「夢はどこへ? 可愛い子と行動力のはざまで」
「あんたさ、可愛い子見るとすぐ話しかけるのはいいけど、本当に大丈夫?」
昼下がりのカフェテラスで、熊野みちるがストローをくるくる回しながら、真中しおりをじっと見つめていた。
しおりは「うん?」と聞き返し、半分上の空でベリーソーダをすすっている。
朝の商店街で見かけた女の子のことが頭から離れず、どんな声のトーンだったかとか、どんな匂いがしたかとか、ぐるぐると回想してしまうのだ。
みちるはそんなしおりの様子を見て、ため息まじりに言葉を続ける。
「しおりって、ほんと女の子好きだよね。 可愛い子いたらすぐ目をハートにしちゃうし。 でもさ、将来どうするの? ダンスやりたいって気持ちあるのに、そっちはうやむやになってない?」
その言葉に、しおりは口をとがらせてから「まあ、そりゃやりたいことはあるけどね…」と曖昧に返す。
みちるは眉を少し下げて、「うん、わかるよ。 あんた、ダンスするときはめちゃくちゃ生き生きしてるし」と笑顔を向けた。
だがそのままストローをくわえたまま、「だけど、可愛い子に囲まれてイチャイチャしてるだけじゃ、何も変わらないでしょ?」と一歩踏み込んで問いかける。
しおりはストローを噛みそうなくらい口を結んで、「うーん…」とうなる。
何度も頭の中で考えてはみるものの、いつも途中で立ち止まってしまうのが自分自身でもわかっている。
男性を苦手に思うあまり、ダンス専門学校を諦めたときの気持ちがうっすら影を落としているのだ。
「私、可愛い女の子と仲良くできればハッピーだし、ダンスも好きだけど、専門行くお金もなかったし…」
そうつぶやくと、みちるは大きく首を振った。
「それは仕方ない面もあるけど、バイトして貯めたり、他にも道はあるはずでしょ。 それを全部『可愛い子探し』に使っちゃダメじゃん」
彼女はその口調こそ柔らかいが、言葉の芯はしっかり通っている。
しおりは気まずそうに肩をすくめながら「だよね…」と俯く。
実際問題、可愛い女の子を見つけてはテンションを上げて、ダンスの夢は二の次にしている自分がいるのは否定できない。
みちるは続けて「あんたはいつも楽しそうだけど、男の人からの誘いを断るだけじゃ新しいチャンスも狭まるかもよ? もちろん無理はしなくてもいいんだけど」と付け加える。
しおりは「うーん…可愛い女の子と一緒のほうが楽しいんだもん」と口をとがらせるが、心のどこかで「まさにそのとおりだ」とも思っていた。
「大事なのは、好きなものにちゃんと向き合うことじゃない?」
みちるが小さく笑って最後にそう言うと、しおりはノートにペンを走らせるように頭の中でその言葉を刻み込む。
確かに、可愛い女の子にうつつを抜かしてばかりいられない。
ダンスも含め、本当に欲しいものに正直になるには、それなりの覚悟が要るのだろう。
ただ、ふわふわした気持ちを抑えきれないのも事実で、しおりは飲みきれずに残ったベリーソーダを見つめながら小さくため息をつく。
「私、どうしたらいいんだろうね…」
その問いかけに、みちるは笑いながら「ま、じっくり考えなよ。 あんたの良いところは行動力なんだから」と軽く肩を叩く。
その言葉は、将来への一歩を踏み出すための扉をそっと示しているようにも思えた。