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面倒臭いと思い、努力しなかった代償

作者: 徒然草

 とある婚約者たちの会話です。


「ルシフェーラ、君との婚約を解消したい。」


「理由は何でしょうか?」


「僕はカリナを愛してしまった。君との婚約はもう考えられないんだよ。」


 ウェルズ・マニカ子爵令息は腕を組みながら何処か偉そうに婚約者であるルシフェーラ・ミナリス子爵令嬢にそう言った。


「両家の許しがあれば、私は構いません。」


「ふんっ、相変わらず可愛げのない返事だな。」


 婚約解消に全く反対しようとしないルシフェーラの様子に少し苛立った様子をウェルズは見せた。


「ルシフェーラ、何度も言っているが君は地味で愛想がない。それに比べてカリナはとても可愛らしくて愛らしいんだよ。この婚約解消は君の責任でもあるからな!」


 カリナ・ニート子爵令嬢の容姿が秀でているのはルシフェーラも知っている。ウェルズとカリナが何時知り合ったのか分からないがとても親しいようだ。


「…そうですか。」


 ルシフェーラは表情を変える事なく返事をすると、ウェルズはさらに機嫌を悪くさせて部屋を出て行った。


「…どうせ、婚約解消は出来ないわ。」


 ルシフェーラはそう言って溜息を吐いた。




◆◇◆



「ルシフェーラッ!!」


 後日、自室で書類の整理をしていたルシフェーラの元に苛立ちを隠そうともしないウェルズがやって来た。事前に約束はしていたので問題はないが、他の使用人もいるというのに非常識な振る舞いだった。


「どうされました?」


「君との婚約解消が認められなかった! どういうつもりだ、僕との婚約解消に同意していただろう!?」


 ウェルズの言葉に慌てる様子を見せずにルシフェーラは冷静にウェルズを見た。


「マニカ子爵に反対されたのですよね、何と言われましたか?」


「っ、カリナとの婚約は認めない。ルシフェーラと婚約解消したら男爵家に婿入りするか最悪、平民になると言われた!」


「…それだけですか?」


「ああそうだ! 婚約解消に反対する態度を見せないと思ったらやはり面白くなかったのかルシフェーラッ!!」


 ウェルズはルシフェーラが手を回して婚約解消の邪魔をしたと思い込んでいるようだ。だがルシフェーラは何もしていない。初めから無理だと分かっていたのだ。


「私は何もしていませんよ。」

 

「嘘をつくな! そんな訳がないだろう!? 地味な上に性格は最悪だな君は。」


「では、ウェルズ様も納得出来るように説明します。話が長くなりますし座った方が宜しいかと…。」


「……。」


 ウェルズはルシフェーラを睨見つけながらソファに腰掛けた。


「ウェルズ様、そもそも何故私とウェルズ様が婚約者になったのか覚えてますか?」


「…そんなの、お前が望んだからだろう?」


「…ウェルズ様が忘れっぽいのか、マニカ子爵が説明を省いたのか分かりませんが全く違いますよ。」


「っ、はぁ!?」


 ルシフェーラの言葉にウェルズは馬鹿にされたと思い声を荒げた。


「ウェルズ様、貴方は私の家であるミナリス子爵家に婿入する条件で私の婚約者になりました。マニカ子爵と私の父であるミナリス子爵の間で結ばれた政略結婚です。私の意志ではありませんよ。」


「…ルシフェーラの意志じゃない?」


「はい。それとウェルズ様はマニカ家の長男ですよね。それなのにどうしてウェルズ様はマニカ家の後継者では無くなったのでしょうか?」


「そ、それはっ…。」


 ウェルズは気不味そうに言葉を詰まらせた後、再びルシフェーラを睨みつけた。


「それは、バラズの奴が後継者に選ばれたからだっ!!」


 バラズはウェルズの弟、マニカ子爵家の次男だ。


「その理由は?」


「知るかっ! ある日いきなり父上にバラズが後継者になると言われたんだっ!!」


 ウェルズはマニカ子爵に言われた時の光景を思い出しているのか憎々しい様子を見せた。


「ウェルズ様、その理由を教えます。貴方は勉強を嫌い、書類処理や公務の知識を身に付けませんでしたよね?」


「それが何だ!? そんな面倒な事は出来る者にやらせれば良いだけだろうが!」


「…そして、令嬢達と遊んでばかりいたそうですね。」


「ふんっ、僕は人気者なんだよ。バラズは暗くて勉強しか取り柄がなかったから僕の役に立たせてやったんだよ。」


 ウェルズは整った容姿をしているがバラズは普通の容姿だった。ウェルズは勉強が嫌いでバラズに全て押し付けていた。両親はウェルズに注意したが言う事を聞かなかった。バラズがウェルズの分の宿題や公務をする中で、ウェルズは色んな令嬢に声をかけていた。婚約前なので体の関係は持たなかったが食事をしたり観光したりと遊び呆けていた。


「ウェルズ様、何故勉強や公務をするのが嫌なのですか?」


「あんな物を好きだと思う奴がいるのか? あぁ、君やバラズみたいな地味な奴は好きなのかもしれないがな。」


「…嫌だと思っていても、公務が出来なければ家を存続させる事は出来ませんよ。」


「僕がやらなくても他の人がやれば良いだろう。今君もやってるじゃないか!」


「ちなみに、ウェルズ様は公務をやろうと思えば今出来ますか?」


「五月蝿いな! そんなの出来る訳ないだろう! 君は何が言いたいんだ!?」


 質問ばかりで婚約解消出来なかった事の回答を言わないルシフェーラに苛立ったウェルズは声を張り上げた。


「えぇ、つまりそれが理由です。ウェルズ様は公務が出来ないから、公務が出来る私の婚約者になったんですよ。」


「…え。」


「そしてウェルズ様がマニカ子爵家の後継者になれなかったのも同じ理由です。公務が出来ないウェルズ様よりも、2人分の宿題を処理出来る能力を持ったバラズ様が選ばれるのは当然です。この事はマニカ子爵から話を聞いておりますので嘘ではありません。」


 ルシフェーラの言葉にはウェルズを嘲笑う雰囲気は感じられない。ただありのままの事実を伝える響きだけがあった。


「ニート子爵家は長男が後継者ですよね。カリナ・ニート子爵令嬢は何処かの家に嫁ぐ立場です。私と婚約解消してもウェルズ様は家を継ぐ立場ではありません。だから、お二人の想いがどれだけのモノかは知りませんが、婚約はまず無理ですよね?」


「っ、それは…。」


 ウェルズはルシフェーラに言われて自分の立場をようやく理解したのか言葉を詰まらせてしまった。


「ウェルズ様とバラズ様の兄弟関係、マニカ子爵家の雰囲気がどのようなモノであったのかは部外者の私は分かりませんし何も言いません。ですが、ウェルズ様がバラズ様に全て押し付けず、後継者に相応しい知識を身に付けていればニート令嬢と婚約できたかもしれませんね。」


「っ、五月蝿いっ!!」


 ルシフェーラの言葉を認めたくないと言わんばかりにウェルズは首を振った。


「べ、別に僕じゃなくてもいいだろう!? バラズは、アイツは僕の弟だ! 弟なら兄を助ければ良いだろうがっ! 子爵となった僕を補佐してくれれば良かったじゃないかっ!!」


「確かにそうですね。全ての家の当主が有能である訳ではないです。当主でない者が公務をしている家もあります。」


 ウェルズの身勝手な主張をルシフェーラは否定せずに肯定した。ウェルズは思わず目を丸くし、嬉しそうな顔をした。


「そ、そうだよな。ルシフェーラ、分かっているじゃないか!」


「ですがウェルズ様、貴方はバラズ様や両親を懐柔する努力をしましたか?」


「…へ? か、懐柔…。」


「貴方の思い通り動いてくれるように、ウェルズ様の願いを優先させてあげたい、と思って貰う為の態度をしてきたのかと聞いております。」


 ルシフェーラの言葉にウェルズは渋い顔をした。ウェルズは両親の注意を聞かず、バラズの事は見下してきた。


「な、何故そんな事を態々しなくてはいけないんだ!?」


「ウェルズ様が好かれていないなら、助けてあげたいだなんて思われないではありませんか。逆にウェルズ様は弟を、バラズ様を助けようと思いますか?」


「はぁ? 誰があんなヤツを助けるものか!!」


「でも、家族ですよね?」


「家族だから何だと言うんだ! アイツは僕から当主の座を奪ったクズ野郎だ! あんな奴の為に何かをするなんて御免だね!」


「ですよね。」


 興奮したように憤るウェルズの言葉にルシフェーラは頷く。


「ウェルズ様はバラズ様を嫌っている。だから助けたくないのでしょう。では、当主の座を奪われる前ならどうでしたか? 宿題をやってくれていたのですよね。お礼くらいは言いましたか?」


「はぁ? そんな事態々言うわけないだろう。」


「何故言わなかったのですか?」


「ルシフェーラ、いい加減にしてくれ! 君は何が言いたいんだっ! これ以上僕に質問するなっ!!」


「ではこれで最後にします。ウェルズ様がお礼を言わなかったのは、単に面倒臭かったからですよね? 違いますか?」


「……。」


 ウェルズはルシフェーラの言葉に反論せずに黙った。その様子にルシフェーラは自分の考えが間違っていないと確信した。


「格下の弟に態々そんな面倒な事をしたくない。両親も親だから、どうせ自分を助ける存在なのだから気を配る必要なんてない。そんな事は面倒臭いと思ったのですよね。そしてウェルズ様が勉強や公務が嫌いなのも面倒臭いから、というのが理由だと思います。」


「…だ、だから、何だ?!」


「貴方は面倒臭いと思った事から逃げた。そのせいで当主の座を失ったのです。ウェルズ様が何もしなくてもすぐに覚えられる才能があれば違っていたかもしれません。でもそうではないのにバラズ様に全て押し付けた。そして横柄な態度をとって家族から信頼されなくなった。だから貴方は地味で愛想のない令嬢と結婚するしかなくなったのです。つまり、自業自得です。」


「っ……!」


「貴方が面倒臭いからと言って疎かにしなければ、幸せになれていたのかもしれませんよ?」


 ルシフェーラの言葉にウェルズは何も言わないが顔を真っ赤にして今にも怒鳴ってきそうな様子を見せる。



「そして、それは私も同じです。」


「…はっ?」


 ルシフェーラの言葉に、ウェルズの表情は怒ったままであったが勢いを失ったように固まった。


「ウェルズ様の指摘通り、私は地味で愛想がありません。私は貴方や姉のように華やかな容姿ではありませんし、社交的でもありませんからね。」


 ルシフェーラの姉、エメラルダはルシフェーラに似ておらず美人だ。そして愛想もあって社交的だ。その事はウェルズも知っている。  


「そしてもう一つ、私はお洒落や交流、恋愛に興味がありません。私は昔から勉強がとても好きで勉強にしか興味を持てませんでした。お洒落よりも友人作りや令息との出会いの場に行くよりも、家で勉強したかったのです。」


「…信じられないな。」


 ルシフェーラの言葉にウェルズは引いてしまう。ウェルズには到底理解できない感覚だった。


「両親や姉からもっと身だしなみに気を使え、社交場に積極的に参加して交流を持てと言われましたが無視しました。流行りのメイクや人気の口紅なんてどうでも良い。ドレスだって何が似合うかなんて興味ない。地味でもマナー違反でないなら問題ない。それに友人を作って気を遣うなんて、令息に理由もなく笑顔を向けるなんて、ウェルズ様と同じように面倒臭いと思いました。そして、私は内心で両親や姉、他の令嬢達を見下していました。外見ばかり磨いて知識を磨かず、女を武器にして媚を売ったところで何の意味があるのだと思っていました。私は外見ではなく、知識という力で自分の人生を切り開いてみせると意気込みました。ウェルズ様の言うように、私は性格が悪いのでしょうね。」


「……。」


 苦笑いするルシフェーラに、ウェルズは不思議と嫌な気持ちはしない。ルシフェーラの取り繕わない本心を聞かせて貰っている事に親近感が湧いたのかもしれない。


「私は常に成績1位を取り続けました。私は学園を卒業したら文官になりたいと思いました。私は努力してきたし、当たり前のように夢を掴めると思いました。でも…。」


「…試験に、合格できなかったのか?」


 言葉を濁したルシフェーラに、ウェルズは質問した。


「…筆記試験は合格しましたが、私には人脈も華やかさもないから相応しくないと言われてしまいました。許せなかった…どうせ私が女だから、男の方を優遇したんだと思いました。それに今働いている女の文官達はきっと男性達に色目を使って媚を売ったんだとも思いました。」


 今の貴族社会では女が職場のトップに立ったり、重要な役職に就いている者もいる。しかし、男が未だに有利な状況であるのも間違いなかった。


「でも実際に文官の方達を見て気が付きました。彼女達は男女問わず人脈がありました。家柄や人脈を使った交渉術。そして、美しさと凛々しさ…私が面倒臭いと切り捨てた全ての要素がありました。知識だけで務まるような、そんな甘い世界ではなかったのです。私は好きな勉強しかやらなかった。他の令嬢達は外見も社交術も勉強も、面倒臭い事にも向き合っていたのかもしれないと初めて思い直しました…私は本当に愚かだった。」


 ルシフェーラは、後悔した瞬間を思い出したようで涙ぐんでいる。ウェルズは何とも言えない顔で黙ったままルシフェーラの話に耳を傾ける。


「…姉は侯爵家に嫁ぐ事になりました。行き場のない私はミナリス子爵家に残る事に。私の取り柄は勉強が出来る事、つまり公務を行える事だけです。家の利益を考えれば子爵以上の地位が望ましい。けれど美しさも愛らしさもない令嬢の私を望む声はありませんでした。でもウェルズ様、貴方が現れました。」


「…。」


「貴方は私を愛さないばかりか尊重も、最低限の礼儀もしません。でも、私に文句を言う資格なんてありません。だって、私が面倒臭いと言って誰かに好かれる努力を怠ったのですもの。」


 もしルシフェーラが嫌がらずに努力していれば、エメラルダ程の美人にはなれずともそれなりの人脈は出来ていたかもしれない。そうすれば文官になれていたかもしれない。なれなくてももっと良い婚約者と巡り合えたかもしれない。


「ウェルズ様、貴方が他の誰かを好きになっても仕方ありません。貴方が今後何かしらの努力をし、私との婚約を破棄して幸せになっても私には責める資格はありません。その代わりといっては何ですが、私は今後もお洒落に気を遣う事も、愛想を身に付ける気もありません。」


「…何故だ?」


 ウェルズは質問したが、ルシフェーラが何と答えるのかは何となく分かっていた。ルシフェーラもウェルズが悟っている事を分かっている様子で淡々と返事をした。


「私はウェルズ様を愛していないからです。そしてこの期に及んでも、そんな事をするのは面倒臭いと思う気持ちの方が強いからです。」


 面倒臭い事から逃げ、努力を怠った自業自得の似た者同士はその後、何も言わずに見つめ合った。

 

 人生嫌な事、面倒臭い事多いですよね。でもそれが出来なければ未来の自分が幸せになれないという話でした。2人が努力しなくても何でも出来る天才であったなら幸せになれたかもしれませんが、凡人であるにも関わらず面倒臭い事を嫌だと言って怠りました。その結果、お互い望まぬ婚約を強いられました。まぁ、努力しても必ず報われるとも限りませんがね。人生難しいですね 笑


ここまで読んで頂きありがとうございました! もし宜しければ評価して頂けると嬉しいです(*^^*)

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