朝
ラランは床の上に寝転がり、
窓から朝日が差しこむのを充血した目で眺めていた。
(眠れなかった……)
視線を横にむける。
ベッドの上の毛布がこんもりと盛り上がって、
ゆっくりと上下していた。
***
昨晩、部屋に入ってすぐ、二人は明かりを消して眠った。
ラランは床にシーツを敷いて横になった。
着の身着のままであるため、身支度などはなく、
即座に就寝体勢に入った。
ラランが雨風をしのげる温かい宿に感謝しながら、
うつらうつらしていると、
遅れて支度を整えたアリエスがベッドに入っていった。
ラランは誘惑にまけて、薄目を開けた。
カーテンは半分開いていて、月光が差していた。
月明かりに照らされた後ろ姿のアリエスが、
視界に飛びこんでくる。
ラランは一気に目が覚めてしまった。
身内以外、ろくに女の子と触れ合ったことの無い、
齢十八の少年ラランには刺激の強すぎる光景だった。
当たり前だが、アリエスは鎧と兜を脱いでいた。
後ろ姿だけでもそうとわかる美少女がいた。
それも身体のラインが透けて見えそうな寝間着姿の……。
「おやすみ、ララン」アリエスの眠そうな声が聞こえた。
「明日はがんばろうね」
「おう。おやすみ……」
ラランは必死で、平静を装って返事をした。
元気よく高鳴る心臓の音が聞こえやしないかと、
ヒヤヒヤしながら。
しばらくして、
アリエスの規則正しい寝息が聞こえてきた。
悶々とするラランを夜に残して、
アリエスは眠りの世界へ行ってしまったのだ。
***
結局ラランは一睡もできずに朝をむかえた。
アリエスが起きたとき、彼女は小さく悲鳴をあげた。
窓から朝日が差していたことに驚いたのだ。
カーテンがちゃんと閉まっていないことに驚いたし、
日が差す前に起きて身支度を整えるつもりでもあった。
みごとにどちらも失敗したわけだ。
アリエスが起きて兜をかぶり、身支度を整えだした。
その間もラランはじっと目をつぶっていた。
アリエスに起こされるまで目は開けない、と決めていた。
さもないと、このうっかり屋はきっと、
とんでもない格好でそこにいるに違いない。
少年騎士のふりなんて、
どう逆立ちしてもできないような格好で。
しばらくしてアリエスは身支度を終えたらしかったが、
ラランを起こそうとはしなかった。
かわりに鼻歌と、暖炉に薪をならべる音が聞こえてきた。
次に火の呪文。
その次は部屋の小さなテーブルで食材を切る音だった。
どうやら朝食を作っているらしい。
ラランはアリエスが料理する音を聞いていると、
不思議と気分が落ち着いていくのを感じた。
ラランはいつのまにか眠りに落ちていた。