「仲間の叱咤と抱擁 再挑戦への一筋の光」
アパートの玄関ドアがどんどんとノックされる音で、真中しおりは布団の中で身を縮めた。
「しおり、開けなさい!」
鼻にかかった少し低めの声が響く。
星川らんの声だとわかると、しおりは「ああ、どうしよう…」と目をぎゅっと閉じた。
しかしそのドアは遠慮なく開かれ、バタバタとハイヒールの足音が部屋に入り込む。 「鍵はかけときなさいよ。あんた、一人暮らしなんだから」
そう言いながら入ってきたらんは、散らかった室内を一瞥し、大きくため息をつく。 「まったく、いつもなら男なんか目に入らないでしょ。どうしてこんな時だけ逃げるのよ?」
言葉こそ厳しいが、その表情にはどこか心配そうな色が浮かんでいる。
しおりは布団の中で「逃げてるわけじゃ…」と小さくつぶやくが、声にならない。 らんは容赦なく布団を引っぱり、しおりの顔を無理やり外に出す。
「全然説得力ないわ。あんたが好きなのは女の子でしょうが。だったら、そんな簡単に夢捨てちゃダメでしょ」
投げやりな口調だが、その目はいつものように強い光を放っている。
しおりは思わずまぶしさを感じながら、「でも…あたし、男性が苦手で…やっぱり無理なんだよ…」としぼり出すように言う。
するとらんは「男が苦手ってのは昔から知ってる。あんただけじゃなくて、世の中にはいろんな人がいるんだから。それでもダンスを続けてきたのは、誰?」
低い声でゆっくりと問いかける。
その問いに、しおりは何も言えなくなる。
そこへ追いかけるように熊野みちるが姿を現わす。
玄関の隙間から顔をのぞかせ、「ごめん、らんさんが無理やり入ってくって言うから止められなくて…」とおずおず入ってくる。
「しおり、あたしも入っていい?」と靴を脱ぎながら部屋の中へ進むと、散らばった衣類や雑誌を見て「うわぁ」と驚いたように声を上げた。
そして布団の脇にしゃがみこみ、「大丈夫?ごはん、ちゃんと食べてる?」と優しい目を向ける。
しおりは視線をそらしたまま、「…食欲なくて」と答えるのがやっとだった。
みちるは小さくため息をつきながら、「心配したんだよ。あたしもらんさんも、まどかさんも」と続ける。
「まどか…ちゃん?」
その名前が出た瞬間、しおりは少しだけ顔を上げた。
その反応を見逃さなかったらんが、「ほら、あんた結局あの子のこと好きなんでしょう。だったら連絡くらい返してあげなさいよ」と背中をぐいと押す。
しおりは布団を握ったまま、唇をかみしめる。
「でも、あたしが勝手に八つ当たりして…。アイドルなんて無理だって…」
言い訳のようにつぶやくと、みちるが穏やかに首を振る。
「男の人が多い現場が怖いのは、前から知ってる。でもあんたには女の子の仲間がいるじゃない。あたしもいるし、らんさんもいる。それにまどかさんは、しおりのために全力で動いてくれるって言ってたじゃん」
その言葉に、しおりの胸はじわりと熱くなる。
そのとき、玄関からもうひとつの足音が聞こえた。
焦るように飛び込んできたのは葉月まどかで、息を切らしながら「しおりさん…!」と声を上げる。
「ごめんなさい、迷惑かけるかもってわかってたけど、どうしても顔が見たくて。大丈夫?」
目尻に涙をたたえながらまどかが近づくと、しおりは胸が痛くなる。
あれだけ辛い言葉をぶつけた相手に、まどかはまだ優しいまなざしをくれるのだ。 「こっちこそ、ごめん。男性苦手で無理させたわけじゃないのに…あたし、自分ばっかりで」
涙ぐむしおりに、まどかはそっと腕を伸ばして抱きしめる。
「あなたが怖いなら、ずっと隣にいる。私だって女の子だし。だから大丈夫。いっしょに乗り越えましょう?」
その言葉に、しおりは思わず目頭が熱くなる。
「まどかちゃん…」と声を震わせ、そっとその背中に手を回した。
らんは腕を組んで笑い、「ほら、何くじけてんのよ。あんたがやりたいなら、腹決めなさい」とバシッとしおりの背を叩く。
みちるも笑顔でうなずき、「私たち、ずっと応援してるよ」と背中を押す。
しおりは涙をぬぐいながら、布団から抜け出して立ち上がる。
「もう一度…もう一度頑張ってみたい。男性に慣れるのは難しいかもだけど、それでもやりたいんだ。ダンスも、アイドルも、みんなと一緒にやりたい」
心に生まれた新しい光を感じつつ、しおりはまどかの手をそっと握る。
「ごめんね、逃げてばかりで。あたし、もう一度挑戦したい…!」
その瞬間、部屋の空気が少しだけ明るく変わったように感じた。




