第9話「余、初授業に挑む」
入学式の翌日ーー
「おはよう、アレクシア」
余が教室へ入り席へ着くと、先に来ていた夏美が話しかけてきた。
「うむ夏美よ、おはよう。随分と早いのだな?」
「まーね。中学の時から朝練とかで早いし、もう習慣みたいなものよ」
鍛錬が習慣化されておるか。やはり夏美には兵の素質があるな。余の時代であれば歩兵部隊に⋯
「変な事考えてるわね?」
余は無言で首を振った。
「シアちゃん、なっちゃん!おはよ〜!」
今登校してきたらしい心春が、余達の元へやってくる。
「おはよ、心春」
「うむ、おはよう。心春は今日も元気であるな」
「へへ〜朝ごはんいっぱい食べてるからね〜」
ほう、余の時代では朝は軽く済ませるものであったが⋯心春を見ていると沢山食べた方が良かったのやもしれぬな。
「今日から授業が始まるわね、難しい内容じゃないと良いけど⋯」
「私は優しい先生だといいなぁ〜」
「余は厳しくとも確かな知識で導く指導者を望むがな」
余達が暫し話し込んでおると、予鈴が鳴り生徒達が席へ戻っていく。
「そろそろHRね、それじゃまた後で!」
「あとでね〜」
二人も席へと戻っていき、程なくして教室に橘が現れた。
「はい、皆さんおはようございます。それでは朝のHRを始めますね。まずは出席をーー」
さてーー現世の⋯高校の学問とは一体どのようなものであるか⋯
一限目ーー
本鈴が鳴ると同時に、白衣を羽織った細身の男性教師が入ってきた。
「数学Ⅰを担当する、相馬だ」
相馬を名乗る男はそのまま黒板へ向き直り、何の前触れもなく何か書き始めよった。
y=x²
「二次関数だ。お前ら当然知ってるだろう?」
知らんわ、たわけが。
二限目ーー
「Hello, everyone!」
明るい声と共に入ってきたのは、余より少し濃い色をした金髪の女性教師。
「I’m your English teacher, Ms. Jennifer!」
うむ、何言ってるか分からん。が、恐らくジェニファーは名乗りであるな?
「We will now begin the English Communication I class!Okay, let’s start easy!」
この言葉の通じぬ感覚⋯懐かしい。遠征を思い出すわ。
三限目ーー
「ーー諸君」
扉を開けて入ってきたのは、またもや白衣を羽織った男性教師⋯見たところ相馬より歳は重ねておるか?そして何やら異質な気配を感じる⋯
「物理基礎担当の五十嵐という」
そして振り向き、黒板へと何かを書いていく。ふむ、この流れ⋯読めたぞ。先程と同じだな?
F=ma
「美しい⋯」
⋯うん?
「力とは何か。質量とは何か。そして加速度――この三者が織り成す関係⋯完璧で、美しい⋯」
全然違ったわ。変態であった。
そして休み時間ーー
「ちょっと変わった先生も居たけど⋯内容的にはまだ中学の延長って感じだったわね」
「まだ最初だしね〜」
「ふむ⋯」
薄々感じてた事であるが⋯夏美と心春の会話を聞いて余は確信した。アレクシアはアホなのだ。
⋯いや、余ではなくてな?余の記憶が現世に戻るまでのアレクシアよ。
どうやらその中学教育の内容もろくに理解しておらぬようだ⋯特に英語とやらは壊滅的である。我ながら情けない⋯
「あ、そろそろ四限目始まるわね。それじゃまた後で」
「終わったらお昼ご飯〜」
そう言い二人は席へと戻る。⋯まぁ問題は無かろう。余の知力がある以上、いずれは全ての教科を征する事になるのであるからな。
四限目ーー
「皆さん、席に着いてください」
そう言いながら入ってきたのは、見覚えのある橘であった。
「現代文は私が担当します。それでは、まずは簡単な説明から入りましょう。現代文というのはーー」
黒板にチョークで書かれる音が響く。
「感覚で理解するものではなく、構成と根拠で読解するものです。それには毎回決められた手順に沿って解く、という事が重要になります。」
成程。現世の文を理解し、使いこなす為の方法を学ぶ時間と言ったところか。
「ノートはしっかりと取って、後で読み返して理解出来るようにするように。あと、毎回小テストも行います」
橘がそう言うやいなや、教室のそこかしこから小さな悲鳴の声が上がった。ふむ⋯その日学んだ事を理解出来ているか試すという訳か。よく考えられておるな。
「それでは教科書を開いて。三ページ目を⋯佐藤さん、音読してください」
名前を呼ばれた女子は、緊張が感じられる声で読み始めた。
うむ⋯いたって普通の文章であるな。難しい言葉も無いように思うが⋯
「はい、そこまで。今の一文、“それ”とは何を指していますか?」
橘は朗読を止めた女子に問いかけた。
「え、えっと⋯その」
橘は振り返り、黒板に“それ→?”と書いた。
「ここは、なんとなく流して読んでいると分からないところです。前の文をよく見てください、どのような言葉が使われていますか?」
⋯成程な。そういう事か。
「分かった方は?」
橘の声に合わせ、余は手を挙げた。
「では、九条さん。答えてください。」
「“それ”とは、前の文の“人間の行動”を表しているのだろう?」
「⋯正解です」
少し意外そうな顔をした橘。
ふふん、この程度造作もないわ。
「わ〜すご〜い!」
心春の賛辞の声がきこえよるわ。皆もそう羨望の眼差しで見るでないぞ?
小さく咳払いをした橘は続けて言う。
「いいですか?現代文は手順を踏めば、正確に読み取れるようになります。落ち着いて理解していきましょう。では続けてーー」
その後も橘の授業は進みーーやがて昼食の時間がやってきた。
「アレクシアはお昼どうするの?私は学食だけど」
「む?余は母上から兵糧⋯弁当を持たされてな⋯これを食べようと思うぞ。」
そう言いながら、余は鞄から濃い赤の布で包まれた弁当を取り出す。
「そうなんだ⋯心春は?」
「私もね、お弁当〜」
心春が取り出したのは、余より少し小さめの人参柄の布に包まれた弁当。
「そっかー⋯じゃあ学食は私だけかぁー⋯」
「ん〜⋯じゃあ私も一緒に食堂で食べるよ〜!シアちゃんも一緒に行こ〜?」
寂しそうな夏美を見かねたのか、心春がそのような提案をしてきた。
「うむ、余は構わんぞ。臣下の進言を聞き届けるのも王の務めゆえな。」
「いや、臣下ではないけどね⋯?でも、二人共ありがとう!」
こうして、余達は食堂へと向かう事になったーー
食堂へ着くと、そこには場を埋め尽くすほどの生徒達で溢れていた。
「うわ、凄い混んでるわね⋯席空いてるかしら?」
「え〜っと⋯あ!あそこ丁度空いてるよ〜!」
心春がキョロキョロと見渡し、空いている席を見つけ出した。中々の観察眼よ。
「良かった、それじゃ席取りお願い!注文したらすぐ行くわね!」
そう言い夏美は配給場へと駆け出していった。余と心春も席を奪われぬよう迅速に確保する。
席に着き暫しの間待つと、板の上に料理を乗せた夏美がやってきた。
「お待たせー、席取りありがとね」
「いいよ〜、何頼んだの〜?」
「日替わりA定食だって。豚のしょうが焼き。」
ほう⋯豚か。前世でもよく食べたものよ。
「タンパク質豊富だし、疲労回復にもってこいだね〜」
「うん。⋯うん?」
うむ、夏美よ。言いたい事は分かるぞ。余も同じ気持ちだ。
「先日の血糖値の話もそうであったが、心春は食に関して詳しいのだな?」
「うん、料理するの好きだから〜。自然と色々覚えちゃうんだよね〜」
つまり、心春は兵站を任せるに足る手練れ⋯という事か。
まぁそれはいい。それよりも、だ⋯
「心春が賢そうな事言うの、ちょっと変」
そう、それよ。
「ひど〜い!」
心春がぷんすこ怒っておる。うむ、威圧感皆無であるな。
「ごめんごめん、じゃあそろそろ食べましょっか?」
「で、あるな。さて余の弁当やいかに⋯」
包みを解き、弁当箱の蓋を開けるとーー
「わぁ!美味しそうだね〜!」
「ほんと美味しそう、おにぎり唐揚げ卵焼き⋯THEお弁当って感じで良いわね」
「ふむ、そうなのか⋯?流石は母上と言ったところか」
「心春のはどんな感じ?」
「私のは、こんな感じ〜」
心春が弁当箱の蓋を開けると、それは余の弁当とはまた違った類いの物であった。
「わ、可愛いお弁当ね⋯卵と照り焼きチキンのサンドイッチに、サラダとブロッコリー人参ラペ⋯フルーツも入ってるじゃない。これ自分で作ったの?」
「そうだよ〜!これで午後も元気いっぱい!」
成程、このような弁当もあるのだな⋯栄養に彩り、食も奥が深いわ。
「それじゃ食べよ〜、いただきますっ!」
「「いただきます」」
こうして余達は昼食を食べ、その後もたわいも無い話で盛り上がった。
そして、午後の授業が始まるーー
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