四匹の獣
カストルムの城壁の西側、
その上にまるでピクニックに来たような連中がいた。
シーツを広げ、そこに小さな椅子とテーブルをおき、
茶菓子と紅茶を囲んでいる。
「ニビルは上手いことやっているかのう?」
五十代くらいの初老の男が言った。
ごわごわの白髪交じりの髪を無造作に、
後ろでくくっている。
目つきはイノシシのようで、
どこを見ているのかよくわからない。
「あいつの話なんてしないで、ガドン」
濃紺のローブをまとった女が言った。
彼女は二十代後半のようにみえた。
姿勢など、全体的な雰囲気がまるで蛇のようだった。
「あんな気持ち悪いやつ、屋根から落ちればいいわ」
「そう邪見にしてやるなよ」
三十近い男は片方の眉をあげた。
この男は、どことなく犬のような顔である。
のらりくらりと生きたいと願いながらも、
自分だけで生きていく力を持ち切れず、
人の顔色をうかがいながら生きてきたような、
そんな顔だった。
「俺たち仲間じゃないか。仲良くしようぜ?」
「ディーノは、どっちに賭ける?」
「なにが」
「ニビルが屋根から落ちるか、どうか」
「人の話聞いてたか?」
「じゃあ、私は落ちない方ね」
「そんだけ言っておいて落ちない方に賭けるのかよ。
やりたい放題じゃねえか。ほらよ」
「あら、まだ決着、ついてないわよ」
「俺の負け、確定だろ。別に勝ちたくもねえ。
金がねえなら、そう言えよ」
「そ? じゃあ、遠慮なく」
「……黒獅子騎士団四天王ともあろう者が、
同輩から金をたかるとな」
初老の男はやれやれ、と首をふった。
「近頃の若いもんは、風情がない」
「これを風情がないって言うかあ……?
叔父貴はいつも言葉のチョイスが変だぞ」
「独創的でいいじゃない」
「そりゃそうかもしれねえけど―――」
「ディーノと違って、普通で没個性よりもよほどいいわ」
「お前、さては俺のこと嫌いだな?」
「ひひひ、オレは旦那のこと、好きだぜ?」
テーブルの端にかかっていた指が言った。
指のむこうからゆっくりと、
さながら日の出のように顔が現れてくる。
しかしその顔は、太陽というよりも月、
でもなくて、スッポンのようだった。
「げぇっ」ミアが汚物でもみたような声をだした。
「あんた、いきなり顔を見せないでよ。
トラウマになるじゃない」
「オレだって傷つかないわけじゃねえんだぜ、姉御ぉ」
「誰が姉御よ」
「あんた」
スッポン男がミアを指さすや否や、
ミアは男の眉間に杖を突きつけた。
次の瞬間、雷鳴のような音ともに、火の魔法が炸裂し、
火の玉が地の果てまで飛んでいった。
「ふぃ~、あぶねーあぶねー。
冗談が通じねえんだからなぁ、姉御は」
「ちっ」
「おいおい、仲間に魔法撃つのやめろよな。
当たったらシャレになんねえよ」
「当たったら、じゃないわ!
本気で当てようと、してんのよ!
だから! 避けるんじゃあ、ないわよ、ニビル!」
「ひひひ、冗談きついぜ」
「おい、だから、もう撃つなって」
ミアは会話中にさらに何度も魔法を放ったが、
ニビルには全て避けられていた。
やがてミアはあきらめて椅子にすわり、
茶菓子をわしづかみにして口に放り込んだ。
「淑女らしからぬ仕草じゃなあ」
「あんた、そんなことばっか言ってるから、
ずっとそんななのよ」
「いくらなんでも罵倒が雑過ぎるぞい、それは……」
「ふん」
「それで? 仕事はどうだった?
ステラ様は来てたのかよ?」
「来てたぜ。来てた来てた」
ニビルはテーブルの上に並べられていた三つのカップを、
「どれにしようかな」と選んで、ぐいと飲み干した。
「それは、俺のなんだが」
「でしょうねぇ」
「そう。ステラ様、来たのね」
「ええ、ええ。来ました。そう言いましたぁ」
「じゃあ、次は私の仕事ね」
ミアは眠たげに立ち上がると、
どこからか箒をとりだし、それに腰かけた。
ふらふらと、浮かんでいく。
欠伸をしながら。
「悪く思わないでよね、お姫様。
これ全部、陛下の命令なんだから」




