予選会
英雄祭の本戦は八名によるトーナメント形式である。
参加者は総勢百名近い。
その百名の中から八名を選ぶ予選会が、午後からあった。
場所はコロシアム。
参加者は八組に分けられ、
その中で戦い、勝ち残った一人が本戦へ進めるのである。
広いコロシアムだが、
さすがに審判含め百人以上の人間がひしめき合うと、
かなり狭苦しかった。
「次! ラランとモンゼル!」
「おう、おれか」
ラランは前にでた。
モンゼルという男も正面に立つ。
全身に鎧をまとい、両手剣を持った相手だった。
対して、ラランが身に着けているのはただの服。布だ。
斬られればひとたまりもない。
英雄祭では本戦予選ともに、
武器の使用が認められているうえ、
相手を殺すことも許可されている。
もちろん勝敗が決した後で殺せば失格となるが、
本人が敗北をみとめるか、審判が勝敗を宣言する前に、
殺されても文句は言えないのだ。
だからラランがモンゼルの前に立ったのをみて、
審判は驚いた。
「おい、君、わかってるのか?」
「あん?」
「相手はフルアーマーだ。
一方で君は裸も同然じゃないか。
試合になど、なりはしないよ。
悪いことは言わない。棄権したまえ」
それを聞いて、モンゼルが肩をすくめた。
「審判さんよお、そりゃねえよー。
せっかく無防備なバカを斬るチャンスだったのによー」
「ほら、やめておきたまえ。君は若い。
鎧を買ってから出直して……」
「なーに言ってんだ、おっさん」
ラランは刀を鞘のまま持ち、伸びをした。
「死ぬのが怖くてこんな大会になんか来ねえよ。
いいからさっさと始めようぜ」
「そうこなくっちゃ! いいぞ、お前!
たっぷりいたぶって殺してやるからな!」
「そりゃどうも」
「し、知らんぞ、私は!」
審判はおびえた目で手を掲げ、振り下ろした。
「はじめっ!」
ラランは動かない。
モンゼルはせせら笑った。
「威勢のわりに臆病だなあ。来ねえのか?」
「どこを斬ろうかな、と思って。リクエストあるか?
なけりゃあ、その兜、カチ割るけど」
「……っ! やってみろ!
その細い棒っきれでやれんならな!」
モンゼルはいきりたち、ラランにむかって突進した。
ラランはゆっくりと刀の向きを変える。
照準をあわせるように剣筋が、
モンゼルを正面にとらえた瞬間、
ラランは刀を抜いた。
からん、と音がして半分に割れたヘルメットが落ちた。
どたん、とモンゼルが目を丸くして尻もちをつく。
しゃん、とラランは刀を鞘におさめた。
「し、勝者! ララン!」
ラランはにやっと笑い、右腕をあげた。