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魔王の力

 突き抜けるほど高い天井に、

 巨大なシャンデリアがぶら下がっている。

 天窓はあるが、日は出ていない。

 部屋はうす暗く、がらんとしている。

 クィナは、ふかふかの赤い絨毯を足の裏に感じながら、

 立っていた。

 ビルハイドはにやにやと笑いながら、

 玉座に頬杖をついて座っている。


「久しいな、ルークィン」

「他人の椅子でふんぞり返って楽しいのか、レーゲンス」


 クィナの問いかけに、

 ビルハイドは一瞬おどろいて目を丸くし、すぐに笑った。


「ああ、懐かしいな。それでこそ我らが魔王様だ」

「お前にそう呼ばれても嬉しくないな」

「ははは。そう言うな、ルークィン」


 ビルハイドはなだめるように大きな手を動かした。


 ビルハイドは全体的に大きな男だった。

 顔も体格も大きい。

 鼻も目も口も耳も大きかった。

 やせてもいない。

 クィナのように千年以上生きているはずだが、

 老人のような見た目ではない。

 おおよそ五十代後半くらいにみえた。

 目はぎらぎらと光って見えた。


「ルークィン、お前、どうして封印を壊す気になった?

 千年も引きこもってたじゃないか。

 そんなにお姫様が可哀そうだったのか?」


 ビルハイドがあざけるように言った。


「お前と同じで、

 俺に騙くらかされた小娘に同情したのかよ?」

「違う。お前が生きていると知ったからだ。

 知っていたら、自分で自分を封印などしなかった」

「それはそれは。俺もずいぶん愛されたもんだな」

「せいぜいそうやって笑っているがいい」

「くくく……。それで?

 いつになった目にもの見せてくれるんだ?

 そうやってハッタリかましてるのも結構だが、

 ハリボテだと割れてる演技は寒々しいもんだぜ」

「この結界は大したものだな。お前が作ったのか?」

「……いや」


 ビルハイドははぐらかされて、露骨に不機嫌そうだった。

 はぐらかされたことそのものではなく、

 その質問が気に入らなかったのだ。


「この結界は、ミアの作ったものだ」


 そっけなく、それだけ言った。

 クィナはにやりと、ここに来て初めて笑った。


「そうかそうか。あの四天王の作品か。

 そうだろうな。実に丁寧だ。

 お前ではないだろうと思ってた」

「ふん。せいぜい今のうちに負け惜しみをいうがいい。

 魔法が使えないのは変わらん……。ガドン」

「はっ」


 ずっとひざまずき、頭を垂れ続けていたガドンは、

 すぐに返事をした。


「ルークィンを押さえてろ。

 子供でも、暴れられてはかなわん。服が汚れる」

「御意」


 ガドンが近づいてくる。

 クィナは為すがまま、押さえつけられた。

 頭を床にこすりつけられる。

 斜めになった床に、ビルハイドの靴が見えた。


「かつての主君が床にはいつくばっているというのは、

 いい眺めだな」

「さっさとしろ。首を痛めそうだ」

「ふん」


 ビルハイドはクィナの頭を踏んだ。

 まるで靴の裏のごみをなすりつけるように、

 ぐりぐりと押し付ける。


「いつまで魔王のつもりでいるんだ?

 ままごとを本気にするなよ。哀れだぞ。

 もうお前は俺に踏まれるだけの、ただの子供だ」

「……」

「おお、これじゃあ言い返せないか。すまんすまん」


 ビルハイドはクィナの頭から足をあげた。

 クィナは、ぺっと唾を吐いた。

 唾はビルハイドの靴には届かなかったが、

 ビルハイドは不快そうに眉をひそめた。

 それを見透かしたかのようにクィナがせせら笑う。


「ままごとか。そりゃ自分のことだろ、レーゲンス。

 自分で言ってて、気づかないのか?」

「いい加減にしろよ、ルークィン。

 魔王の力がなければ、お前などただの子供だ!」


 ビルハイドはクィナの背中に手を押し付けた。

 巨大な宝石のついた指輪が食いこむ。

 手が背中にめりこんで身体の中に入った。

 クィナは内臓をまさぐられるような不快感を必死で耐え、

 一声も上げなかった。


 しばらくしてビルハイドは手を引き抜いた。

 握っていた手を開く。

 なにも無い。

 ビルハイドはいぶかしげに眉をひそめた。


「どこだ?」


 怒りと焦りが声ににじんでいた。


「お前の力はどこだ? どこへやった!」

「クィナの中には、無いぞ」


 クィナは頭をふせたまま、こたえた。

 しかし、にやにやと楽しそうに笑っているのが、

 声だけでもわかった。


「なにもかも思い通りになるって信じる癖は、

 変わってないな、レーゲンス?」


 ビルハイドは拳を固く握りしめ、

 いまにもクィナに殴りかかりそうに顔をゆがめたが、

 息を吐いて肩の力をぬいた。


「……ふん。まあいい。

 こいつが持っていないとすれば……、

 ステラが持ってるということか」

「……」

「相変わらず正直だな、ルークィン?」


 ビルハイドは、にやりと引きつった笑いをうかべた。


「ガドン、下がれ」


 ビルハイドはポケットから小石をとりだし、

 クィナの目の前で砕いた。

 それは魔法だった。

 身体が石になる魔法だと気づいた瞬間、

 クィナは石像と化した。


 ビルハイドはガドンに命令した。


「例の地下牢に放りこんでおけ。

 姫が来るまではそいつも人質だ」

「はっ」


 ガドンは返事をして、頭を下げたまま、

 石像になったクィナを連れて玉座の間を後にした。


 誰もいなくなってビルハイドは、

 どさりと玉座に腰を下ろした。

 眉間に手を当ててぶつぶつと独り言をいう。


「焦るな、焦るな……。

 あと一歩、あと一歩だ。

 それでこの世界は俺の思いのままになる。

 あと一歩だ……」

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