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神剣伝説 ガルディフォアラード  作者: りんか
【序幕】第一幕 『太陽と死神の輪舞曲』
1/87

プロローグ

ムーンライトノベルズの方にR18版『太陽と死神の輪舞曲』が置いてありますので、興味のある方はそちらもどうぞ。(話の展開は同じですが、R18版の方が少しばかり先の話まで掲載してあります)まだまだ拙いところもあり、先の長いお話ですが、お付き合い頂けると幸いです。

 風が、舞い上がった。

 何度も繰り出される、致命傷になるだろう怒涛の攻撃を、全て紙一重でかい潜った華奢な身体と、一つに編まれた金色のみつあみが宙を踊る。

 瞬間、一筋の閃光と一際強烈な打撃音が響いた。

 視界から急速に遠ざかっていく濃紺色を、冷酷に煌いた黄金の瞳が一瞥する。それが巡らされた中に、もう一つの探し求めた色合いを見受けられず、少女の表情が、焦燥に駆られた。

「どこに――どこに行ったの?」

 グッ、と光を纏った剣を握る力が、強まっていく。

「おじいちゃん、ヨシュア、エッちゃん、みんな……みんな……っ!」 

 と。漏れ出す幾筋もの月光が、揺れ動く木々の葉に翻弄され、森の中を淡く照らし始めた。

 静けさを湛えたままの横たわった水面に、波紋が描かれたその一瞬。その一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、世界を司る全ての刻が止まったような気がした。

 突如として後ろから回された力強い腕に抱きすくめられ、困惑の海に揺らいでいた意識が、何が起きたのか理解出来ずに更に大きな波に攫われる。

 ひんやりとした掌が無造作に顔の輪郭を伝い、抗う暇もなく上向きにされた視線。

 今にも弾けそうなほどに潤みを帯びた黄金の瞳と、面白そうに細められた翠の瞳が交差した。

「予想以上に、やるではないか。こちらの手駒を、単騎で片付けてしまうとはな」

 耳の奥へと甘く浸透する艶美な低音に、少女の身体がビク、と戦慄いた。

 握られた剣柄が更に掌へときつく食い込むのを感じながら、黄金の瞳がキッと鋭さを増し、艶やかな黒の長髪に包まれ、凄艶に笑む男を睨みつける。

「邪王、神ベルディアース……っ村の、みんなの仇……!」

 黒衣に包まれた両腕を振りほどき、爪先で回転をつけた少女の利き腕が宙を滑った。

 閃めく白刃。空を裂き、相手へと振り下ろされたその軌道は、すぐにあらぬ方向へと流され、隙を覗かせた手首が掴まれる。

 漏れ出したのは、小さな驚きの声。気にも留めない男の指先が抜き身の刃を伝い、震えたままの少女の手を撫で上げる。

 クッ、と男の口元が吊り上った。

「俺に剣を向けるなど、由々しきことよ。その罪は万死に値するが――。わかっていような?」

「つ、ぅっ」

「ほお……この手にあるのは、そうか。触れただけで感じる、この禍々しさ。光剣ギルベディオン。神である我が肉体に、簡単には癒えぬ傷をつけることが出来る、神器の一つ。発動行使条件は、光神の血」

 やはり、おまえがそうなのか――呟やいた口元が、皮肉げに歪んだ。

 徐にグイッと捻られる手首に、少女の面立ちが苦悶を滲ませる。

「さあ、どうする? 俺の気が変わらぬ内に、赦しを乞うか? クククッ……ならば、この唇で愛らしく啼いてみせよ。今ならまだ、聴いてやらぬこともない」

「何を、言っているの……? あなたは、私からみんなを奪ったんだよ? 私の大切なもの、全部全部……っあなたが、あなたが破壊した……! 許せない、許せるはずない! ねえ、返してよ。おじいちゃんを、みんなを返し……っん!」

 一気に吐露される咎めの言葉が、不意に溶け合った熱の中へと途切れた。

「誰が、そのようなことを喚けと言った……?」

 苛立ちを含んだ声音が零れ、再び強引に塞がれた先で奏でられる甘美な旋律に、一瞬で陶酔が回り、フラリと華奢な身体が傾ぐ。

 トサッ、脱力していく彼女から滑り落ちたのは、唯一の抵抗するための刃。

 ふるふる、と横に振られる一つに束ねられた金のみつあみ。

 同じ色の双眸から次々と流れていくのは、悲哀に満ちた透明な煌きの結晶たち。

「ねえ、どうして……? どうしてこんなことするの……? どれだけあなたを好きになっても、絶対に叶うことはない、許されることじゃないってわかっているから、抑えていたのに。こんなの、酷いよ……! 私は、光神オルティスの末裔――あなたの敵。それは、どう頑張っても曲げられない事実、なのに」

「フッ。何を言うのかと思えば……。この俺に、変えられぬものなど存在しえぬ」

 彼の口唇が、濡れた頬へ吸い寄せられていき、ゆっくりと這わされる紅の舌端。ピクンと反応を示す細い両肩に、翠玉が微かに和らぐ。

「……この戦を仕掛けた当初は、災いと化す前にその芽を一掃する――それがそもそもの目的だった。俺を阻む可能性のある全てを潰し、この世界へ復讐を遂げるまでの行程の一つ。まさか、それを狂わされるとは、予想だにしなかったがな」

「どういう……こと?」

 理解できずに疑問を呟いた少女が捉えたのは、傲慢に輝く一対のエメラルドの瞳。

「おまえを知る者はことごとく滅した。おまえの存在は、今この刻よりこの世界から消える。存在を失った者が、この世界に留まる理由はなかろう……? 残る不要なものは、おまえの中にある記憶」

「存在? 記憶? 何を、するつもりなの……?」

 困惑する二つの黄玉に映されたのは、ただ愉悦を湛え酷薄を模した笑み。それに、思わず後退してしまった彼女の頤が無理やりに掴まれ、二人の顔が再び吐息が混じる程に近づく。

「我が能力は“刻”を支配し、全てを無に還す――それがどういう意味を持つか、おまえにわかるか?」

 スゼルナ、囁かれる自分の名前にゾクリとした妖艶さを感じ、彼女の全身が瞬時に強張った。

 その隙に伸ばされた指先が、金糸を束ねた紐をほどく。フワリ、木の間から漏れ出る月の光を浴び、美しい残滓を振りまく金色。それに混じるように、艶やかな黒の長髪が舞い上がる。

「出でよ、闇の上位精霊」

 迸る魔力に呼応して、地中より姿を現した黒炎が天高く舞い上がる。彼の制御を離れたそれは、一際猛々しく燃え上がると、目の前の彼女の両腕に絡みついた。

 刹那、疾る灼熱に彼女の口から、声にならない悲鳴が上がる。一瞬の間に袖が炭化し、白い肌に刻み込まれたのは、黒い爛壊。激痛に、彼女の華奢な身体が大きく撓んだ。

 スルリ、と彼の手が離れ、枷となった黒い炎が彼女を宙に縫い付ける。それはまるで、死神に差し出された生贄による磔刑。

「準備は整った。さあ、我が前に過去をさらけ出すがいい。おまえの未来を、運命を、この俺が変えてやろう」

 引き合うように唇が重なり、そして――。

 ゴウッ。二人を中心に、闇色の風が轟音と共に吹き荒れ始めた。

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