表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【幕間】間奏曲 『Episode.1 虜囚』
30/87

1.太陽の翳り (2)

 扉が控えめにノックされ、一呼吸後にそっと開かれる。

 隙間から覘いた黄金の瞳が、誰もいない空虚な内部を捉え、落胆と共にホッとしたような安堵を灯した。

「まだ……帰ってないんだ」

 後ろ手に扉を閉めながら、スゼルナは歎息した。

 フラリ、と視界が傾く。額を押さえ首を振ると、彼女は見慣れた寝台へ歩み寄った。

 天蓋から伸びた黒のレースを手繰り、そのままシーツの中へと仰向けに倒れこむ。すぐさま訪れる強烈な睡魔に微かな抵抗を試みるものの、シーツに残る彼の匂いに惑わされるように意識が奪われていく。

「ディアルク……」

 ウトウトとしばらく微酔まどろんでいると、不意に瞼の裏へ蘇る鮮明な光景。

 彼と見知らぬ女の二人が唇を重ねあい、吐息を混じらせ、声を、熱を、全てを共有しあうように深く深く睦み合う。

「……っ!」

 黄金の瞳が、慌てたように芽吹かれた。

 その黄玉に、僅かに見開かれた切れ長の翠の瞳と、こちらへ伸ばされた指先が映され、スゼルナは小さく息を呑んだ。

「あ……」

 一瞬呆けたような表情が、彼女に浮かぶ。

 目の前の彼が先ほどの光景に重なり、スゼルナは上半身を起こすと、無意識に身体を退く。

 そんな彼女の様子に、ベルディアースの眉間が小さな反応を示し、見る間に彼の表情が険しいものへと変わっていく。

「――何故なにゆえに、俺から離れる?」

「あ、あなたがいるとは思っていなかったから、その、ちょっと驚いちゃって……。帰ってたんだね。おかえり、なさい」

「……ああ」

「いつ帰ってきたの?」

「先刻だ」

「そう、だったんだ……。全然気づかなくて、ごめんなさい」

「…………」

 不機嫌そうな彼の面立ちを窺い見ながら、スゼルナは不自然にならないよう、ゆっくりと視線を外した。

 一つ呼気を落とすと、胸に秘めていた質問を口にする。

「――あのね。今日のお仕事の内容、訊いてもいい?」

「おまえには、関係あるまい」

 苛立ちを多分に含んだその物言いに、スゼルナはキュッと唇を噛みしめながら俯いた。

(関係なく、ないよ……)

 今にも溢れそうになる想いがバサリ、徐に外された黒の外套に遮られる。水面に描かれる波紋のように床へ広がる闇色と、軋むスプリングの甲高い悲鳴が彼女を現実に引き戻す。

 当然のように寝台へと上ってくるベルディアースに、スゼルナは戸惑いを滲ませた。胸の前で拳を作っていた手首が攫われ、引き寄せられる。

 鼻腔を擽る、先ほどまで包まれていたものと同じ香り。そして、それに混じる――嗅ぎ慣れない甘ったるい匂い。

 スゼルナの表情が強張り、その華奢な両肩が緊張を帯びる。

 密着すればするほど、嫌でも記憶から解放される、先ほどの場面。

「スゼルナ……」

 艶めいた低い声色に、耳朶とそこに彩られたダークレッドの証を撫でられ、顎に絡まれた指に、抗う間もなく、視線を上向きにされる。

 揺れ動くトパーズに迫る、ベルディアースの美しい翠の双眸、通った鼻筋と――重ねられていた唇。

 スゼルナの震える紅唇が薄く開かれ、擦れた音が漏れ落ち始める。緩々と横に振られる金糸と、明瞭さを増していく、声音。

「……っ、や……! いや……!!」

 一際響いた拒絶と同時に、彼女の両手が閃いた。

 まさかの出来事に彼の長身がよろめき、彼女を捉えていた腕が緩まる。

 拘束を逃れたスゼルナは、寝台から床へ降り立つと、困惑の表情のまま後退を始めた。ドン、その背が扉にぶつかる。

 ユルリ、とベルディアースの黒髪が波打ち、翠の切っ先が彼女へと冷徹に突き刺さった。

「これは、どういうことだ……?」

 底冷えしそうなほどに抑えられた低音が、彼女の鼓膜に浸透していく。

「ごめん、なさい……! でも私、私……っ」

 スゼルナは小刻みに首を左右に動かしながら、背後へ回した手を探るように懸命に這わす。その指先が、目的のものを掴んだ。それを思いっきり押し開けると、彼女の細身は流れるように部屋の外へと駆け出していった。

どっかで見た覚えがあるような?(笑)

それにしても、途中の二人の会話がとても新婚さんには思えない…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ