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第二話 朝の違和感

朝の光は、工房の床にまっすぐ差し込んでいた。

戸の隙間から入り込んだそれは、昨日と同じ角度で、同じ場所を照らしている。

老職人は、いつもの時間に起きた。

顔を洗い、手ぬぐいで拭き、上着を着る。

その一連の動きに、迷いはない。

工房の戸を開けたとき、彼は立ち止まった。

机の上に、一足の靴が置かれている。

完成している。

一瞬、状況が飲み込めなかった。

目を細め、近づき、靴を手に取る。

軽い。

形は整っている。

縫い目も揃っている。

「……終わっている」

声に出して、そう言った。

昨日は、途中だったはずだ。

革底を縫い終えていなかった。

少なくとも、彼の記憶では。

彼は椅子に座り、靴を膝に置く。

縫い目をなぞりながら、考える。

自分がやったのか。

それとも、やっていないのか。

どちらだとも、言い切れなかった。

腕を動かすと、肩の奥に鈍い痛みが走った。

指先にも、かすかな違和感がある。

針を長く持っていた後の、あの感覚だ。

「……やったのか」

そう言いながら、彼自身が一番納得していなかった。

工房に、他人が入った形跡はない。

戸は閉まっていた。

道具も、いつもの場所にある。

彼は、もう一度靴を見る。

出来は、悪くない。

いや、正直に言えば、いい出来だ。

それが、少しだけ怖かった。

自分の腕を信じていないわけではない。

だが、いつやったのか思い出せない仕事を、

自分の仕事だと呼んでいいのか、わからなかった。

外で足音がした。

朝の客が通り過ぎていく音だ。

老職人は靴を机に戻し、

何事もなかったように、工房を整え始める。

この違和感を、

今すぐ言葉にする必要はない。

そう判断したのは、

長年の経験か、

それとも、ただの習慣だったのか。

彼自身にも、わからなかった。

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