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地下牢

 王城の地下深く。

 ランプがなければ一切の光がささない場所に、

 その地下牢はあった。

 どこかで風が吹いているのか、

 コオオオオ、という音が遠くから聞こえてくる。

 その音の響きから天井が非常に高いことがわかる。


 そんな暗い廊下を兵士たちは担架を担いで歩いていた。

 担架には、アリエス、ディーノ、ミアが乗せられている。

 三人ともまだ魔法で石にされたままのようだった。

 兵士たちの足音が甲高くひびく。


 ファルは彼らの後ろを足音を殺してついていった。

 靴は脱いでいる。

 素足でふれる石は泣きだしたいほど冷たかった。

 彼らの持つランプの明かりの外を、

 悟られないようついていった。

 ファルはランプを持ってきていない。

 その明かりを見失ったら、

 もう地上には戻れないだろう。

 そう確信できるほどには、複雑な道のりだった。


「あった。ここだ、ここだ」


 兵士たちのリーダーらしき男が、

 ほっとしたような声で言った。

 彼らにとってもこんな暗い地下はごめんなのだろう。


 ファルはすぐそばに扉の開いていた牢屋をみつけ、

 身を隠した。

 入口から顔だけ出して、彼らの様子をうかがう。


「そっと運べよ。そっと、そっとだぞ……」

「ちょっとくらい割れちゃっても、

 バレないんじゃないですか?」

「バレるバレない以前に割れないほうがいいだろうが」

「でも、この人たち、もう元には戻らないんじゃあ……。

 誰も元に戻ってないじゃないですか」

「……。

 それでも……、いつか、誰かが、

 彼らを元に戻すかもしれない」

「何年後ですか、それ……」

「さあな。百年後か、二百年後か……」

「気の遠くなる話ですねえ」

「いや、もしかしたら明日かもしれないぞ。

 さっき逃げた小僧が戻ってきたりしてな」

「そんなことありますかねえ」

「とにかく、そのときに彼らが元に戻れない、

 なんてことになったら嫌だろ?

 人殺しとおんなじだからな、そりゃあ」

「……そうっすね」

「ほら、しっかり持て、そこ」

「はい」


 兵士たちはそれからもぶつくさ言いながら、

 石像と化したアリエスたちを牢屋の中におろした。


「ふう、これでよし。戻るぞ」


 おっと、とファルは顔をひっこめた。

 兵士たちが戻ってくる。

 この牢屋の奥にひっこんで―――。


 ……と、動こうとしたファルの足元に、

 何かがひっかかった。

 ファルは振りかえってそれを見た。

 ランプの明かりは直接届いていない。

 それでも、暗闇になれたファルの目には、

 それが何かすぐに分かった。


 人間だった。

 アリエスたちと同じく、石像と化した人間だ。

 それが床に転がっていた。

 いくつも。

 いくつも、いくつも。

 どれも、目をかっと見開いている。

 その表情は明確な敵意をたたえていた。


 ファルはおもわず、「ひいっ」と息をのんだ。


 ランプが揺れる音がした。


「なんだ?」

「……そこの牢じゃないか?」


 ランプが牢の中を照らす。

 牢の中には人の形をした石像ばかり並んでいた。

 どれもこれも目を見開いている。


 水滴がぽたりと天井から垂れてきた。

 兵士たちは水滴をみつめて言った。


「……これですかね」

「の、ようだな。問題なし。行くぞ」


 ランプの明かりが遠ざかっていく。

 牢屋が暗くなり、

 奥の「石像」の一つがぱちりと瞬きをした。

 止めていた呼吸を再開し、手足を動かす。

 兵士たちが戻ってこないことを確認すると、

 素早く隣の部屋に移動した。


 暗い。

 アリエスたちの石像があるはずだが、

 どこに石像があるかもわからなかった。


火よ(アウタ)私の雛鳥よ(ノクト)生まれいでよ(クァレクト)


 ファルは小声で呪文を唱え、指先に火を灯した。

 ここ数日で何度使ったかわからない。

 ずいぶんと上達していた。


 この牢にも隣と同じく、

 たくさんの石像が横たえられていた。

 その中にアリエスとクィナの石像を見つけた。


「アリエス、クィナ……。

 待ってて、必ず戻ってくるから。

 絶対、元に戻して見せるから。

 待っててね」


 ファルは顔をあげると、急いで兵士たちを追いかけた。

 はぐれると地上に戻れなくなる。

 ファルは走りながら、

 この地下牢の場所を頭の中の地図に必死に書き留めた。

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