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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
42/87

5.全てに決着を (4)

 肩にかかるかかからないかの位置でサラサラと揺れる、翠の髪。

 肌にピッタリとした黒のボディスーツが浮かび上がらせる、豊満な身体の輪郭。

 目を見張るほどに蠱惑的で艶やかな美女は、知的に光る切れ長の翠の双眸でラミルベイアを一瞥しながらスゼルナの傍まで近寄ると、ゆっくりと足を止めた。

「勝敗は決したはずだ、ラミルベイア。見苦しいぞ」

「お前は……! またしても、わらわの邪魔をするつもりか……!?」

「邪魔? 私はただ、あの御方の命を実行したまでだ」

 翠目が流され、背後のスゼルナを捉える。

 あまりにもよく似たその煌きに、黄金の瞳が戸惑いを浮かべた。

「申しわけありません、邪王妃様。駆けつけるのが、遅くなりました」

「ホントホント、どうしてそんなに遅れちゃったんだかね~」

「……ロンディス」

 スゼルナへと伏せていた翠目が、剣呑さを帯びながら睥睨される。

 その先には、ニヤニヤと愉悦を灯した下賎な歪み。ヒョロッとした体躯の男が、韓紅の髪をバサバサかきむしりながら歩み寄る姿。

 ロンディス、と呼ばれた男はピュ~と茶化すように口笛を鳴らした。

「これはこれは、随分と心躍る眺めじゃねえの。ハハハッ、オレ様も混ぜて欲しかったぜ~」

「玩弄の道化、お前も妾の邪魔をするつもり?」

 ラミルベイアの問いに、ロンディスはケラケラと笑みながら、右の掌をヒラヒラと上下させた。

「別にそんな気は毛頭ねえケド? オレは、暴君に言いように扱われまくりの、ただの憐れな通りすがりだっつーの。ああ、でもちょうどいいぜ、別殿に行く手間が省けら。人形の代わりに、アンタが東方殲滅に付き合ってくんない?」

「なぜ妾が、お前などと一緒に」

 睨み付けるマゼンタの瞳の中で、ロンディスの顔が俄かに広がる。

 下からラミルベイアを覗き込むようにしながら、彼のボルドーの瞳が冷酷さを纏う。

「――さっきの地震、アンタも感じたよな? あの強大無比な魔力の波動――あの方、かなりのお冠だと思うわけ。そっちのお嬢ちゃんの様子を見れば、コトを荒立てたの、アンタだろ~? ちっとは、ご機嫌取りをするのが筋ってもんじゃねえ? とばっちりを受けた、こっちの身にもなれっての」

「ハッ、妾を脅すなんて筋違いでしょう? あの方は、妾をこそ愛してくださっていると言うのに」

 ジロリ、と射抜くような眼光で見下ろしながら、ラミルベイアは鼻にかけた表情で唇を緩める。

 それに、あん? と拍子抜けした声を漏らすロンディス。それが見る間に、爆発するような哄笑へと変貌した。

「愛、だあ? ハハハハハッ、マジでそれ言ってんのかよっ! どんだけメデタイ思考してんの、アンタ!」

「なんですって……?」

 ラミルベイアの表情が、スッと険しさを滲ませていく。

 ヒィヒィ、肩で息をしながら目許を拭い、彼は軽い調子で続けた。

「じゃあさ、とっととあの方のところに行って、お怒りを鎮めて貰ってくんない? オレの経験上、一度ああなっちまった主殿あるじどのは、そう簡単に収まるほどヤワな方じゃないんでね。ま~た職務に穴空けられちまう」

「……!」

「愛されている自信があるなら、殺される心配もねえだろうし? それくらい出来て当然だろ? まあ、それにしちゃ、今の今までアンタがあの方を抑えられたっつー話は一度も聴いたことねえけどな」

 嘲るように両肩を揺らしながら、ロンディスは後頭部で手を組んだ。

 よっと、掛け声と共に上体をそらし伸びをすると、コキコキと首を鳴らす。

「さて、無駄話はこれくらいにしてっと。早く仕事を終わらせねえと、オレも誰かさんたちの二の舞になっちまう。あ~ヤダヤダ」

 そうぼやきながら、エントランスの方へと歩み去る韓紅の髪。

 ちっ、微かな舌打ちが漏らされ、ラミルベイアのマゼンタの瞳がスゼルナを捉える。それに気づいた黄玉が小さな驚きを見せ、真摯に輝く。

 一頻り憎悪を浴びせた後、ラミルベイアのアッシュグレイの髪が翻り、彼女の背がスッと消え失せた。

 急に包まれた静寂にスゼルナは緊張の糸を解くと、翠髪の女へと視線を向けた。と、美しい一対の翠石と交差し、ドクン、と鼓動が跳ね上がる。

「あの……、あなたは? あの人の近くで、何度か見かけた覚えがあるんですけど……」

「申し遅れました。私は、ミレスト。邪王神陛下の傍仕えをさせて頂いております。以後、お見知り置きを」

 流れるような動作で膝を折り、深々と頭を垂れるミレスト。

 その前でスゼルナも慌てて腰を落とすと、顔を上げるミレストへニコッと微笑んだ。

「さっきは助けてくれて、ありがとうございました。私は、スゼルナ。こちらこそ、よろしくお願いします、ミレストさん」

 無邪気なスゼルナの面に魅入られるようにジッと見つめていたミレストは、ハッと表情を引き締め、淡々とした口調で請願する。

「――私のことはミレストとお呼びください、邪王妃様」

「えっ? えっと……」

 ミレストの強い眼差しに、スゼルナは困惑しながら目を二度、三度と瞬かせると、苦笑を浮かべ静かに頷いた。

「じゃあ、ミレスト――も私のこと、名前で呼んで欲しいな。邪王妃様、なんて、よそよそしいよ」

「そんなご不敬は、出来かね――」

「いいから!」

 スゼルナの鋭い制止が飛び、残りの台詞を詰まらせるミレスト。そんな彼女を、期待に光るトパーズが穏やかに照らす。

 視線を逸らし、ミレストは諦めを多分に含んだ吐息をついた。逡巡しながら、ようやくその名を口にする。

「ス、スゼルナ――様」

「ぷっ。何それ。呼び捨てで構わないのに」

 弾けるように笑みを零すスゼルナにつられるように、ミレストもその口元を微かに緩めた。

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