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よくよく鉄格子に縁がある

 ラランが目を覚ますと、真っ暗だった。


「……?」


 目を開けるが、何も見えない。

 起き上がろうとして、なんだか妙なさわり心地の枕だ、

 と気づいた。

 新感覚だ。柔らかくて、温かい。

 なんだこれは?


「ララン……、くすぐったい」

「おう、いたのか、アリエス。ここはどこだ?」


 アリエスの声はごく近くから聞こえた。

 非常に近い。手の届くほどの距離。

 少し上の方から。


 ……。

 くすぐったい?

 ラランはゆっくりと、『枕』から手を放した。

 あえて、『枕』については考えないことに、決めた。

 アリエスが咳払いして、こたえた。


「ここは、牢屋だよ。僕たち、捕まっちゃったんだ」

「ああ、そうか。そうだったな」


 ラランは捕まったことこそ、覚えていなかったが、

 検問で問題があったであろうことは覚えていた。


「クィナの分の旅券でバレたのか?」

「そ。正確なことはわかんないんだけど、

 旅券には複雑な魔法がかけてあって、

 真似してもすぐバレるようになってたみたい」

「なるほどな。ファルとクィナは?」

「おいら、ここだよ」

「クィナもいる。

 悪かった。クィナは、旅券の魔法に気づけなった」

「魔法に気づいてはいただろ。

 時間がなかったから対応できなかっただけで。

 旅券のこと忘れて検問に来ちまった、おれ達のせいだ。

 クィナのせいじゃねえよ」

「そうだな。クィナも、本当はそう思う」


 クィナのあっけらかんとした言葉に、

 ララン達は苦笑を漏らした。

 クィナは変わらないなという、

 安堵と、あきれまじりの苦笑だ。


「アリエス、おれの刀は?」

「さあね。取り上げられたまんまだよ」

「そうか。そうだろうな」

「ララン、僕も、ごめん。

 あのとき僕が君の首を回したりしなければ……」

「捕まっちまったのは、お前のせいじゃねえよ。

 ただ、まあ、その、次からは、首は回さねえでくれ。

 危ないし、怖いから……」

「うん、わかった」

「それで……、おれ達はどうなる?

 アリエスは、その……、他にバレたことはあるのか?」


 ラランは暗に「アリエスの正体がバレたのか」を、

 確認しようとした。

 ここは牢屋のようだし、真っ暗だ。

 近くに誰がいるのかわかったものではないからだ。

 アリエスが首を振った気配がした。

 おそらくは、横に。


「ううん、ないと思う。それは、これから」

「は? これから?」

「うん」

「これから、ってどういう意味だ?

 おれの言いたいこと、伝わってるのか?」

「わかるよ。

 その、僕のアイデンティティーに関わる問題でしょ?」

「ああ」

「なら、これから、で合ってる」

「? 全然わからん。

 ファルとクィナはいいのか?

 アリエスは大丈夫なのか?

 連行されるときに頭とか打ったんじゃないだろうな?」

「失敬だな」

「アリエスはどこもケガしてないよ。

 気絶したララン兄ちゃんを抱きかかえて、

 大人しく捕まったから。それも泣きなが―――」

「ファル、」


 すっと背筋が寒くなるような声で、

 アリエスはファルの名前を呼んだ。


「ウソはダメだよ」

「はい。ごめんなさい、アリエス。

 ララン兄ちゃん、いまのは全部、ウソだから」

「はあ? なんだよ、どういうことだよ?

 クィナ、何があったんだ?」

「……」


 クィナはしばらく沈黙した後、重々しくいった。


「クィナはウソをつきたくない」

「ん? ああ」

「クィナは怖いのが苦手だ。だから何も言わない」

「は? なんだ? 何を言ってるんだ。

 とんちか何かか? なんなんだ、お前ら、さっきから」


 そのとき、ぎぃ、とどこかで錆びた蝶番が軋む音がした。

 扉がひらいている。光が差しこんでいるのがみえた。

 鎧をきこんだ兵士の足音が聞こえる。

 ランプの光が近づいてくる。


「ほらよ、飯だ。ああ、そいつも、起きたのか。

 よかったな、嬢ちゃん。あんなに心配してた―――」

「ご飯ありがとうございます!」


 アリエスは兵士の言葉を大声でさえぎった。

 言葉とは裏腹に、怒気のようなものが混じっている。

 兵士は面食らった様子で、手に持っていた食事を、

 差し入れ口から中に入れた。


「じゃ、じゃあな。

 食い終わったころにまた来る」

「あ! あの、伝言、いいですか?」

「伝言、だと?」


 兵士はややおびえた様子で返事をした。

 アリエスはいつもと変わらない様子でうなずいた。

 まるで山の天気のように変わりやすい表情だ。


「ええ。お願いできますか?」

「まあ、知ってそうなやつに頼むくらいなら……」

「ありがとうございます」

「誰にあてた伝言だ?」

「領主様に」


 アリエスはにっこりと微笑んで言った。

 兵士はあんぐりと口を開いた。

 アリエスは目を見開いた。


「聞こえませんでしたか?

 領主様です。領主様まで伝言をお願いします。

『あの日クッキーをつまみぐいした非礼を、

 お詫びします』、と」

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