4.囚われの太陽 (2) ※
※R15(?)らしい表現が含まれていますので、
苦手な方は、適当に斜め読みでよろしくお願いします。
「最高のもてなし――とのことだったが、どうやらこの娘一人が我々四人のお相手をしてくれるらしい」
「まだ青臭そうな小娘ではないか。よもや、こんな慣れてなさそうな女を宛がわれるとは、思いもしなかったぞ」
「いやいや、従兄弟殿。その『慣れてなさそうな雰囲気』というのが、大事なのではありませんか」
「全く全く。その初そうな風が、非常にそそられるというもの」
「一見すればこのようななりをしているが、いざコトが始まれば娼婦の如く――という可能性もあるのでは? なあ、各々方」
全員の色づいた眼差しが、一点に集中する。
受け止めた細身がおびえたようにビクリ、と戦慄き、見上げた状態のまま、トパーズの瞳を揺らす。
(この人たちは、何を言っているの……?)
楽しませてくれよ、そう口にしながら一人の男が上着を脱ぎ捨て、近づいてくる。
男のにやついた表情に、伸ばされた指先に、スゼルナの全身に恐怖が疾った瞬間。
彼女の自由の利く足が、宙を凪いだ。防衛本能を刺激され、反射的に放たれたその一撃は、迫った男の顎先に命中し、標的を吹き飛ばす。
「この女……!」
続く床を滑るような蹴撃が、憤慨し襲い掛かってきた二人の足元を払う。もんどりうって倒れる彼らの間を抜け、次の一人の懐にスゼルナが飛び込んだ、刹那。
「させるか!」
ジャラリ、一際甲高い音を奏でる鎖。
軸となっていた脚の枷が引かれ、スゼルナのバランスが俄かに崩れる。小さく驚きの息を吐き、隙を覗かせた彼女を目の前の男が力任せに掴んだ。
流れるように横に押し倒され、衝撃を受けた背中に息が詰まり苦悶を浮かべる彼女に、組み敷いた男から愉悦の嘲笑が漏れ落ちた。
「なかなか、調教のしがいがありそうな小娘だ。どの辺が『最高のもてなし』なのか、甚だ疑問ではあるな」
「……あなたたちは、誰? 私に何の用ですか?」
「用? これは、面妖なことを。『最高のもてなし』をご用意致しました、地下の牢獄の一室にてお待ちしております――との文面を遣したのは、そちらであろう?」
「『最高のもてなし』? そんなの、私、知りません……!」
「知らない? まあ、こちらとしては知らずとも問題はない。要は――」
目の前の男が、緩々と手を伸ばす。その目的に気づいたスゼルナは、ハッと身を硬くし自分を護るように腕を回すとギュッと力を籠めた。――と同時に、その手首が攫われ、抗えぬ力で頭上へと縫い付けられる。
一瞥を投げた先には、また違う男がニヤニヤと目の前の男と同じような笑みを浮かべ、彼女を見下ろしていた。
黄金の瞳を見開き表情を凍りつかせるスゼルナへ、更なる別の男の手が襟元を開いていき、露になった首元に顔を埋めていく。
「や……っ」
駆け巡る嫌悪感に、スゼルナは堪らず身を捩り顔を背けようとするが、囚われた二本の腕がそれを許さず、侵略者に一方的に蹂躙の証を刻まれる。
「おや、なかなか可愛い声で啼くようですな」
「全く全く」
「先ほどの勢いはどうしたのやら。フフフ……」
素肌の上にひやり、と冷たい部屋の空気が纏わりつき、それに被さるように生温い感触が這い回る。
背筋を悪寒に支配され、スゼルナが拒否を訴えた瞬間、耳朶に鋭い痛みと濡れた呼気が見舞われた。
思わず片目を瞑りながら、そちらに顔を向けた彼女の眼前で、不敵な笑みが花開く。
「要は――楽しめたら、それで良いのだ」
お互いにな――囁きながら、ニイ、とどこまでも吊り上っていく男の口元を紅の舌先が、辿っていく。
真っ白に混濁としていく思考に唯一の漆黒の色合いが浮かび、スゼルナは震える唇で彼の名前を形作る。
男のその一言が、地獄への開門を告げる合図だった。
天井へと向けた掌に残された、微かな光の魔力。
その残滓がスッと溶け消えていく様を感じ、ベルディアースの秀麗な面立ちに焦燥が滲む。
別殿を抜け、中央殿へと通じる廊下に差し掛かったところで、彼の翠目が睥睨された。
「あら、邪王神陛下。別殿にお出でになっていたなんて、珍しいですこと。妾に会いにきてくださったのかしら?」
「……ラミルベイア」
アッシュグレイの髪が、彼女の払いのける仕草に、フワリと揺れる。
名前だけを呟き、ベルディアースの黒衣が何事もなかったかのように彼女の横を通り抜けていく。
すれ違う瞬間、ラミルベイアの艶やかな口元が、笑みの形のまま静かに開かれた。
「――お見かけしましたわよ」
「……なに?」
ベルディアースの足が止まり、鋭い眼光だけが彼女に注がれる。
彼の視界の中で、マゼンタの瞳が不敵に煌いた。
「中央殿の地下――牢獄の方へ下りて行かれるのを、見かけましたわ。そう、見知らぬ男を何人も引き連れて、それはそれは楽しそうなご様子でしたけれど」
「…………」
「あんな人目につかない場所で、あの男の数……。フフフ、何をお考えなんでしょうね?」
微笑するラミルベイアに、無言のまま再び黒衣が動き始める。
先ほどよりも間隔が短くなったその靴音に、彼女はゆっくりと振り返った。広がったのは、既に静寂へと回帰した暗い通路。
アハハハハ、それを破ったのは、狂ったような哄笑だった。
今まさに始まっているだろう、狂乱の宴――その中心には恐怖を張り付かせた黄金の瞳。
そして、その光景を一番見られたくない人物の目に晒される瞬間の、絶望に満ちた彼女の面。ゾクリとした快感を覚え、ラミルベイアの表情が恍惚としたものに変貌していく。
「間近で眺められないのは、本当に残念だけれど。闇の8神――微睡を司る妾を敵に回したのだから、これくらいは当然の報い。『最高に愉しい地獄』――、存分に味わうがいいわ……!」