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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
40/87

5.全てに決着を (2)

 果てしないほどに長く続いた階段をようやく上り終え、スゼルナは膝に手を当て前かがみになりながら、荒いままの息をゆっくりと鎮めていく。

 一度大きく吐き出すと、しっとりと汗ばんだ額を手の甲で拭い、再び駆け出す。

 無残に暴かれたせいで本来の機能を失い、肩からずり落ちてくるドレスをかきあわせ胸元で縛る。懸命に走る彼女に訴えられるのは、ズキズキとした足先の痛み。

 点々と紅を刻みながら、素足にヒンヤリと冷たい黒曜石の床の上をただひたすらに移動する。

(ディアルク……、ディアルク……!)

 脳裏を支配するのは、先ほどの彼。冷酷に見下ろされた、鋭利な翠の切っ先――その中に滲んだ憤怒と蔑むような色。

 キュッと唇を固く引き結び、右に左に黄金の瞳を彷徨わせながら、彼の黒衣を探し求める。

 中央殿の入り口へと通じる広いホールに足を踏み入れ、その中央で立ち止まるとグルリと視線を廻らす。

 が、目的の黒衣を捉えることが出来ず、スゼルナの瞳が落胆に翳った。

「どこに行っちゃったんだろう……、謁見の間の方かな?」

 ハア、胸に溜まったものを宙に流し、スゼルナは呼吸を整えると再度足に力を籠めた、その刹那。

「……あら」

 耳を掠める、女の声。

 それに弾かれたように、金の双眸が振り向いた。見る間に、スゼルナの表情が驚きに満ちる。

「あなたは……!」

「闇の8神が一人、微睡を司る女神ラミルベイア。それが、わらわを表す称号」

 規則的に響く靴の音と共に束ねられたアッシュグレイの髪が揺れ、ラミルベイアが間近に迫る。

 一歩二歩、と後退しながら、スゼルナは自分を護るように腕を組んだ。そんな彼女を嘲るように、ラミルベイアの唇が艶やかな弧を刻み、その瞳が彼女の全身をゆっくりと這い回る。

「――絶望した顔と無様ななりを観察するためにわざわざ出向いたのに、これぽっちとはね。せっかく素敵な宴にご招待して差し上げたのに――どちらが無能だったのかしら?」

「その、口ぶり……! やっぱり、あれはあなたが仕組んだことだったのね? あんな、酷いことを……っ」

 不意に襲う全身の嫌悪感に怯みそうになり、回した腕に力を籠めながら、スゼルナは眼差しを鋭くした。

 それを馬鹿にしたように吊り上げられた口角が、酷いこと? と鸚鵡返しに呟く。

「アハハ、おぞましいけだものどもに囲まれて、がっていたんじゃなくて? ――その光景をあの方に見られて、さぞや興奮したことでしょう?」

「な……っ」

「別に、驚くことじゃないわ。あの方がお前を探していらっしゃったから、教えて差し上げただけよ? 『見知らぬ男を何人も引き連れて、それはそれは楽しそうなご様子で牢獄の方へ下りて行かれるのを、見かけましたわ』と」

 ラミルベイアの軽い口調に、スゼルナの面が蒼白になっていく。

 そんな彼女を捉え、楽しげにクスクスと笑みを零しながら、話が継がれる。

「むしろ、妾に感謝して欲しいくらいだわ。あんな刺激的で最高の体験、そうそう出来るものじゃないでしょう? アハハハハハ。最も、お前に感謝されるなんて不愉快極まりないけれど」

 背中を撓ませながら高笑いをあげるラミルベイアに、スゼルナは困惑を瞳に滲ませ、ふるふると首を振った。

「どうして、そんな嘘までつくの? どうして、そこまで……」

「どうして? ハッ、笑わせるんじゃないわよ!」

 鼻をならしたラミルベイアのマゼンタの瞳が憎悪に塗れ、スゼルナを睨めつける。

「矮小な人間風情が、突然ノコノコ現れたかと思えば、あの方の妃ですって……? 冗談じゃないわ! あの方は、妾のもの……、あの方の美しい翠石エメラルドの瞳には、妾だけが映されていればそれでいいのよ!!」

 瞬間。ヒュン、風を切る音がスゼルナの耳を掠める。

 ハッと表情を強張らせ、金色のみつあみが大きく上下に跳ねた。

 反らせた頭上を、鞭の一撃が薙ぎ払っていく。それを見上げた視界に捉えながら、スゼルナの右足が崩れた体勢を支えるため後方で力を籠めた。

「く……ぅっ」

 はしる激痛に、ガクリとスゼルナの膝が折れる。

 思わず手を伸ばせば、ヌルリとした感触。それを頭の隅に感じながら、彼女の細身が再び見舞われた攻撃をかいくぐり、横に転がる。

 それを追うように、何度も打ち付けられる鞭。その先端が床を抉り、大小様々な跡を穿っていく。

 ピシィ、鋭い音に鼓膜を刺激されながら、スゼルナは両手を床につき素早く起き上がると、疼痛をグッと押し殺し、間合いを一気に狭め紅に染まった足を軸に回し蹴りを放つ。

 それにアッシュグレイの髪を揺らされ、ラミルベイアは冷笑すると、肩にかかったそれをバサッと払いのける。

「こんな生温い攻撃、誰が喰らうものですか」

 お返しとばかりに叩きつけられたラミルベイアの鞭が、スゼルナの足を掠め、残りを受けとめた黒曜石の床にと破壊の痕跡を描いた。

 衝撃に弾け飛んだ小さな瓦礫が、スゼルナの頬に紅の轍を刻み、その動きを止める。それに気づいたマゼンタの瞳が、愉悦を湛え残虐に煌いた。

「これでお仕舞いよ!!」

 一際うなりをあげ、しならせた鞭が宙を裂く。

 烈風のように舞い迫るそれに、スゼルナは両腕を顔の前で交差させると、身を固くした。

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