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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
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4.囚われの太陽 (1)


4.囚われの太陽



 ピクン、と指先が動きを見せ、長い睫が緩々と上下する。

 芽吹いた黄玉は、ぼんやりと靄がかかったように煙り、明瞭にならない意識に視界は霞んだままだった。

 額を押さえながら、横になっていたらしい冷たい床から身体を起こす。

 途中、ふらついた全身は鉛のように重く、両手で支えながら、スゼルナは大きく息をついた。

(力が、全然入らない……)

 それでも何とか上半身だけを床から引き剥がし、垂直に立てる。

 まるで上から圧力をかけられているような倦怠感が、すぐさま彼女を襲い、再び意識が混濁と化していく。

 慌てて首を振り自我を繋ぎとめると、朦朧とした中に扉が一つとそれほど広くない部屋の全体像が、情報として飛び込んでくる。

 窓もなく、調度品の類もない、ただ壁際に備え付けられた一本の赤々とした蝋燭、そしてその傍から伸びた一条の鎖――。ジャラリ、目にした途端に気づく、片脚の不自由さ。素肌の足首に巻かれた枷は、罪人を繋ぎとめるためのもの。

(何が、どうなっているの? 私は確か――)

 記憶の糸を手繰り寄せ、すぐに引き上げられる、結い上げられたアッシュグレイの髪に挑戦的なマゼンタの瞳の女。

 スゼルナは項垂れると、キュッと唇を噛みしめた。

(そうだ、思い出した……。あの女の人に会って、応戦している時、急に意識が遠くなったんだ)

 ジャラリ、再び耳を掠める重苦しい音色。

 つっ、鎖の範囲を超えてしまったらしい、足に鈍い衝撃がはしり、スゼルナから短い吐息が漏れ落ちる。

(私の存在が邪魔だから、ここにとじこめたってこと? でも、どうして――ううん。私だって、彼女のことが許せないってそう思って……)

 スゼルナは、慌てて首で否定を示した。

 金色のみつあみが、その動きに合わせて踊るように跳ね回る。

(彼女はただ、あの人に求められただけかもしれない、のに。たくさんの女の人と関係しているようなことを、サマンサさんも言ってた。私も、その中の一人……。妃なんて、名ばかり――なのかな)

 契りを交わしたとはいえ、彼自身から告げられたのは彼の名前のみ。

 その名前も偽名なのか、口にしているのは彼女一人という現状――理由を尋ねたくとも、その暇さえも与えられることなく、ごまかすように重ねられる口付け。

 腕を回し、ギュッと自分を抱きしめながら、トパーズの瞳が切なげに光る。

(あの人は何を考えているの? 私のこと、本当は――)

 ハッと我に返り、スゼルナは両の掌で頭を包むと、緩々とかぶりを振った。

 奥底から沸々と湧き上がってくる、くらい負の感情。それに、彼女の表情が歪む。

(傍にいるだけじゃ、駄目……なんだ)

 ギィ。それに呼応するように、耳障りな金属の軋み音がスゼルナの耳を撃つ。

 ようやく明確に伝達するようになった視界に、一つしか設けられていない扉がゆっくりと開いていき、そこから数人の男が部屋へと踏み入って来るのが映った。

(だれ……?)

 下卑た笑みたちが彼女を見下ろしながら、近づいてくる。

 『最高に愉しい地獄へ、蹴落としてあげるわ……!』――脳裏に蘇る、彼女の愉悦に満ちた台詞。

 冷たい悪寒が、背筋を走り抜けていく。引き摺るように後退した背中に、硬い壁がまるで逃げ道を遮るように立ち塞がる。

 声にならない悲鳴をあげながら、スゼルナの黄金の瞳にはっきりと恐怖が描かれた。



 僅かな魔力の痕跡を辿った先は、ベルディアースの配下である闇の8神の住まいが並ぶ、別殿だった。

 彼女の濃い気配が残された部屋へと押し入りながら、彼はその切れ長の瞳を更に鋭くする。捉えたのは、その部屋の主――ベビーピンクの柔らかそうな髪に、青緑の感情の乏しそうな眼差し。

 彼女に向けられた彼の一瞥は、あからさまな敵意に塗れていた。

「……あの女は、どこだ?」

「あの女? どなたのことでしょうか」

「しらを切るな。中央殿に落ちていた花が発した魔力と同等のものを、この場に感じる。隠せば、おまえのためにならぬことは解っていよう」

「魔力を? 花からは、そんなものを感じることはないと思いますが」

 サマンサの応答に、ベルディアースの仏頂面が剣呑さを帯びる。

「その花が不自然に砕けた一瞬、形成していた魔力が分散され飛び散った。その破片から、あの女の――光の魔力を感じた」

「…………」

「何を考えいているかは知らぬが、余計な真似はせぬことだ」

 仮面のような面のまま黙り込むサマンサに、ベルディアースは冷たく言い放つと、外套を翻した。

 その黒衣の背を、抑揚のない声が呼び止める。

「……砕けた、と仰いましたか?」

「それがどうした」

「ならば、お急ぎください。未熟とは言え、本来のままの状態なら――まず、ありえることではありませんから」

「……!」

 翠の瞳が、微かに見開かれる。

 チッ、小さく舌打ちをすると、ベルディアースは荒々しくその部屋を後にした。

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