝い流れていく。

 黒の外套がバサリ、と後ろに流され、彼女の瞳が大きく見開かれた。

 力なく揺れていた細い両の爪先が、強張る。

「ま、待って……っ私、私……っ」

 伸ばされた両手が、背後の石柱に押し付けられた金糸が、ポロポロと涙を溢れさせる黄玉が、彼女の全てが何度も懇願を繰り返す。

 その拒む態度が彼の情欲を逆撫でし、翠目が冷徹な光を、口唇が冷笑を刻む。

「この身体で、この表情で――誘ったのか……!」

 瞬間、全身を突き破るような熱い奔流に、スゼルナの唇から擦れた悲鳴が上がった。

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