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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
41/87

5.全てに決着を (3)

 その時。

 ズズゥン――巨大な鳴動が城全体を包み、床が、天井が、壁が、全てが激しく揺さぶられる。

「なに……っ!?」

 驚愕にマゼンタの瞳を最大限にまで見開きながら、ラミルベイアの鞭の軌道がずれを起こす。

 それを好機とばかりに、スゼルナが駆け出した。

 チッ、舌打ちと共に横薙ぎされた一撃が、屈んだ弾みで取り残された金のみつあみを捉え、切り飛ばされた先端が虚空を泳ぐ。ハラリ、と白磁の輪郭が金糸に覆われ、すぐさまスゼルナの速度に合わせて踊り始める。

「はぁあああ!!」

 裂帛の気合が逆巻き、タンッ軽やかな音がラミルベイアの懐に踏み込む。

 描かれる、蹴りの一閃。勢いを乗せたそれの直撃を受け、アッシュグレイの髪が吹き飛ばされた。

 キッ、鋭くなったマゼンタの眼差しに更なる憎悪の炎がくゆり、両膝を曲げ床を擦りながら衝撃を緩和させると、スッと立ち上がる。

「忌々しい、小娘が……っ!!」

 憤りに任せた鞭が床でしなり、痛烈な音を響かせた。

 鞭の持ち手をグッと握り、ラミルベイアは、今にも軋み音を発しそうなほどに歯噛みを繰り返す。

「邪王神様も、何故このような下賎な小娘などに寵愛を……! 御自身の品格を下げるだけだと、名誉を貶めるだけだと、なぜお気づきにならないの!?」

 その吐き捨てるような内容に、スゼルナの瞳に一瞬愕然とした光が覗く。

 表情を引き締めながら、彼女は真摯な眼差しをラミルベイアへ向けた。

「……あなたは、あの人のことが好きなんだよね? あの人を独占したい、そう思うほどに強く――」

 抑えられた、静かな声が放たれる。

 ピクリ、ラミルベイアの眉が微かに跳ね上がった。

「ねえ、一つだけ訊かせて。あなたは、あの人のどこに惹かれたの?」

「知れたことを。他を圧倒する凄艶な美貌、完膚なきまでに屈服させる類稀な魔力、取り込まれたら最後、魅了され虜となる蠱惑的なカリスマ性。そして、常に自信に満ち溢れた尊厳さ――全てに決まっているわ」

 流れるように語るラミルベイアに、スゼルナは小さく自嘲めいた笑みを浮かべた。

 彼女の脳裏にくっきりと描かれた美しい翠玉には――どこか冷めた、達観したような翳り。

「そっか……。なら、私は負けるわけにはいかない。あの人を――あなたになんか渡しはしない!」

「つくづく生意気な小娘だこと……! そのよく回る口から、八つ裂きにしてあげるわ!」

 ラミルベイアの足が、床を蹴る。

 同時に彼女の腕が上下し、縦に描かれた弧がスゼルナを襲う。

 軽くステップを踏みながらそれを避けると、スゼルナは射程範囲に飛び込み、足を一閃させる。手応えのなさに、続けて更に一歩踏み出してからの蹴撃は、スゼルナの足先に衣の感触を齎しただけ。

 距離を取ったラミルベイアから、愉悦の哄笑が漏れ落ちた。

「そんな甘ったるい攻撃を何度繰り出そうが、神である妾の身体には無意味。つまり、お前に勝ち目はこれっぽっちもないということ。まだわからないなんて、その頭はやはりお飾りのようね!」

「くぅっ」

 突き出された一撃が、スゼルナの頬に紅線をはしらせる。

 思わず片目を瞑り、反射的に膝のバネで後方に跳び退ると、着地した拍子に今まで忘却の彼方に追いやっていた激痛が蘇り、彼女はキュッと唇を噛みしめた。

(このままじゃ、駄目だ……。武器……せめて、剣さえあれば……!)

 胸元で、強く強く握られる拳。

 と、フワリ――何か温かいものが、スゼルナを包む。その発生源を指先が辿り、取り出したものは『勇気の出るおまじない』。

「これは――サマンサさんから貰った、薔薇の花……?」

 瞬間、紅の花弁が光と共に舞い散った。

 スゼルナが目を見張る中、彼女の手の中でその姿が変形していく――掌に残された感触は、硬質のもの。

 剣、と驚きに擦れた声が呟く。長剣と呼ぶには短い、鞘に収められた剣刃は彼女の手首から肘までの長さほど。

 ゆっくりと鞘を滑らせれば、磨きぬかれた剣身に驚愕の表情を浮かべたラミルベイアが映る。

「どこに、そんなものを……! くっ、武器を手にしたからといって、お前の不利は――なにっ!?」

 マゼンタの瞳が、最大限に見開かれた。

 その中で、一陣の黄金の風が吹き抜け、押されるようにラミルベイアが身を退く――刹那、鮮血が舞った。

 裂傷に疼き出す肩を掴み、ラミルベイアは崩れ落ちるように片膝をつく。

「馬鹿な……、なぜ、妾の肉体に傷を……!」

 怒りに満ちた双眸が、突きつけられた剣の切っ先を睨みつける。

「私の勝ち、だよね? その怪我じゃ、もう鞭は振るえないだろうから――早く、治療をして貰った方がいいと思う」

 静かに見下ろしていたスゼルナは、スッと刃を引き鞘に戻すと、手の中の存在を凝視した。

 まるで、彼女のためにあつらえられたかのような、馴染む感覚。それに心を奪われていると、不意にザワリ、と周囲の空気が変化する。

「小娘がぁ!! いい気になるんじゃない!!」

 激昂の叫びが、辺りを劈いた。

 ハッと我に返ったスゼルナの眼前で、凄まじい形相のラミルベイアが踊りかかってくる。

 身構え、瞳を険しくするスゼルナ。その手が、剣柄を握る――が、ラミルベイアのなりふり構わないその攻撃が、彼女に届くことはなかった。

 突如として二人の間を覆う、緑の薄い膜。それに阻まれるように、アッシュグレイの髪が後方に弾き飛ばされる。

 呆然とするスゼルナの耳に、規則正しく奏でられる靴の音。金糸が揺れ、黄金の瞳が廻らされる。

「あなたは……!」

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