本戦
ラランが入場すると、鉄格子がゆっくりと閉じた。
司会者がラランとハイベルの両者を観客に紹介し、
握手が行われた。
そして、
「はじめっ!」
審判の合図とともに試合がはじまった。
開始直後、ハイベルは箒に乗って宙に飛んだが、
ラランは即座に対応した。
距離をつめ、
ジャンプしても届かない高さにいるとわかると、
刀の鞘を地面につきたて踏み台にして跳んだ。
ハイベルの箒をギリギリでつかみ、
ぐるんと綱渡りのようにその上に乗った。
「降参するか?」
「し、しないわ!」
「そうか」
ラランを振り落とそうとハイベルは箒を加速する。
ラランは箒の柄をつかんでしのいだ。
そして、箒がカーブするために速度を落とした隙をつき、
刀を振った。
「なら、こうだ」
「あがっ!?」
ラランは刀の裏で、ハイベルの脳天をごんと、たたいた。
そのまま最後まで確認することなく、箒から飛び降りた。
相当な高さだったが、柔らかく、無傷で着地した。
そしてすぐにハイベルを見上げた。
対戦相手の箒は、酩酊した酔っぱらいのように、
よろよろと危なっかしく飛んでいた。
どうにか墜落はしていないが、
高度は少しずつ下がっている。
「受け止めてやっから、へたに飛ぶな!
落ちちまうぞ!」
ラランはハイベルの真下を走りながら叫んだ。
その叫びが届いたのか、ハイベルの箒は遅くなった。
勢いを失った紙飛行機のようにふらりと落ちてくる。
ほぼ全ての観客が一瞬、息をのんだ。
ラランは、ハイベルを見事にキャッチした。
それなりの高さから真っ逆さまに落ちてきたハイベルを、
まるで重さを感じさせずに抱きとめたのだ。
ラランはハイベルをゆっくり、立たせた。
観客席から安堵のため息と拍手がわきおこる。
ラランは、にやっと笑いかけた。
「降参するか?」
「……するわ」
ハイベルは魔女帽子を目深にかぶった。
「完敗よ」
***
大体こんな感じで、ラランは決勝まで勝ち進んだ。
準決勝を「大体こんな感じ」で済ませてもよいのか、
という話だが、実際見どころはほとんど無かった。
ラランの相手は老戦士グランハルトだったのだが、
実にあっさりと決着がついた。
試合がはじまるとラランが間合いをつめ、
モンゼルの時と同じように老戦士の兜を斬った。
それで終わりだった。
老戦士は負けを認め、ラランは勝利した。
老戦士の敗因は何だったのか?
ラランの方が間合いが広かったことが、
敗因だと言うことはできるだろう。
観客や司会者は実際そう口にしてうなずいていた。
しかし、当の老戦士は違った。
武器のせいなどではない。
もっと根本的に実力に差があったのだと、
老戦士は冷静に分析していた。
経験豊富だとおもっていた自分が、
まるで素人に思えるほどの差があったのだと。
グランハルトは意気揚々去っていく青年の後ろ姿を、
見送りながら、笑った。
この年で、まだまだ目指せる高みがあるのだと知って、
悔しさとともに、心躍るような気分だった。
「やれやれ、修行のやり直しだな!」