「衝撃スカウト カタラーナと女の子の魅力」
「しおりちゃん、何だか今日はそわそわしてない?」
夕方のイタリアンレストラン。 淡い黄色の照明がテーブルクロスをやわらかく照らしている。
キャバクラNo.1の星川らんが、メニューを眺めながらさりげなく声をかけると、真中しおりは「え? そ、そうかな」と笑みを浮かべてごまかそうとした。
隣には親友の熊野みちるが座っていて、手元のスマホをちらっと確認している。 「もう少ししたら、まどかさん来るんだよね。 しおり、大丈夫?」
みちるが気遣うように問いかけるが、しおりは「うん、平気、平気」と軽く答える。
その言葉とは裏腹に、しおりの胸は少し高鳴っていた。
可愛い女の子が来ると聞いただけでテンションが上がるのに、しかも自分に会いたいと言ってくれているという。 ど
んな子なんだろうと想像すると、つい落ち着かなくなるのだ。
「カタラーナを奢ってくれるって言うし、きっと気前のいい子なんじゃない?」
らんが笑いながらそう言うと、しおりは「いやもう、カタラーナだけじゃなくて、女の子だって楽しみだよ!」と小声で返す。
みちるが「はいはい」と呆れたように笑い、スパゲッティをくるくる巻き始める。
ほどなくして、入口から「あ、すみません、遅れました!」という声が聞こえた。 黒髪のボブヘアに外ハネを入れた小柄な女の子が、少し焦った様子で入ってくる。 テーブルまで小走りで近づいてくると、「葉月まどかといいます。しおりさん……ですよね?」と緊張ぎみに声をかけてきた。
しおりは思わず、まどかの瞳のキラキラした感じに心を撃ち抜かれる。
「あ、はい。真中しおりです。えっと…あたしに会いたいって聞いて…」
少し戸惑いながら答えるしおりに、まどかはほっとしたように笑う。
「ダンスの動画、拝見したんです。すごく素敵で…思わず連絡先を探しちゃって」 まどかの眼差しは真剣で、そこには礼儀正しさと高い熱量が見え隠れする。
「しおりちゃんのダンス、そんなにすごかったんだ?」
らんがワイングラスを持ちながら目を丸くして言うと、みちるも「うん、動きがなめらかで華があるの。だから私も何か形にすればいいのにって思ってたんだよね」と補足する。
まどかは大きくうなずいて、「女性が多いステージで、しおりさんに踊ってほしいんです。できればアイドルとして…」と熱い声を上げる。
その瞬間、しおりは、「え、アイドル?」と目を見開いた。
「アイドルグループでダンス披露してくれないかな、っていうこと?」とらんが興味深そうに身を乗り出すと、まどかは勢いよく頷いた。
「はい。まだ地下アイドルの事務所で運営見習いなんですけど、私なりに企画を立ち上げていて。そこに、しおりさんのキレのあるダンスが加われば、絶対に盛り上がると思うんです」
まどかの表情にはワクワクがあふれている。
しおりは「そんなに買ってもらえるなんて…嬉しいけど、あたし男の人が苦手で…もし現場に男性スタッフがいっぱいだと…」としり込みする。
途端にまどかは「大丈夫です!女性中心のユニットを作る予定なので、男性スタッフは最小限にしてもらいます。それに私も全力でしおりさんを守ります!」と力強く宣言した。
「すごいな、そこまで言ってもらえるなんて」とみちるは驚きの声を上げ、らんも「男を追い払うとか、いいじゃない」と上機嫌に笑う。
しおりの胸には、不思議と期待が広がった。 可愛い女の子に囲まれたステージ、男性の圧迫感をあまり感じなくてもいい環境――そのふたつが結びつくなら、こんなに自分に合った場所はないかもしれない。
「どうしよう…すごくいい話っぽい」とつぶやいてから、しおりはまどかの瞳を見つめた。
「でも、本当に大丈夫かな。アイドルなんて考えたことなかったし」 遠慮がちに言うしおりに、まどかは少し照れたように笑って、「私がなんとかします!」と胸を張った。
ちょうどそのタイミングで店員がデザートのカタラーナを運んでくる。
「あっ、これ!私の大好きなやつ!ありがとう、まどかちゃん!」としおりが声を弾ませると、まどかは「いえいえ、今日はお近づきのしるしに…」と照れ笑いを浮かべた。
甘いスイーツの香りと、まどかの穏やかな笑顔。
この組み合わせが、しおりの中で小さな決心を芽生えさせつつあった。