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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
38/87

4.囚われの太陽 (3) ※

※R15(?)らしいダークな表現が含まれていますので、

苦手な方は、適当に斜め読みでよろしくお願いします。

 くぐもった声が、否応なしに漏れ落ちる。

「……っ」

 三人の男たちに圧し掛かられ、身動きの取れない細身が僅かに跳ねた。

 “彼”から与えられるそれとは違う、気持ちの悪い刺激。それでも反応を示してしまった自身を戒めるために、スゼルナは下唇に思いっきり歯を立てた。渇いた中にじわり、と広がる錆びた味。

「おやおや、そんなに噛みしめては、せっかくの可愛い啼き声が台無しというもの」

 両腕を拘束している男が彼女の肌から顔を上げ、黄金の瞳に嘲るような笑みを浮かべた。拘束を片手に任せ、空いた指で彼女の頤を持ち上げると、きつく噤まれた紅の割れ目をなぞる。

 顔を近づけてくる男から、首を背け必死に抵抗を示していた彼女は、瞬間、手首にかかる上からの更なる圧力に眉根を寄せた。反射的に開かれた紅唇に、男のそれが強引に押し付けられる。侵入者が、彼女の歯列を割り内へと荒々しく踏み込んだ。

「ぅ……っ、うっ、っ……」

 圧迫され痺れを訴えてくる手首、強引に絡みつかれる嫌悪感と息苦しさに、薄らと透明な膜がトパーズの瞳に滲み出す。

 塞がれた唇の端から呻きのような吐息が零れる様を、一人離れた所から眺めていた男の眼光がスッと変貌した。

「さあ、共に楽しもうじゃないか」

 次に起こるだろう絶望の瞬間に、スゼルナは固く目を瞑った。

(ディアルク……っ)

 ――と。不意に、全ての動きが止められた。

 掴まれていたはずの両腕がストンと床に落ち、後方へ寄りかかっていたはずの彼女の身体が、均衡を失い傾く。

 解放された手で自身を支えながら、恐る恐る芽吹いた黄玉に侵蝕したのは、何よりも深い闇の色。

 その色を中心に、紅を織り交ぜながら黒い風が巻き起こった。それに煽られ暴れ狂う金糸を押さえつけながら、スゼルナは再び目を閉じる。

「下衆どもが……!」

 怒りに塗れ、吐き捨てられた低音が耳を撃った、刹那。

 パンッ。木霊したのは、乾いた大きな破裂音。

 俄かに落ちた静寂に、スゼルナは戸惑いながらゆっくりと瞼を上げた。

 まず黒衣が映り、徐々に視線を上向かせていくに従い、見慣れたそれらに彼女の瞳が再び潤みを帯びていく。

 濡れ羽色の長髪、すんなりとした顎、通った鼻筋、そして――。

 求めていた翠の瞳に遭遇し安堵を感じた矢先、スゼルナは滲ませていた目を愕然と見開いた。

「ディア、ルク……」

「――どういうことだ?」

 見下ろす翠の眼光は、いつにも増して鋭利な切っ先と化していた。

 それに射竦められるように萎縮しながら、スゼルナは彼に背を向けると、震える指で肌蹴られていた衣類を整えていく。

「私にもよく、わからなくて……。その、気づいたらこんなことに……」

「ほお……。おまえの意志ではない、と? ならば、誰の差し金だったと言うのだ」

「そ、それは……!」

 慌てたように、スゼルナが振り向いた。

 感情を削ぎ落とした氷の美貌が、冷たく彼女を見下ろす。

 『最高に愉しい地獄へ、蹴落としてあげるわ……!』――浮かんだのは、アッシュグレイの髪にマゼンタの瞳、挑発的な口元にそう台詞を乗せた女。

(状況的には彼女しか考えられないけど、彼女が犯人だという証拠は何もない……。もし、間違っていたら――)

 無言のまま項垂れる彼女、その足首から伸びた鎖へと順に翠の目が動き、最後に小さな舌打ちが漏らされた。

 険しくなるベルディアースの相貌に僅かながら翳りが差し、細められた翠玉がフイッと逸らされる。

「――もうよい。興が醒めた」

 ハッと我に返ったスゼルナの前で、黒衣が翻った。

 カツカツカツ、と遠ざかっていくベルディアースの背に、彼女は擦れた声で名を呼びかける。

「待って、待って……!」

 力が抜けたままの全身を引き摺るように立ち上がると、スゼルナはベルディアースを追い、一歩二歩と踏み出す。が、無意識に竦む両足にもつれ、ガクリと膝が折れた。

「しっかりして、私の身体……!」

 途端、刻まれた痕跡たちが、味わった嫌悪と恐怖を一斉に訴えてくる。

 それらにギュッと腕を回し必死に押し留めると、未だ縛められたままの足を枷から懸命に引き抜く。

「……くっ」

 はしる、鈍い痛み。

 滴る赤い雫を点々と残しながら、スゼルナは人影すら消え去った牢獄を、やっとの思いで抜け出した。

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