「キャバクラNo.1の素顔 友情と励ましのミックス」
「しおり、いらっしゃい」
そう声をかけてくれたのは、ゴージャスなドレス姿の星川らん。
彼女がNo.1キャバ嬢として活躍する店の入り口は、煌びやかな照明が目を引く。
真中しおりは、夕方のレッスン見学を終えた足で、少し気後れしながらも店に入ってきた。
「やっぱり…夜の世界ってすごいわ」
そうつぶやくしおりを見て、らんはクスリと笑う。
「何をいまさら。 あんたが夜来るの、嫌いじゃないでしょ? あたしの派手な客ばっかで怖いかもしれないけど、女の子同士なら気を張らずにいられるはず」
らんがしおりを招き入れた個室は、まるでラウンジのVIPルームのようだった。
ふかふかのソファに腰を下ろすと、しおりは「でも今日はどうしたの? 大丈夫なの、こんな忙しそうな夜に」と少し遠慮がちに言う。
するとらんは「ちょっとだけ休憩をとってるの。 あんたのために時間作るのも悪くないわ」と、ウインクまじりに返事をしてくる。
「もう…らんさんってば」 照れ笑いするしおりに、らんはグラスのシャンパンを勧めてきた。
この店には当然、男性客が多い。
けれど、しおりはらんが隣にいてくれるおかげで、それほど身構えずに済んでいる。 あたりを見渡すと、派手なドレスを着た女性キャストたちが、テーブルの男性たちを楽しませようと笑顔で接している。
「あなたはここでうまくやってるんだよね、らんさん。 本当にすごいな…」
しおりが感心したように言うと、らんは胸を張って得意げに微笑む。
「そりゃそうよ。 あたしはNo.1だもん。 ただ、そんな世界にも欠点はあるわけで…。 たとえば裏では同僚との小競り合いもあるし、派閥もあるしね」
その言葉には少し疲れがにじむが、すぐに彼女は表情を切り替えて、「まあ、あんたを妹分と思ってるから、いざとなったら守ってあげるわよ」と軽く笑って見せる。
しおりは「心強い…」と素直にうなずく。
そのとき、店の外から電話で呼び出されたらしく、らんが小走りで出て行った。 「少し待っててね、すぐ戻るから」
そう言い残して去るらんの背中を見送りながら、しおりはふっと息を吐く。
「そういえば、みちるから連絡きてたっけ」
スマホを開くと、メッセージに「男性客が多い場所に行って大丈夫なの?」と心配そうな文面がある。
しかし、ここにはらんがいるし、いつもみちるが盾になってくれるように、らんも自分を助けてくれるはずだ。
「ほんとに仲間ってありがたいな…」
しおりはソファに寄りかかりながら、軽く目を閉じる。
そんなときふいによぎるのは、今日のレッスンでの光景。 女の子同士で楽しく踊りあって、まどかのきらきらした眼差しを感じたことが思い出される。
「あの子、私の笑顔が好きって言ってくれたけど、本当かな」
頭の片隅でそんな疑問が浮かぶが、同時に胸の奥がちょっと熱くなる感覚もある。 男性苦手同士で話せるわけじゃないが、まどかとなら気持ちを共有できそうだと、しおりはなんとなく信じている。
そして、そのとき携帯が震え、ディスプレイに“まどか”と表示された。
「私が何を考えてるのか、わかるのかな…」
しおりは少し照れながら通話ボタンを押し、「もしもし、どうしたの?」と優しい声で応じてみる。