一回休み
ラランが目を覚ますと、ファルと目があった。
「あ! アリエス! アリエス!
ララン、起きたよ!」
「! 本当!?」
アリエスの顔がアップで目の前に現れた。
ラランは少し血圧が上がるのを感じた。
起き上がろうとすると脇腹に差すような痛みが走った。
「わっ!? 起きちゃダメ、寝てて!
傷をいやす魔法はかけたけど、
ものすごく簡単なもので、気休めだから……」
「ララン兄ちゃん、あんなに血ィ吐いたんだから、
寝てなきゃダメだよ」
ファルが手を頭の後ろで組みながらも、
心配そうな表情で言った。
「血……? 血ィ、吐いたのか、おれ……?」
声がうまく出ない。口を動かすとたしかに血の味がした。
口の周りをこすると、
赤黒い血がすこし固まってこびりついていた。
腕が重い。
血の味が気持ち悪くて、唾を吐こうとしたが、
唾も出てこない。
「寝てて、寝てて。いいから」
アリエスが肩をそっとつかんでラランを寝かせた。
ラランは素直に横になり、ため息をついた。
「悪いな……。お前たちはケガなかったか?」
「うん。なかった。ラランのおかげだよ」
「おいらも大丈夫だ」
「そうか……」
目を薄く開けて、周りの状況を確認する。
あたりは薄暗い、森の中だ。
暗く、木々がうっそうとしているせいで、
見上げてもよくわからないが、
馬車がころがり落ちていたことを考えると、
ここはシルバ手前の谷だろう。
日が沈んで夜になっているようだ。
馬車は大破していた。
原型をとどめておらず、
あちこちに馬車だったものとおぼしき破片が、
散らばっている。
見える範囲に馬はいなかったが、確認するまでもない。
死んでしまっただろう。
明かりは……、アリエスが火を焚いている。
上から、ディーノたちから、
見つかるのではないかと思ったが、
アリエスもその辺りは気を使ったらしい。
枝や葉で簡易的なテントのようなものが組まれ、
その中で小さく火を起こしていた。
煙もほとんど出ていない。
アリエスはその中で料理を作っているようだった。
食材を切り、鍋の中に入れている。
ファルがあちこち走り回って、
焚き木にする枝や木の実をとっているようだ。
自分の身体に目をむけると、
わき腹のあたりに包帯が巻きつけてあった。
お世辞にも上手とはいえないような巻き方だった。
地面の上に直接寝かされているのではなく、
大きめの葉っぱを何枚も重ねてクッションにしてあった。
と、アリエスと目があった。
じろりとにらまれ、下を指さされた。
「寝ていろ」ということだろう。
あるいは「大人しく寝ないとお前も鍋で煮るぞ」、
という意味かもしれない。
ラランは大人しく背中を葉っぱのベッドの上に横たえた。
そこらじゅうから虫の声がする。
どこからか獣の鳴き声も聞こえてきた。
肉食獣のうなり声、とかではない。
サルかなにかが喧嘩しているような声だ。
だが、時々騒がしくなることを除けばおおむね、静かだ。
アリエスが火に薪をくべている。
ファルの足音があっちこっちから聞こえてくる。
ラランは目を閉じた。
正直まぶたはずっと重かった。
起きていないといけないと思っていたが、
そう思っているのはどうやら自分だけのようだ。
怖い怖いリーダーにこれ以上にらまれる前に、
自分から眠ってしまおう……。




