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妻の視点 第三話 夜の手

夜になると、

夫は早く床につくようになった。

昔は、

灯りの下で革を選び、

遅くまで作業をしていた。

今は、

夕食が終わると、

静かに横になる。

眠っているのか、

目を閉じているだけなのか。

それも、

私にはわからない。

私は起きている。

縫いかけの靴を片づけ、

帳簿を閉じ、

家の灯りを一つずつ消す。

その途中で、

工房を見る。

作業台は、

夜のままだ。

針も糸も、

置かれたまま動かない。

それでも、

私は知っている。

朝になれば、

靴は完成している。

夫は、

夜に何もしていないように見える。

少なくとも、

私が見ているかぎりでは。

手は、

眠っている。

昼間、

夫の指を見た。

傷も、

新しい血もない。

縫い物をした痕跡は、

どこにもなかった。

それなのに、

靴は出来上がる。

夜中、

一度だけ目を覚ましたことがある。

理由はない。

ただ、

家の奥が気になった。

音はしない。

工房の灯りも消えている。

私は、

そこへ行かなかった。

確かめるという行為が、

何かを壊す気がしたからだ。

翌朝、

靴は完成していた。

夫は、

それを見て、

少しだけ考え、

それから頷いた。

「悪くないな」

それ以上、

何も言わない。

夜のあいだに、

何が起きているのか。

それは、

もう問題ではなくなりつつある。

妖精という言葉が、

その場所を埋めている。

夜の手は、

誰のものでもいい。

朝になって、

靴があれば。

私は、

そう思うようにしている。

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