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放火魔の見物

「追撃は? しないの?」


 馬車が谷底へ転がり落ちていくのを見届けて、

 女が言った。

 ディーノは静かに首をふった。


「しなくていい」

「生きてるかもよ」

「かもな」

「ふーん」


 女は指を鳴らして杖をしまった。

 杖は、霧か煙のようにどこへともなく消えた。

 代わりに煙管キセルをとりだして火をつける。


「気に入ったんだ、あの子……。ラランだっけ?」

「聞いてたのか、ミア?」

「聞いたわ。誰が引きこもりよ」

「違うのか?」


 ミアと呼ばれた女はぷーっと煙を吐いた。

 ディーノにむかって。

 ディーノが軽くむせているのを見て愉快そうに微笑む。


「違わないわ」

「じゃあ、いいじゃねえか」

「よくないわ。他人に言われると気分がよくないの。

 それがよーくわかったわ」

「そりゃよかったな」

「ふん!」

「あいてっ!」


 ミアに向こうずねを蹴とばされ、

 ディーノは足を抱えて片足で跳んだ。


「いってえな!」

「それで? これからどうするの?

 吊り橋、落ちちゃったけど」


 ミアは煙管で谷をさした。

 千切れた吊り橋が対岸にぶら下がっている。


 ここで、ララン達に二人が何をしたのかを、

 説明しておく。

 御者は、グルである。

 前の街で二人は御者の弱みをにぎり、脅して買収した。

 アリエスたちの進路は王都のはずだ。

 王都へ進むなら、シルバへと進むのが最短であり、

 そのためには馬車に乗るはずだった。

 そこでララン達が乗りこむのに合わせて、

 二人も乗りこみ、馬車にこの谷の吊り橋を渡らせた。

 この吊り橋は馬車が通れるような頑丈なものではない。

 腐りかけた木切れと頼りないロープでできた橋である。

 通常、馬車はこの手前の駅で折り返すのだが、

 二人が強引にわたらせたのだ。


 当然橋は耐え切れず壊れる。

 結果、目論見通りに馬車は谷底に転落した。

 ばらばらになった破片が、

 谷底の森の木々に引っかかっているのがちらほら見える。

 ただ、ララン達の姿は見えなかった。

 ちなみに御者は無事である。

 ミアの魔法で安全圏に逃がされていた。


「だ、旦那がたぁ……」

「ああ。ほら、残りの報酬だ」

「お、おお……」


 御者は青い顔だったが、

 それを受けとって沸き上がるような笑みを浮かべた。

 御者として十年働いても得られないような大金を、

 手にしたのだから無理もないだろう。

 まだ何か言いたげな顔をしていたが、

 ディーノがにらむとそそくさと街へ帰っていった。


「いい気なもんだ」

「あなたがやらせたんでしょう?」

「俺一人のせいかよ」

「はいはい、あたしも共犯よ」

「何が言いたい?」

「……」


 ミアはすぐに返事をしなかった。

 ふーっと、煙のかたまりをはく。


「……別に。

 あたしもこんな真似、好きじゃないってことよ」

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