表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/107

本戦

 ラランが入場すると、鉄格子がゆっくりと閉じた。


 司会者がラランとハイベルの両者を観客に紹介し、

 握手が行われた。

 そして、


「はじめっ!」


 審判の合図とともに試合がはじまった。

 開始直後、ハイベルは箒に乗って宙に飛んだが、

 ラランは即座に対応した。

 距離をつめ、

 ジャンプしても届かない高さにいるとわかると、

 刀のさやを地面につきたて踏み台にして跳んだ。

 ハイベルの箒をギリギリでつかみ、

 ぐるんと綱渡りのようにその上に乗った。


「降参するか?」

「し、しないわ!」

「そうか」


 ラランを振り落とそうとハイベルは箒を加速する。

 ラランは箒の柄をつかんでしのいだ。

 そして、箒がカーブするために速度を落とした隙をつき、

 刀を振った。


「なら、こうだ」

「あがっ!?」


 ラランは刀の裏で、ハイベルの脳天をごんと、たたいた。

 そのまま最後まで確認することなく、箒から飛び降りた。

 相当な高さだったが、柔らかく、無傷で着地した。

 そしてすぐにハイベルを見上げた。

 対戦相手の箒は、酩酊した酔っぱらいのように、

 よろよろと危なっかしく飛んでいた。

 どうにか墜落はしていないが、

 高度は少しずつ下がっている。


「受け止めてやっから、へたに飛ぶな!

 落ちちまうぞ!」


 ラランはハイベルの真下を走りながら叫んだ。

 その叫びが届いたのか、ハイベルの箒は遅くなった。

 勢いを失った紙飛行機のようにふらりと落ちてくる。

 ほぼ全ての観客が一瞬、息をのんだ。


 ラランは、ハイベルを見事にキャッチした。

 それなりの高さから真っ逆さまに落ちてきたハイベルを、

 まるで重さを感じさせずに抱きとめたのだ。


 ラランはハイベルをゆっくり、立たせた。

 観客席から安堵のため息と拍手がわきおこる。

 ラランは、にやっと笑いかけた。


「降参するか?」

「……するわ」


 ハイベルは魔女帽子を目深にかぶった。


「完敗よ」



 ***



 大体こんな感じで、ラランは決勝まで勝ち進んだ。


 準決勝を「大体こんな感じ」で済ませてもよいのか、

 という話だが、実際見どころはほとんど無かった。

 ラランの相手は老戦士グランハルトだったのだが、

 実にあっさりと決着がついた。


 試合がはじまるとラランが間合いをつめ、

 モンゼルの時と同じように老戦士の兜を斬った。

 それで終わりだった。

 老戦士は負けを認め、ラランは勝利した。


 老戦士の敗因は何だったのか?

 ラランの方が間合いが広かったことが、

 敗因だと言うことはできるだろう。

 観客や司会者は実際そう口にしてうなずいていた。

 しかし、当の老戦士は違った。

 武器のせいなどではない。

 もっと根本的に実力に差があったのだと、

 老戦士は冷静に分析していた。

 経験豊富だとおもっていた自分が、

 まるで素人に思えるほどの差があったのだと。


 グランハルトは意気揚々去っていく青年の後ろ姿を、

 見送りながら、笑った。

 この年で、まだまだ目指せる高みがあるのだと知って、

 悔しさとともに、心躍るような気分だった。


「やれやれ、修行のやり直しだな!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ