トーナメント
ラランとアリエスがコロシアムにやってくると、
すでに大勢の観戦希望者が行列をつくっていた。
「すごい人だね」
「ああ。おれ達の雄姿を見せつけてやろうぜ!」
「ふふ、そうだね」
二人は人混みをかきわけてコロシアムの入り口に近づき、
「出場者はこちらでーす」と、
声をはりあげている男に声をかけて、
コロシアムの中に入った。
通路をすすむと、
石をくりぬいて作ったような小さな部屋へ通された。
すでに二人以外の出場者は全員集まっていた。
「遅刻よ」魔女っぽい格好の女がいった。
「二人して一緒に来るなんて。
いったい何していたのかしらね?」
「悪い。メシ食って、話してたら、遅れちまった」
「あら、本当に一緒にいたの?」
驚いたのは魔女の方だった。
「皮肉のつもりだったのに」
「皮肉? なんだそれ?」
「いえ、いいわ」
「だから、なんだよ、皮肉って。うまいのか?」
「ごめんなさい。私が悪かったわ……」
「いや、そうじゃねえよ、皮肉ってのは―――」
「ララン、やめてあげてよ。かわいそうだから」
「なんだよ……。知りてえだけなのに」
ラランがむすっと腕組みをするのと同時に、
英雄祭の関係者が入ってきた。
対戦相手を決めるくじ引きがおこなわれ、
空白のトーナメント表に書きこまれた。
組み合わせは、こうなった。
①ララン
②ハイベル
③グランハルト
④レオノア
⑤モズ
⑥リゼル
⑦ハットリ
⑧アリエス
「へえ!」ラランが嬉しそうに叫んだ。
「おれが一番手か!」
「よろしくね、坊や」さっきの魔女が言った。
「わたしがハイベルよ。
あなた世間知らずみたいだから優しくしてあげるわ」
「おう、あんたがハイベルだったのか! よろしくな!」
「あなた、本当に元気ねえ」
「あんがとよ!」
「……あのね、褒めたわけじゃないのよ?」
***
「さあ、みなさん! お待たせしました!
英雄祭の開幕です!」
コロシアムに押し寄せた数千人の観客の拍手が鳴り響く。
その轟音が鳴りやむと、司会者が声を張り上げた。
はるか昔、魔王を倒した英雄を讃えるための大会、
という歴史を語っているらしい。
ラランは通路でそれを聞いていた。
観客たちの期待にみちた声を。
司会者の語る短い英雄譚を。
音の洪水に飲まれそうになりながら、
胸を高鳴らせていた。
通路の先は、鉄格子でふさがれている。
開いたら入場だと言われていた。
あたかも、サーカスの猛獣にでもなったような気分だ。
悪くない。
ちっとも悪くない。
胸の奥底でふつふつと煮えるような興奮が沸き上がる。
ラランが通路で一人にやにやと笑っていると、
がしゃ、と金属音がした。
振り返るとアリエスが立っていた。
「どうして笑ってるの?」
「楽しいんだよ。楽しくてたまらない」
「なにが?」
「さあな。わかんねえ」
そのとき、鉄格子がガラガラガラと、
地響きをたてて、上がった。
ラランは両手を叩き、身体を叩き、顔を叩いた。
「よっしゃ! 一丁やるかあ!」
「がんばって」
「おう!」
ラランは片手をあげ、笑顔で入場していった。