「まどかの告白 勝手に送られた書類と合格の衝撃」
「実は勝手に送っちゃったんです。 しおりさんの写真」
その一言が、しおりの心を強く揺さぶったのは、それから数日後のことである。 夜のレッスンが終わったあと、まどかが真顔で切り出した。
スタジオに残っていたのは、しおりとまどかのふたりだけ。
「一次審査、通っちゃったんです。 もし嫌だったら断ってもいいんですけど、私、どうしてもこのチャンスをつかんでほしくて」
しおりは思わず「えー! 私、何も聞いてないよ!」と声を上げるが、すぐにまどかの必死な表情に気づいて言葉を飲み込む。
「ごめんなさい、でもあのとき迷ってるように見えたから、つい…」とまどかは目を伏せる。
しおりは半分怒りたくなる気持ちもあるが、「私をアイドルに引っ張りたいんだ」というまどかの熱意を思い出すと、どうしても強く責められない。
「そっか、でも私なんかが一次審査を通ったって…」と戸惑うしおりに、まどかは「あなたのダンスは本当に魅力があるんです。だから絶対評価されると思ってた」と言い切る。
「でも、続けられるかな…。 あたし、男性スタッフ苦手だし、アイドルなんて未知の世界だし…」としおりが不安を口にすると、まどかは静かにうなずいて、「それでも、しおりさんはやりたいって思ったんですよね?」と問いかける。
その言葉に、しおりはハッとする。 確かに、“可愛い女の子に囲まれて踊る”という環境は魅力で、実際ここに来てからレッスンも楽しいと感じているのだ。
「嫌いじゃない…むしろ好き。だけど、本当にやっていけるのかな…」
そうつぶやくと、まどかは少しだけ微笑んで、「私がずっと支えます。だから一緒に頑張りましょう」と手を差し伸べる。
しおりはその手を見つめながら、頭の中でぐるぐる考える。
「いきなり書類送られてたなんて正直困るけど、まどかちゃんの思いも嬉しいし…。 しかも合格したとなると、やっぱり可能性があるのかな」
小さく息をついて顔を上げると、まどかの目が真剣な光を帯びている。
「わかった…。 試しに…というか、やれるところまではやってみる。 でも、もし無理があったら正直に言うからね」
そう伝えるしおりに、まどかはほっとしたように笑い、「もちろんです。私もずっと一緒に走りますから!」と力強く答えた。
レッスン室の外では、リナや他のメンバーが楽しそうに私語を交わしている声が聞こえてくる。
しおりは「一見“わーい合格”だけど、これからどんな試練があるんだろう」と考えながら、その笑い声に少しだけ胸が落ち着かない。
可愛い女の子がいっぱいのステージに立てるかもしれない喜びと、「本当にやっていけるのかな」という不安が、心の中で混ざり合っている。
でも、今は前に進むしかない――それだけははっきりしていた。